上 下
154 / 259
影のセカイ

THE SAViOURS FROM HELL#1

しおりを挟む
────アカネ=イチジョウ(ヒューマノイド、イサナミ自治区、月影つきかげ・師範)


 お祖母様から、大切なお客様が見えられるので、イチジョウのお屋敷は完全に人払いし周辺の警護を言付かった。


 ラフィノス公国の女王直属の要人で、とても高貴な方らしい。

 限りなく御忍びに近い来訪のため、立ち会えるのはお祖母様だけだった。

 来訪の目的は、ユキナとの面会だ。
 その要人が、清鳴シンメイに到達したユキナと話をしてみたかったのが理由らしい。

 ラフィノス公国とは友好関係にあるが、航空機や船舶の出入は厳しく管理されていた。
 しかし、今回の客人は、小型の飛空挺を、人払いされたイチジョウのお屋敷の敷地内に、直接着陸させることになっているのだ。
 以前、ラフィノス公国の女王が来訪されたときでも、これほどの特別扱いはしなかった。
 つまり、その要人はそれ以上の権威を持っていることになる。
 しかも、最高評議会によって、この件についての詮索や質問、他言は禁止されており知りたくても何もできない状況だ。


 飛空挺から若い女性が2名、イチジョウのお屋敷に入るのを見かけた。
 お祖母様は深々とお辞儀じぎをして、完全に相手が目上の対応をしていた。
 
 二人の女性は、2時間ほど滞在したのち、飛空挺に戻り、イサナミを後にした。

 お祖母様から警戒態勢と人払いの解除が許可されたので、ほっとしてイチジョウのお屋敷に戻り、一息つこうと、居間に戻った時、驚いて思わず大きな声を上げてしまった。

 私の声を聞きつけ、姉や、母、カツラが駆けつけてきたが、私が見た光景をみて、皆、同じように大きな声を上げた。

 なぜなら、ほんの2時間前までろくに体を動かすの事もできなかった、ユキナが、居間でお茶を飲み、普通にくつろいでいたからだ。

 しかし、ユキナの体が回復した理由は、最高評議会のメンバーしか知ることができないらしい。

 ただ、一つわかったことは、ユキナの体の特性が無明相むみょうそうから月影つきかげに変化していたことだけだ。

 
 ……


 最近のユキナは、急激な体型の変化と、体の適正の変化にかなり戸惑っている。
 すこし気をぬくと、普通に何もないところをあるいていても、転ぶのだ。

 ちょっとした萌え属性が追加されてしまった。

 しかし、お祖母様のお話では、少し経てば体の変化に慣れ、転ばなくなるだろうとのことだった。

 少し残念だ。

 ユキナの気流は、見とれてしまうほど美しく、どの月影つきかげよりも月影つきかげらしかった。

 ユキナ自身は、月詠つくよみの恵まれ過ぎている肉体に慣れていたため、とても不自由そうにしているが、月影つきかげ使いの私から見れば、贅沢なくらい美しい気流をまとっていた。

 体の変化に慣れるまでは、気流操作も含めた全ての修練が禁止されていたため、屋敷の居間で、自堕落な生活に溺れている。本を読んだり、テレビをみたり、おしゃべりをしたりといった感じだ。

 転ぶと危ないので、トイレとお風呂と散歩は、誰かが付き添うように言付かっている。

 日中は、いつもお祖母様と一緒に過ごしているようだ。

 カツラが屋敷にいる時は、ユキナにべったり張り付いて離れないので、へんなことをしないように監視をする役目は、私に任されている。


 月影つきかげの山は、当面、入山制限がかけられ、とくにイチジョウのお屋敷は、イチジョウ家とカツラ以外の出入りはできないようになっている。

 お祖母様が、帰国したユキヒラをユキナに近づけさせないようにしているのだろう。
 
 先日もユキヒラと、お目付役のキサが訪問したが、山のふもとで、門前払いを受けていた。

 その時にユキヒラが守衛をあおるような真似をしたらしく、キサにお仕置きされたようだ。

 ユキヒラはまだキサには敵わないらしい。
 キサには敵わないということは、カツラと私にも敵わないだろう。

 でも、ユキヒラは月詠つくよみというとても希少で恵まれた体を持っているので、いずれはキサの手に負えなくなる。

 そうなった時、だれがユキヒラの手綱を握れるのか心配でならない。

 今の性格だと、最高評議会どころか、元老院や評議会にも入れないため、イサナミ宗家そうけの一人息子となった今、ユキヒラの今後が心配だ。

 アケチ家は、ナリヒラ叔父様の二人の弟の家庭もあるが、いずれも幼少の女の子しかいないため、何世代にもわたり総帥を輩出し続けてきた名門のアケチ家は、イサナミ宗家そうけ筆頭の座を危惧されている状況だ。

 次期総帥は、弟のムネノリ叔父様がつとめ、その次は、末弟のトシヨシ叔父様だろう。しかし、その次を引き継げる人材が育っていないのだ。

 ユキヒラも承知の上で頑張っているようだが、周囲からの評判がわるいため、アケチ家の最大の後ろ盾となっている影衆かげしゅうである九尾きゅうび衆が、別の家門に乗り換えるのではないかと噂されているほどだ。

 アケチ家の対抗と目されているイズナ家は、九尾きゅうび衆に接近しはじめているらしい。

 イズナ家は諸外国の植民地化政策を掲げている家門の一つなので、お祖母様はとても心配されている。

 九尾きゅうび衆が、ユキヒラを見限った時、イサナミの外交政策が大きく変わる可能性があるのだ。

 戦争に明け暮れる日々が、イサナミに訪れないで欲しいと思っている。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...