75 / 259
リインカーネーション
THE MOCK EMOTiON#2
しおりを挟む
────フラガ=ラ=ハ(人狼ガルダーガ種、隠者、ガルダーガ族・最長老)
私が、ククリという少女を引き取った時、彼女の心は既に壊れていた。
ルガルの言葉を発することも理解することもできず、殺戮しか考えられない狡猾な獣と化していたのだ。周囲からは〝血の獣〟と呼ばれ、ガルダーガ族の歴史に名を刻むほどの問題児になっていた。
ククリの両親はシルバーリングだった。
彼女は幼子の時から殺戮機械として英才教育を施された。
しかし不運にも、彼女の両親は任務で亡くなってしまった。
その後、彼女はヨトゥンヘイムのスラム街に住んでいた親戚に引き取られ、虐待と最底辺の生活を強いられた。彼女を引き取った親戚は、家に押し入った暴漢に殺害されたが、ククリはその暴漢を返り討ちにし、動かなくなってもひたすら爪で切りつけ、守衛隊が彼女の部屋にはいったときは、その部屋は血と肉片の海になっていたそうだ。
さらにその後、ククリは別のスラム街で遠い親戚に預けられた。
そこで待っていたのも虐待と最底辺の生活だ。
程なく彼女は、その一家を皆殺しにし、住むところを決めず、殺戮と強盗を繰り返す日々を送るようになった。
彼女に殺された者の中には、守衛隊や兵士も含まれていた。
ククリは指名手配され、ヨトゥンヘイムの兵士に追われ続けた。
しかし、彼女は多くの追っ手を易々と殺害し、逃げ延び、捕獲は困難を極めた。
だが、一人の退役したシルバーリングによって、ようやく事態は収拾した。
その退役したシルバーリングが、私、フラガ=ラ=ハだった。
私は、彼女の両親をよく知っていた。
私が現役だったころに、二人を指導していたからだ。
こんなことになるのであれば、彼女の両親が亡くなった時、私が引き取ればよかったととても後悔した。
ガルダーガ族は彼女の極刑を求めたが、私が彼女の保護者となることを条件に、彼女の執行猶予の恩赦を得ることができた。
ククリとの生活はとても大変だった。
何かを解決するためには、まず相手を殺すことを最初に考えていたからだ。
私が元シルバーリングでなければ初日に殺されていただろう。
常識を理解させるのに1000年以上の時間が必要だった。
それでも、彼女の心の奥底は冷たく堅牢な漆黒の氷で固められていた。
私は、ククリを医学の道へと導くことにした。
命を守り、救うことの大切さを理解させるためだった。
彼女はとても聡明で、成長は著しかった。
しかし、執行猶予期間が残っていたため、私の住居の敷地から出すことはできなかったので、すぐには先進医療を学べる宮廷医師育成機関に通わせることはできなかった。
そのため、執行猶予期間が終わるまで、私が知る、殺すこと以外の全てのことを教え込んだ。
宮廷医師育成機関に入所した時、彼女は良識と愛情を備えた立派な人狼へと成長していた。
しかし、彼女の心の奥底の冷たく堅牢な漆黒の氷を、全て溶かしきることはできなかった。
それが私の生涯唯一の心残りである。
私は、彼女の心を完全に解き放つ良き出会いがあることを切に願った。
私が、ククリという少女を引き取った時、彼女の心は既に壊れていた。
ルガルの言葉を発することも理解することもできず、殺戮しか考えられない狡猾な獣と化していたのだ。周囲からは〝血の獣〟と呼ばれ、ガルダーガ族の歴史に名を刻むほどの問題児になっていた。
ククリの両親はシルバーリングだった。
彼女は幼子の時から殺戮機械として英才教育を施された。
しかし不運にも、彼女の両親は任務で亡くなってしまった。
その後、彼女はヨトゥンヘイムのスラム街に住んでいた親戚に引き取られ、虐待と最底辺の生活を強いられた。彼女を引き取った親戚は、家に押し入った暴漢に殺害されたが、ククリはその暴漢を返り討ちにし、動かなくなってもひたすら爪で切りつけ、守衛隊が彼女の部屋にはいったときは、その部屋は血と肉片の海になっていたそうだ。
さらにその後、ククリは別のスラム街で遠い親戚に預けられた。
そこで待っていたのも虐待と最底辺の生活だ。
程なく彼女は、その一家を皆殺しにし、住むところを決めず、殺戮と強盗を繰り返す日々を送るようになった。
彼女に殺された者の中には、守衛隊や兵士も含まれていた。
ククリは指名手配され、ヨトゥンヘイムの兵士に追われ続けた。
しかし、彼女は多くの追っ手を易々と殺害し、逃げ延び、捕獲は困難を極めた。
だが、一人の退役したシルバーリングによって、ようやく事態は収拾した。
その退役したシルバーリングが、私、フラガ=ラ=ハだった。
私は、彼女の両親をよく知っていた。
私が現役だったころに、二人を指導していたからだ。
こんなことになるのであれば、彼女の両親が亡くなった時、私が引き取ればよかったととても後悔した。
ガルダーガ族は彼女の極刑を求めたが、私が彼女の保護者となることを条件に、彼女の執行猶予の恩赦を得ることができた。
ククリとの生活はとても大変だった。
何かを解決するためには、まず相手を殺すことを最初に考えていたからだ。
私が元シルバーリングでなければ初日に殺されていただろう。
常識を理解させるのに1000年以上の時間が必要だった。
それでも、彼女の心の奥底は冷たく堅牢な漆黒の氷で固められていた。
私は、ククリを医学の道へと導くことにした。
命を守り、救うことの大切さを理解させるためだった。
彼女はとても聡明で、成長は著しかった。
しかし、執行猶予期間が残っていたため、私の住居の敷地から出すことはできなかったので、すぐには先進医療を学べる宮廷医師育成機関に通わせることはできなかった。
そのため、執行猶予期間が終わるまで、私が知る、殺すこと以外の全てのことを教え込んだ。
宮廷医師育成機関に入所した時、彼女は良識と愛情を備えた立派な人狼へと成長していた。
しかし、彼女の心の奥底の冷たく堅牢な漆黒の氷を、全て溶かしきることはできなかった。
それが私の生涯唯一の心残りである。
私は、彼女の心を完全に解き放つ良き出会いがあることを切に願った。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
魔法のせいだからって許せるわけがない
ユウユウ
ファンタジー
私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。
すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる