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終章 迷宮都市

04 営業

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「こちらに唐揚げのおかわりをお願いします!」

「こっちには豚カツ定食を! あ、主食はパンでお願いします!」

 食堂を建てた直後に営業を求められたが、準備も下ごしらえもなしでは営業は無理ということで少し猶予をもらったのだが、早々に営業開始しておけばよかった。
 今日から営業開始となったのだが、騎士も軍人も、それに釣られた冒険者も満員御礼状態で、ひっきりなしに客が来るもんだから、猫の手も借りたいほどの忙しさになってしまった。
 帝国と王国の人間の中で料理人志望者に手伝ってもらってるし、レイジにも迷宮には行かずに手伝ってもらってるのだが、それでも目の前の客を捌くのに手いっぱいだ。
 一応、忙しくなるだろうということで、メニューは唐揚げ定食、豚カツ定食、牛ステーキ定食の三種類だけに絞って、注文は定食の注文か、メインだけの注文に限っているんだけど……全然忙しさ緩和にならなかったな。

 価格自体も定食は銀貨一枚、メインだけなら銅貨五十枚と結構な値段なのだが相応の食材でも可としているからか、それとも騎士や軍人は結構な高給取りなのか、かなりの量を注文する人が多い。
 どうも、王国では一日三食が浸透していて、ポーションを空腹を紛らわせるために飲む人間も少なくなったことで騎士なんかの身体を動かす人間の胃袋が大きくなっているようだ。
 帝国軍人はまだまだ料理に対しての興味が勝っている状態なので複数人で来て、三種類すべてを注文して分け合っているみたいだな。

「がっ! なんだよこれ!? 出られねえぞ!」

「馬鹿か! 説明されただろう食った分は金を置いていくのがルールだ」

「金なら払ったって!」

「嘘ばかり言うな! 金を払っていないから出られないのだろう!」

 あー、またこの問題か。
 王国騎士や、帝国軍人は俺に恩義があるからか、それとも元来律儀な人間が多いのかこっちで何も言わなくても、提示された料金をきちんと支払ってくれる……というか多めに支払うのでそっちで苦労しているくらいだ。
 だが、迷宮で一旗揚げようと考えている冒険者は小狡い人間がそれなりにいるようで、支払いをしない人間や料金に満たない金額を払って出ていこうという人間が少なからず出てくる。
 この食堂は神様からの贈り物ということで、きちんと対価を支払わない人間は食堂から出られないようになっている。

「お客さん、テーブルに置いてあるお金じゃ足りないよ」

 本当は俺が対応に行くべきなのだろうが、攻撃された場合に相手が危ないので、こういった時にはレイジが対応してくれることになっている。
 レイジにも神様の加護がついているが、レイジなら攻撃を避けて制圧することもたやすいということで任せている。

「あ!? ……あー、そうか勘違いしてたかな?」

「ちゃんと払ってもらえれば今回は大丈夫だけど、これ以上ごねるなら二度と食堂は利用できくなるけどそれでもいい?」

「わ、わかったよ。ちゃんと払うよ」

 開店直後に迷宮都市で幅を利かしているとかいう冒険者が来店して、金も払わずに出ていこうとした。
 当然神様の加護で、外に出られない冒険者は食堂内で暴れだし、気づけば食堂の外に不思議な力で追い出されていた。
 当然のように金目のものは食堂内に置いた状態で外に出されたその冒険者は、怒り心頭で食堂に再突入しようとしてははじき出され、攻撃しようとしてはその攻撃が跳ね返されて這う這うの体で逃げ出した。
 まあ、そんなことが朝っぱらかあったからそれを知っている人はきちんと金を支払ってくれるのだが、自分は誤魔化せると思ってる人間や、眉唾だと思ってる人間は誤魔化そうとするんだよな。

「冒険者仲間にも伝えておけよ! マサト殿の食堂ではきちんと対価を支払うようにと!」

「そうだそうだ、そもそもこのような美味な食事を提供されていて対価を支払わないという発想自体が理解不能だ!」

 まあ、誤魔化そうとしているのは冒険者だけみたいだから、当分は大丈夫だな。
 とはいえ、レイジには迷宮にも行ってもらいたいから、用心棒というか暴れだすお客さん対策もどうにかしないとな。
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