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5章 帝国
20 出国
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「まずいことになった」
開口一番リヒトがそう言いだした。
「いや、正確にはそこまでマズくもないんだが、面倒なことになった」
と、思ったらいきなり訂正してきた。
「結局、なにがあったんだ?」
「実はな、帝国内部でも西にある地方の国が独立を宣言してきたんだ」
帝国は元々小さな国だったが、魔王や魔獣との戦いの内に周囲の国が保護を求めてきて、庇護した結果大きくなったと聞いたことがある。
「西部というと迷宮都市とは反対側ってことか」
「そうだな、まあ、西部の国は元々庇護が必要だったわけじゃなくて周囲の国が帝国に属した流れで保護を求めてきた……要するに必要ないのに周囲に流されてた国だからな」
魔王は迷宮都市近辺に住んでいて、魔獣の襲来も東側や海がある北側からやってきていたので西側は比較的平和だったらしい。
だもんで、本当に保護が必要だったのは東側や北側の国で、西側の国は特に庇護は必要ない状態だったらしい。
「それがまずいこと……というか、面倒なことか」
「マサトのおかげで帝国内部の戦力は充実してきているから、馬鹿が独立するくらいは何の問題もないんだけどな……馬鹿は馬鹿ゆえに内乱……というか戦争になりそうでな」
「ん? 独立したのに戦争を仕掛けてくるのか?」
普通は独立阻止のために内乱になるか、独立成立のために内乱を仕掛けるか、という話になるのだろうけど、リヒトが言うには独立自体には問題なさそうだし。
「馬鹿だからな、おおかた帝都を占領して帝国自体を自分たちのものにしたいんだろう」
「ああ、そういう……ん? でも戦力が足りないだろ?」
西部が独立したとしても、中央、北部、東部、南部はいまだに帝国のまま……単純計算で考えても戦争できるだけの戦力にはならないだろう。
「西部にも料理に関する情報はいくらか流してるからな、それでやれると思ったんだろうよ」
「いやいや、他の地域でも料理は作られてるだろうし、彼我の戦力差が縮むわけじゃないだろ?」
確かに料理を食べれば……というか、適応するステータスが上がる食材を食べれば戦力は増強できるだろうけど、それは他の地域でも同じことだ。
しかも、帝都のある中央は俺が指導しているというのもあるが、バランスよく食事をとっている帝国軍がいるんだぞ?
「馬鹿が力を持つと増長するっていう典型なんだろうな、こっちの戦力なんか気にしてねーんだよ」
「まあ、確かに戦争になるっていうんならまずい……というか面倒だな」
確実に帝国側が勝つだろうから命の危機っていうほどではないんだろうけど、それでも対外政策の一歩目が戦争っていう選択肢の国が近くにあるのは面倒だろうな。
「っつーわけで、近日中に帝国から出て迷宮都市に行ってはどうかって話だ」
「……そんなに危険な状況なのか?」
「帝城にも軍にも西部出身の人間が複数残ってるしな、それに南部や北部の国がこれに乗じて独立を宣言しないとも言い切れない」
まあ、確かにそうか……出身地が独立したからと言っても全員が全員帝国から出ていくわけじゃないし、望まない人間を無理に追い出しても禍根の元か。
「なにをしてくるかわからないってことか」
「マサト達の能力は知っているから命の危険はないだろうが、連れていかれて向こうの国に監禁されるって恐れはあるからな」
リヒトには神様からの加護に関する話は全部してあるから、俺が死なないことや食堂云々、異界のレシピ云々についても知っている。
「まあ、状況的に有り得ないとは思うが、ゼロとは言い切れないだろうな」
「マサト達が帝国に居なければそもそもそんな無茶は出来ねーしな、迷宮都市なら帝国を進行しないと行けないからちょうどいいだろ?」
まあ、確かに王国で近辺の国を教えてもらった時に、聖王国、帝国、そして迷宮都市の三か国しか教えてもらえなかったからとりあえず次の行き先は迷宮都市のつもりだったしな。
「皇帝陛下、それならばわたくしも同行させてください!」
「却下」
「どうしてですの!」
「マサト達は軍でも精鋭をつかせるがそいつらが裏切らないとも限らねえ」
俺やレイジ、ミーナは加護があるから裏切られても問題はない……というか、多分精鋭でもレイジ一人で何とかなるレベルなんだよな。
「ですが!」
「それに引継ぎもなしにホイホイ国外に出られてもこっちが困るんだよ。戦争自体も数か月もすりゃ鎮圧できる。それから言っても遅くはねーはずだ」
ああ、これは多分、今この状況でミレーヌが国外に出ると戦争におびえて逃げ出したとか、皇帝が秘蔵っ子を国外に逃がしたとか不穏な噂が流されるのを警戒してるんだろうな。
俺たちは元々客分だから、戦争になるなら国外に出すのが自然だけど、皇位継承権を持つ皇女となるとまた違うからな。
「……ですが……ですが…………うー、絶対! 絶対先生たちを追って迷宮都市に行きますからね!」
「この事態が収まったら好きにしろ」
「あー、じゃあこっちは出国の準備をするよ」
「ああ、俺も跡継ぎに皇位を渡したら遊びに行くからよ」
「迷宮都市にずっといる保証はないぞ?」
「つっても数年間はかかるだろ? あそこは三か国で共同開発したとこだからな、権力があんまり通用しねーから技術を広めるのも時間がかかるだろうぜ」
ああ、聖王国みたいに権力側の協力が得られないと時間がかかるよな。
「じゃあ、楽しみに待ってるよ」
「おう!」
こんな感じで最後は慌てての出国とはなったものの、帝国での滞在は終わりを迎えた。
次は魔王がいたと言われている迷宮都市、三国で共同開発した土地らしいが、一体どんな食材があるのやら。
開口一番リヒトがそう言いだした。
「いや、正確にはそこまでマズくもないんだが、面倒なことになった」
と、思ったらいきなり訂正してきた。
「結局、なにがあったんだ?」
「実はな、帝国内部でも西にある地方の国が独立を宣言してきたんだ」
帝国は元々小さな国だったが、魔王や魔獣との戦いの内に周囲の国が保護を求めてきて、庇護した結果大きくなったと聞いたことがある。
「西部というと迷宮都市とは反対側ってことか」
「そうだな、まあ、西部の国は元々庇護が必要だったわけじゃなくて周囲の国が帝国に属した流れで保護を求めてきた……要するに必要ないのに周囲に流されてた国だからな」
魔王は迷宮都市近辺に住んでいて、魔獣の襲来も東側や海がある北側からやってきていたので西側は比較的平和だったらしい。
だもんで、本当に保護が必要だったのは東側や北側の国で、西側の国は特に庇護は必要ない状態だったらしい。
「それがまずいこと……というか、面倒なことか」
「マサトのおかげで帝国内部の戦力は充実してきているから、馬鹿が独立するくらいは何の問題もないんだけどな……馬鹿は馬鹿ゆえに内乱……というか戦争になりそうでな」
「ん? 独立したのに戦争を仕掛けてくるのか?」
普通は独立阻止のために内乱になるか、独立成立のために内乱を仕掛けるか、という話になるのだろうけど、リヒトが言うには独立自体には問題なさそうだし。
「馬鹿だからな、おおかた帝都を占領して帝国自体を自分たちのものにしたいんだろう」
「ああ、そういう……ん? でも戦力が足りないだろ?」
西部が独立したとしても、中央、北部、東部、南部はいまだに帝国のまま……単純計算で考えても戦争できるだけの戦力にはならないだろう。
「西部にも料理に関する情報はいくらか流してるからな、それでやれると思ったんだろうよ」
「いやいや、他の地域でも料理は作られてるだろうし、彼我の戦力差が縮むわけじゃないだろ?」
確かに料理を食べれば……というか、適応するステータスが上がる食材を食べれば戦力は増強できるだろうけど、それは他の地域でも同じことだ。
しかも、帝都のある中央は俺が指導しているというのもあるが、バランスよく食事をとっている帝国軍がいるんだぞ?
「馬鹿が力を持つと増長するっていう典型なんだろうな、こっちの戦力なんか気にしてねーんだよ」
「まあ、確かに戦争になるっていうんならまずい……というか面倒だな」
確実に帝国側が勝つだろうから命の危機っていうほどではないんだろうけど、それでも対外政策の一歩目が戦争っていう選択肢の国が近くにあるのは面倒だろうな。
「っつーわけで、近日中に帝国から出て迷宮都市に行ってはどうかって話だ」
「……そんなに危険な状況なのか?」
「帝城にも軍にも西部出身の人間が複数残ってるしな、それに南部や北部の国がこれに乗じて独立を宣言しないとも言い切れない」
まあ、確かにそうか……出身地が独立したからと言っても全員が全員帝国から出ていくわけじゃないし、望まない人間を無理に追い出しても禍根の元か。
「なにをしてくるかわからないってことか」
「マサト達の能力は知っているから命の危険はないだろうが、連れていかれて向こうの国に監禁されるって恐れはあるからな」
リヒトには神様からの加護に関する話は全部してあるから、俺が死なないことや食堂云々、異界のレシピ云々についても知っている。
「まあ、状況的に有り得ないとは思うが、ゼロとは言い切れないだろうな」
「マサト達が帝国に居なければそもそもそんな無茶は出来ねーしな、迷宮都市なら帝国を進行しないと行けないからちょうどいいだろ?」
まあ、確かに王国で近辺の国を教えてもらった時に、聖王国、帝国、そして迷宮都市の三か国しか教えてもらえなかったからとりあえず次の行き先は迷宮都市のつもりだったしな。
「皇帝陛下、それならばわたくしも同行させてください!」
「却下」
「どうしてですの!」
「マサト達は軍でも精鋭をつかせるがそいつらが裏切らないとも限らねえ」
俺やレイジ、ミーナは加護があるから裏切られても問題はない……というか、多分精鋭でもレイジ一人で何とかなるレベルなんだよな。
「ですが!」
「それに引継ぎもなしにホイホイ国外に出られてもこっちが困るんだよ。戦争自体も数か月もすりゃ鎮圧できる。それから言っても遅くはねーはずだ」
ああ、これは多分、今この状況でミレーヌが国外に出ると戦争におびえて逃げ出したとか、皇帝が秘蔵っ子を国外に逃がしたとか不穏な噂が流されるのを警戒してるんだろうな。
俺たちは元々客分だから、戦争になるなら国外に出すのが自然だけど、皇位継承権を持つ皇女となるとまた違うからな。
「……ですが……ですが…………うー、絶対! 絶対先生たちを追って迷宮都市に行きますからね!」
「この事態が収まったら好きにしろ」
「あー、じゃあこっちは出国の準備をするよ」
「ああ、俺も跡継ぎに皇位を渡したら遊びに行くからよ」
「迷宮都市にずっといる保証はないぞ?」
「つっても数年間はかかるだろ? あそこは三か国で共同開発したとこだからな、権力があんまり通用しねーから技術を広めるのも時間がかかるだろうぜ」
ああ、聖王国みたいに権力側の協力が得られないと時間がかかるよな。
「じゃあ、楽しみに待ってるよ」
「おう!」
こんな感じで最後は慌てての出国とはなったものの、帝国での滞在は終わりを迎えた。
次は魔王がいたと言われている迷宮都市、三国で共同開発した土地らしいが、一体どんな食材があるのやら。
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