116 / 150
5章 帝国
01 ミレーヌ・イルデガルド
しおりを挟む
帝国に入った俺たちだが、早速帝国兵……帝国では王国と違って騎士団ではなく帝国軍が組織されているらしい……に囲まれてしまった。
レイジがいるとはいえ相手は数十人からなる集団で、相手に死人が出る……神様の加護があるからこっちの心配はしてなかった……かと思ったが、彼らは俺たちと事を構えるつもりはなかったらしい。
「警戒させてしまってすみませんでした」
帝国兵の中心にいた小柄な少女が謝罪をしてくる。
彼女は兵士ではなく、帝国をまとめる皇帝の娘で今回の遠征の責任者として同行しているらしい。
「まあ、流石に兵士に囲まれたときにはびっくりしたけど、こっちに実害はなかったからいいよ。……それよりもどうしてあんな場所で待ち構えていたんだ?」
俺たちの詳しい行動は誰も知らない……俺たちですらどの村に何日滞在していつになったら次の国に向かうのかわかっていないのだから当然だ。
どんな俺たちを先回りするように兵士を展開していた事実は流石に見過ごせない。
「ウィリアム殿から話を聞いていたのですよ」
クスクスと軽く笑いながら少女は話してくれる。
ウィリアムっていうと、俺の知り合いでは王国の騎士団長、シェリルバイト領のウィリアムさんしかいないのだが……。
「ウィリアムって王国の?」
「ええ、王国のシェリルバイト伯爵の騎士団長、ウィリアム殿です」
「伯爵?」
あれ? 確か、ジョシュアさん……今は爵位を譲ってランドールさんか……は子爵だったような。
「貴方達が王国を出国した後に陞爵したそうですよ。断りは入れたそうですが、王国の食糧事情を改善した功績、王宮で専横していた貴族の失脚から断り切れなかったとか」
あっちゃー、それって明らかに俺のせいだよな。
うーん、シェリルバイトの人たちには悪いことしたかな。
「シェリルバイト家は元々子爵なのがおかしいくらいに王国に貢献している家ですから、以前から陞爵の打診はあったんですよ。ですから、そんなに罪悪感にまみれた顔をしなくても大丈夫ですよ」
やっちまった的な顔をしていた俺に少女が声をかけてくれる。
まあ、確かにイーリスとかから聞いたシェリルバイト家の歴史的な話でも結構な家柄ってことだったし、領民にも好かれていたしな。
俺のせいってことは変わらないだろうけど、王国とシェリルバイト家にとっていい方向に向かうように祈っておくか。
「そういえば、まだ自己紹介もしてなかったな。俺はマサト、なんていうかいろんな国をまわって料理の技術を教えているんだ。んで、こっちが護衛をしてくれてるレイジ、こっちが一緒に料理を教えてくれいているミーナだ」
「護衛って言うほど戦ってない気もするけど」
「マサトさんの一番弟子のミーナです」
「存じていますよ、そのあたりもウィリアム殿に聞いていますからね。わたくしはミレーヌ・イルデガルド。イルデガルド帝国の第八皇女です」
皇女様! いや、なんかお偉いさんだっていうのは周囲の雰囲気や呼び方からわかっていたが、本人の口から言われるとびっくりするな。
「ええと……あんまり学がないもんで失礼な話し方ならすみません」
この世界だと敬語とか謙譲語がどうなってるのかわからないし、そもそも俺の中の前の世界の知識でもその辺の詳しい情報はないんだよな。
「貴方たちは救国の英雄なのですから言葉遣いなど気にしなくても大丈夫ですよ」
「救国の英雄?」
「ウィリアム殿から聞いていますよ。貴方のもたらした料理のおかげで王国は救われたと。民の心身は救われ、横暴な貴族を失脚させられたと」
まあ、結果だけを切り取ればそうかもしれないが、正直自分のやってきたことをそういいようにだけ言われるとむず痒いな。
「ウィリアムさんってまだこの国にいるんですか? というよりも僕たちよりも早くこの国についてるってことは聖王国お横切ってきたんですか?」
あー、レイジの言うことも気になってたんだよな。
ランドールさんはシェリルバイト家は聖王国とは仲が悪いって言ってたから、聖王国に許可を取って横断してきたとは思えないんだよな。
というか、聖王国に入ってたのなら確実に俺たちの消息をたどって合流してきそうなもんだし。
「ウィリアム殿は迷宮都市への街道を利用して帝国にやってきたのですよ。迷宮都市周辺は強い魔獣が多く危険なのですが、ウィリアム殿単独で帝国へやってきたので、こちらもびっくりしたのですよ」
あー、なるほど。聖王国とは仲が悪いから刺激しないように三国で共同管理してる迷宮都市経由で帝国に入ってきたってことか。
「じゃあ、ウィリアムさんはまだ帝国にいるってことか?」
「いいえ、やはりシェリルバイト領での仕事もあるからと情報を共有してすぐに帰国なさいました。こちらとしても、単独での行動は危険だと言ったのですが、来れたのだから帰れるとの一点張りで」
あー、ウィリアムさんらしいって言えばらしいのかな、結構あの人脳筋なところあるからな。
とはいえ、王国の現有戦力の中ではトップに位置する人材でもあるから、多分本当に危険はないと判断しての行動なんだろうな。
「ウィリアムさんのことは分かりましたけど、本当に私たちが皇女様に対して普通の態度でいいんですか?」
「大丈夫ですよ。皇女とはいっても皇位継承権は十三位。帝国では男児が皇位を優先的に次ぐので兄弟が五人、女児だけでも上に七人もいるわたくしは帝国内ではさして重要な存在ではないのです」
「皇位継承権?」
「王様になれる権利のことだな。帝国だから皇帝かな」
王国や聖王国ではあんまり上層部に関わってこなかったけど、少なくとも十三人兄弟っていうのは多い方なんだろうな。
「帝国は周囲の小国を保護しながら大きくなった国ですので、皇妃が多いのです」
なるほどね。誤解を恐れない言い方をすれば人質、有力者の娘を帝室に差し出す代わりに保護してくれと願い出た形か。
「わたくしも母も帝室にとっては替えの利く存在。ですから貴方たちが気安く接しても問題はないのですよ」
レイジがいるとはいえ相手は数十人からなる集団で、相手に死人が出る……神様の加護があるからこっちの心配はしてなかった……かと思ったが、彼らは俺たちと事を構えるつもりはなかったらしい。
「警戒させてしまってすみませんでした」
帝国兵の中心にいた小柄な少女が謝罪をしてくる。
彼女は兵士ではなく、帝国をまとめる皇帝の娘で今回の遠征の責任者として同行しているらしい。
「まあ、流石に兵士に囲まれたときにはびっくりしたけど、こっちに実害はなかったからいいよ。……それよりもどうしてあんな場所で待ち構えていたんだ?」
俺たちの詳しい行動は誰も知らない……俺たちですらどの村に何日滞在していつになったら次の国に向かうのかわかっていないのだから当然だ。
どんな俺たちを先回りするように兵士を展開していた事実は流石に見過ごせない。
「ウィリアム殿から話を聞いていたのですよ」
クスクスと軽く笑いながら少女は話してくれる。
ウィリアムっていうと、俺の知り合いでは王国の騎士団長、シェリルバイト領のウィリアムさんしかいないのだが……。
「ウィリアムって王国の?」
「ええ、王国のシェリルバイト伯爵の騎士団長、ウィリアム殿です」
「伯爵?」
あれ? 確か、ジョシュアさん……今は爵位を譲ってランドールさんか……は子爵だったような。
「貴方達が王国を出国した後に陞爵したそうですよ。断りは入れたそうですが、王国の食糧事情を改善した功績、王宮で専横していた貴族の失脚から断り切れなかったとか」
あっちゃー、それって明らかに俺のせいだよな。
うーん、シェリルバイトの人たちには悪いことしたかな。
「シェリルバイト家は元々子爵なのがおかしいくらいに王国に貢献している家ですから、以前から陞爵の打診はあったんですよ。ですから、そんなに罪悪感にまみれた顔をしなくても大丈夫ですよ」
やっちまった的な顔をしていた俺に少女が声をかけてくれる。
まあ、確かにイーリスとかから聞いたシェリルバイト家の歴史的な話でも結構な家柄ってことだったし、領民にも好かれていたしな。
俺のせいってことは変わらないだろうけど、王国とシェリルバイト家にとっていい方向に向かうように祈っておくか。
「そういえば、まだ自己紹介もしてなかったな。俺はマサト、なんていうかいろんな国をまわって料理の技術を教えているんだ。んで、こっちが護衛をしてくれてるレイジ、こっちが一緒に料理を教えてくれいているミーナだ」
「護衛って言うほど戦ってない気もするけど」
「マサトさんの一番弟子のミーナです」
「存じていますよ、そのあたりもウィリアム殿に聞いていますからね。わたくしはミレーヌ・イルデガルド。イルデガルド帝国の第八皇女です」
皇女様! いや、なんかお偉いさんだっていうのは周囲の雰囲気や呼び方からわかっていたが、本人の口から言われるとびっくりするな。
「ええと……あんまり学がないもんで失礼な話し方ならすみません」
この世界だと敬語とか謙譲語がどうなってるのかわからないし、そもそも俺の中の前の世界の知識でもその辺の詳しい情報はないんだよな。
「貴方たちは救国の英雄なのですから言葉遣いなど気にしなくても大丈夫ですよ」
「救国の英雄?」
「ウィリアム殿から聞いていますよ。貴方のもたらした料理のおかげで王国は救われたと。民の心身は救われ、横暴な貴族を失脚させられたと」
まあ、結果だけを切り取ればそうかもしれないが、正直自分のやってきたことをそういいようにだけ言われるとむず痒いな。
「ウィリアムさんってまだこの国にいるんですか? というよりも僕たちよりも早くこの国についてるってことは聖王国お横切ってきたんですか?」
あー、レイジの言うことも気になってたんだよな。
ランドールさんはシェリルバイト家は聖王国とは仲が悪いって言ってたから、聖王国に許可を取って横断してきたとは思えないんだよな。
というか、聖王国に入ってたのなら確実に俺たちの消息をたどって合流してきそうなもんだし。
「ウィリアム殿は迷宮都市への街道を利用して帝国にやってきたのですよ。迷宮都市周辺は強い魔獣が多く危険なのですが、ウィリアム殿単独で帝国へやってきたので、こちらもびっくりしたのですよ」
あー、なるほど。聖王国とは仲が悪いから刺激しないように三国で共同管理してる迷宮都市経由で帝国に入ってきたってことか。
「じゃあ、ウィリアムさんはまだ帝国にいるってことか?」
「いいえ、やはりシェリルバイト領での仕事もあるからと情報を共有してすぐに帰国なさいました。こちらとしても、単独での行動は危険だと言ったのですが、来れたのだから帰れるとの一点張りで」
あー、ウィリアムさんらしいって言えばらしいのかな、結構あの人脳筋なところあるからな。
とはいえ、王国の現有戦力の中ではトップに位置する人材でもあるから、多分本当に危険はないと判断しての行動なんだろうな。
「ウィリアムさんのことは分かりましたけど、本当に私たちが皇女様に対して普通の態度でいいんですか?」
「大丈夫ですよ。皇女とはいっても皇位継承権は十三位。帝国では男児が皇位を優先的に次ぐので兄弟が五人、女児だけでも上に七人もいるわたくしは帝国内ではさして重要な存在ではないのです」
「皇位継承権?」
「王様になれる権利のことだな。帝国だから皇帝かな」
王国や聖王国ではあんまり上層部に関わってこなかったけど、少なくとも十三人兄弟っていうのは多い方なんだろうな。
「帝国は周囲の小国を保護しながら大きくなった国ですので、皇妃が多いのです」
なるほどね。誤解を恐れない言い方をすれば人質、有力者の娘を帝室に差し出す代わりに保護してくれと願い出た形か。
「わたくしも母も帝室にとっては替えの利く存在。ですから貴方たちが気安く接しても問題はないのですよ」
6
お気に入りに追加
592
あなたにおすすめの小説
「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~
平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。
三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。
そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。
アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。
襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。
果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる