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3.5章 閑話
14 国王という役割 国王視点
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我は王国の国王をしている。
国王というだけでぜいたくな暮らしをしていると考えるものも多いが、それほどいいものでもない。
この国……というか世界全体は緩やかに衰退している最中で人口も減少傾向、目新しい産物が生まれるわけでもない。
そんな亡国一歩手前みたいな状態の権力者など、他人に羨まれるほどいいものでもない。
まともな友人は領地経営と領民のために領地に引っ込んでしまって、城内には領地のためにもならない権力欲と傲慢の塊のような貴族しかいないし、いいことなど一つもないのだ。
とりあえず苦しむ民が少しでも減るように執務をしていると、懐かしい友人から手紙が届いた。
様々な功績を残している家で、爵位の底上げや領地の拡大を申し出ても頑として断り続けているシェリルバイト子爵からの手紙だ。
どうにも爵位を長男に譲ることにしたので、爵位の継承のために長男が王都に来て謁見したいのだとか。
なるほど、あの小さかった子供が爵位の継承か……、我も年を取ったものだな。
我の子供たち、王子たちはまだまだ知識と経験不足だから王位の譲渡はまだまだ先だが、王位を退いた暁には友人たちの領地に遊びに出かけるのもいいかもしれないな。
爵位の継承に来たシェリルバイトの長男、ランドールはキリっとしたいい男で、我や城内にいる貴族とは違う生きるためのエネルギーとでもいうべきものにあふれていた。
領地で自由に生きていられるからだろうか、それとも我が城内に引きこもってまともに太陽の光に当たっていないからだろうか。
そのランドールは領内で新しい食材が流行していると話してくれた……まあ、同席していた宰相が勝手に話を打ち切ってしまったから詳細を聞くことはできなかったが、重要なことなら子爵の方から何かしらのアプローチがあるだろう。
そう思っていたら、宰相以下城内の多くの貴族がその新しい食事に関する噂でもちきりになってしまった。
シェリルバイト子爵の派閥の人間の多くは城内ではなく領地で働いているのだが、次男、三男などになれば職にあぶれて王都に職探しに来ることもある。
だから王都内や王城内で書類仕事をしている貴族もいるのだが、そのシェリルバイト子爵の派閥貴族が新しい食事に招待されたらしくその噂が派閥関係なく王城内に出回っているのだとか。
曰く、見たこともない食材が使われていた。曰く、その食事は温かく舌の上が焼けるようであった。曰く、普通の食材では味わえないほど複雑な味のバリエーションがあった。
王族ということで他の貴族に比べても多種多様な食材を食べてきている我だが、そのような食材は聞いたことも見たこともなかった。
だからというか、魔がさしたというか、子爵を呼び出して流行は上から流すように話すべきという、宰相の言葉にうなずいてしまった。
流行は上から流すもの、これは商人たちが自分たちの商品をスムーズに流すために貴族につなぎを求めるときに言われる文言だ。
だからこそ、上位者が流行は上から流すものだろう、などと言い出すのは品のない行為とされる。
貴族の力が必要なのならば商人は頼りに来る。それをあたかも自分たちの力が必要だろうと、権力に任せて商品をねだるのは品がないからだ。
今回はシェリルバイト子爵が後ろ盾、というか広めているものなので余計だろう。
だが、宰相以下執務室に出入りする貴族たちに毎日のようにうわさについて聞かされ、子爵の忠誠心がないのではなどと言われ続けて面倒くさくなってきてしまったのだ。
だから、宰相に子爵に説明に来るように召喚状を出せ、と言った時には先のことはあまり考えていなかった。
この騒動も子爵が王城に来て説明、ないし食事を城内に優先的に差し出せばそれで解決すると安易に考えていたのだ。
まさか宰相が、子爵に宛てて出せと言った召喚状を平民の新しい食事を作っている人間に宛てて出すなど考えもしなかったのだ。
だから、謁見場に向かう直前に宰相から呼び出したのは子爵だけでなく平民もいると聞かされた時にははらわたが煮えくり返るようだった。
平民を謁見場に呼び出すなど前代未聞、そもそも平民が貴族の命令を断ることはできないので謁見場に呼び出した時点で、平民には是とうなずく以外の選択肢がなくなってしまうからだ。
平民は貴族が作り出させているポーションを得ることで生きている。
貴族に逆らうということはポーションを得られる手段がなくなるということだ。
要するに貴族は平民の生殺与奪を握っていることになる。
謁見場には子爵のほかに平民が着るような服を着ている男と少年少女がいた。
少年少女は王子たちよりも年が下に見えるし、おそらく新しい食事を作り出しているのは子爵の隣で控えている男の方だろう。
子爵に話を聞くだけのはずが、なぜこのようなことになってしまったのか。
とりあえずはこの哀れな男が最悪の結末を迎えないように、できれば王城内で勤められるようにすることが重要だな。
結果として男は王城に勤めることはなかった。
それどころか、王国に入国してからポーションを一度たりとも口にしていないというその男は我が国の国民ですらなく、貴族や王族と言えども命令する権利も命を奪う権利もない人間だった。
しかも、宰相が近衛兵の中に潜ませていた手勢で、その男を襲う始末。
なんというか、我が国王として君臨してから一番疲れる一日だった。
結局新しい食事については何の進展もなかったし、子爵からは睨まれる始末、あの男たちも今回の騒動からこの国からは離れてしまうだろう。
良かった点は一つだけ、宰相以下の王城内を仕切っていた貴族たちを処分する口実が手に入ったこと。
国王の意思を無視して召喚状を書き換えたこと、近衛兵に私兵を混ぜ王の命令もなしに勝手に近衛を動かしたこと、細かいことは上げればきりがないが、これで王城内の風通しは随分と良くなるだろう。
できればシェリルバイト子爵のような忠誠心がありつつ有能な人材が欲しいものだが、子爵の家系は女が生まれやすいらしく先代、先々代の時にも2人目の男児が生まれたら王城に寄越すように言っているというのに一向に王城に来ないのだよな。
食事のこと、貴族のこと、これからのこの国の運営方法、考えることはいろいろとあるが、少しでも国民の生活よくなるように頑張るしかないのだよな。
国王というだけでぜいたくな暮らしをしていると考えるものも多いが、それほどいいものでもない。
この国……というか世界全体は緩やかに衰退している最中で人口も減少傾向、目新しい産物が生まれるわけでもない。
そんな亡国一歩手前みたいな状態の権力者など、他人に羨まれるほどいいものでもない。
まともな友人は領地経営と領民のために領地に引っ込んでしまって、城内には領地のためにもならない権力欲と傲慢の塊のような貴族しかいないし、いいことなど一つもないのだ。
とりあえず苦しむ民が少しでも減るように執務をしていると、懐かしい友人から手紙が届いた。
様々な功績を残している家で、爵位の底上げや領地の拡大を申し出ても頑として断り続けているシェリルバイト子爵からの手紙だ。
どうにも爵位を長男に譲ることにしたので、爵位の継承のために長男が王都に来て謁見したいのだとか。
なるほど、あの小さかった子供が爵位の継承か……、我も年を取ったものだな。
我の子供たち、王子たちはまだまだ知識と経験不足だから王位の譲渡はまだまだ先だが、王位を退いた暁には友人たちの領地に遊びに出かけるのもいいかもしれないな。
爵位の継承に来たシェリルバイトの長男、ランドールはキリっとしたいい男で、我や城内にいる貴族とは違う生きるためのエネルギーとでもいうべきものにあふれていた。
領地で自由に生きていられるからだろうか、それとも我が城内に引きこもってまともに太陽の光に当たっていないからだろうか。
そのランドールは領内で新しい食材が流行していると話してくれた……まあ、同席していた宰相が勝手に話を打ち切ってしまったから詳細を聞くことはできなかったが、重要なことなら子爵の方から何かしらのアプローチがあるだろう。
そう思っていたら、宰相以下城内の多くの貴族がその新しい食事に関する噂でもちきりになってしまった。
シェリルバイト子爵の派閥の人間の多くは城内ではなく領地で働いているのだが、次男、三男などになれば職にあぶれて王都に職探しに来ることもある。
だから王都内や王城内で書類仕事をしている貴族もいるのだが、そのシェリルバイト子爵の派閥貴族が新しい食事に招待されたらしくその噂が派閥関係なく王城内に出回っているのだとか。
曰く、見たこともない食材が使われていた。曰く、その食事は温かく舌の上が焼けるようであった。曰く、普通の食材では味わえないほど複雑な味のバリエーションがあった。
王族ということで他の貴族に比べても多種多様な食材を食べてきている我だが、そのような食材は聞いたことも見たこともなかった。
だからというか、魔がさしたというか、子爵を呼び出して流行は上から流すように話すべきという、宰相の言葉にうなずいてしまった。
流行は上から流すもの、これは商人たちが自分たちの商品をスムーズに流すために貴族につなぎを求めるときに言われる文言だ。
だからこそ、上位者が流行は上から流すものだろう、などと言い出すのは品のない行為とされる。
貴族の力が必要なのならば商人は頼りに来る。それをあたかも自分たちの力が必要だろうと、権力に任せて商品をねだるのは品がないからだ。
今回はシェリルバイト子爵が後ろ盾、というか広めているものなので余計だろう。
だが、宰相以下執務室に出入りする貴族たちに毎日のようにうわさについて聞かされ、子爵の忠誠心がないのではなどと言われ続けて面倒くさくなってきてしまったのだ。
だから、宰相に子爵に説明に来るように召喚状を出せ、と言った時には先のことはあまり考えていなかった。
この騒動も子爵が王城に来て説明、ないし食事を城内に優先的に差し出せばそれで解決すると安易に考えていたのだ。
まさか宰相が、子爵に宛てて出せと言った召喚状を平民の新しい食事を作っている人間に宛てて出すなど考えもしなかったのだ。
だから、謁見場に向かう直前に宰相から呼び出したのは子爵だけでなく平民もいると聞かされた時にははらわたが煮えくり返るようだった。
平民を謁見場に呼び出すなど前代未聞、そもそも平民が貴族の命令を断ることはできないので謁見場に呼び出した時点で、平民には是とうなずく以外の選択肢がなくなってしまうからだ。
平民は貴族が作り出させているポーションを得ることで生きている。
貴族に逆らうということはポーションを得られる手段がなくなるということだ。
要するに貴族は平民の生殺与奪を握っていることになる。
謁見場には子爵のほかに平民が着るような服を着ている男と少年少女がいた。
少年少女は王子たちよりも年が下に見えるし、おそらく新しい食事を作り出しているのは子爵の隣で控えている男の方だろう。
子爵に話を聞くだけのはずが、なぜこのようなことになってしまったのか。
とりあえずはこの哀れな男が最悪の結末を迎えないように、できれば王城内で勤められるようにすることが重要だな。
結果として男は王城に勤めることはなかった。
それどころか、王国に入国してからポーションを一度たりとも口にしていないというその男は我が国の国民ですらなく、貴族や王族と言えども命令する権利も命を奪う権利もない人間だった。
しかも、宰相が近衛兵の中に潜ませていた手勢で、その男を襲う始末。
なんというか、我が国王として君臨してから一番疲れる一日だった。
結局新しい食事については何の進展もなかったし、子爵からは睨まれる始末、あの男たちも今回の騒動からこの国からは離れてしまうだろう。
良かった点は一つだけ、宰相以下の王城内を仕切っていた貴族たちを処分する口実が手に入ったこと。
国王の意思を無視して召喚状を書き換えたこと、近衛兵に私兵を混ぜ王の命令もなしに勝手に近衛を動かしたこと、細かいことは上げればきりがないが、これで王城内の風通しは随分と良くなるだろう。
できればシェリルバイト子爵のような忠誠心がありつつ有能な人材が欲しいものだが、子爵の家系は女が生まれやすいらしく先代、先々代の時にも2人目の男児が生まれたら王城に寄越すように言っているというのに一向に王城に来ないのだよな。
食事のこと、貴族のこと、これからのこの国の運営方法、考えることはいろいろとあるが、少しでも国民の生活よくなるように頑張るしかないのだよな。
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