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3.5章 閑話

02 マサト兄ちゃん レイジ視点

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 僕の名前はレイジ。
 名前もないよくある村で生まれて、お父さんとお母さんと妹と一緒に暮らしていた。
 そう、お父さんとお母さんが魔獣に立ち向かって命を落とすまでは……。

 お父さんとお母さんがいなくなってからは妹のミーナと一緒に村長さんのお手伝いという形で村の役に立っていた。
 とはいえ、子供二人ができることなんてたかが知れているから、やっていることは雑用以上の何物でもなく他の村の子供と比べてもやっていることはこまごまとしたものばかりだった。
 村の子供たちには親の天職が伝わっているのか、僕たちに比べても畑仕事の効率が段違いだった。
 村の大人に敵わないのは当然のことだけれど、同年代の子供たちの足元にも及ばないのは子供ながらにプライドを傷つけられた。

 でもお父さんとお母さんの天職は剣士と商人だったらしいから、畑仕事では力にはなれなくてもそれ以外のことでは村の役に立てるだろうと思っていた。
 村に元々いた人たちのほかにも村に移り住んできた人たちがいて、その人たちは畑仕事よりも畑にやってくる邪魔な生き物……獣や魔獣なんかを退治することで村の役に立っている。
 だから、僕もそうやって村の一員になれると思っていた。

 村長さんが言うには僕たちが村の子供と結婚すれば正式に村の一員として認められるらしい。
 今、この村の子供は女の子のほうが多く、多分僕は村の子供同士で結婚できなかった女の子と結婚することは可能だろう。
 でも、妹は……?
 村の子供たちでも結婚できなければよその村に嫁入り、婿入りという形で村から出ることを強要される。
 だったらこの村の一員でもない妹が結婚できなければ、どんな目に合うかはわからない。
 今は目の届く範囲にいるから僕が助けてあげられるけれど、他の村に行ってしまえばそれもできなくなる。
 お父さんとお母さんから妹を守ってあげてほしいと、ずっと言われていたのに、そんなささやかなお願いすらかなえられなくなってしまう。

 そんな風に少しずつこの世界の不条理に絶望し始めていた時に、僕たちの目の前に不思議な人が現れた。
 その人は少し目を離したすきに村の畑の前に突然、姿を現したんだ。
 その人は誰も目を向けていなかった獣の死体や毒だと言われていた植物を使って料理を作り始めた。

 この村ではポーションがもらえるから食事なんてなんでもいい……とは言わないまでも、そこまで食事に不便を感じたことはない。
 お腹が空いてもポーションさえ飲んでおけば空腹は治まるし、いつも食べている緑菜に不満を感じたこともなかった。

 でも、それは僕が何も知らなかったからそう感じていただけだってことが、その人、マサト兄ちゃんに出会ってから初めて分かったんだ。
 マサト兄ちゃんに食べさせてもらったフライラットのお肉も、斑芋から作られたこふき芋も僕の想像を超える味で初めて食べた時はびっくりという感情以外を忘れてしまったように感じた。

 マサト兄ちゃんはもっといろんな食材があれば、いろんな料理が作れると言っていたけれど、緑菜とポーションしか知らない僕からすればマサト兄ちゃんが作ってくれるものはそれだけで十分と思えるようなものだった。
 料理を作ってくれたマサト兄ちゃんに頼まれて、村の中を案内したり獣の死体を食べられるように細かく分けたりしたけれど、それくらいじゃ料理のお礼には足りないと思っていた。
 でも、マサト兄ちゃんは助かったって、ありがとうって言ってくれて、またびっくりした思い出がある。

 マサト兄ちゃんのお手伝いをしながら生活していると、マサト兄ちゃんが僕たちの天職を教えてくれた。
 この村で生きていくには農家の天職が欲しかったけれど、他の子供にも敵わないようじゃ農家の天職があるとは思えなかった。
 でも、マサト兄ちゃんが伝えてくれた天職は剣士、そう、お父さんと同じ天職だった。
 もう何年も前に死んじゃったお父さんと少しでもつながりがあったことが嬉しかった。
 だから、お父さんとお母さんが使っていた二本の剣を使ってその日から剣の練習を始めたんだ。

 妹のミーナは料理人という聞いたこともない天職だったんだけど、マサト兄ちゃんが言うにはマサト兄ちゃんが作ってくれていた料理を作るのに特化した天職らしい。
 村の役には立たなそうな天職だけど、ミーナが喜んでいたから僕は何も言わないことにした。
 
 村に移住してきた大人たちに教わりながら、僕は剣の練習に励んだ。
 もちろん、マサト兄ちゃんが料理を作るときにはお手伝いも欠かさなかったけれど、村長さんに頼んで今までやっていた斑芋を撒く仕事のほかに森での獣狩りにも参加させてもらった。
 これだけで村人たちの僕たちを見る目が変わるとは思えなかったけど、マサト兄ちゃんが教えてくれている料理のことも考えたら、ミーナと結婚してもいいと言ってくれる人が現れるかもしれないと思って頑張っていた。

 でも、僕の目論見は当のミーナから完全に否定された。
 マサト兄ちゃんが村を出ていくことが決まった時に、僕は最初は村に残るつもりだった。
 マサト兄ちゃんは立派な大人で、僕たちの助けなんて必要としているとは思っていなかった。
 助かる、とか言ってくれていたけれど、それは他の大人たちのように僕たちに同情していってくれているだけだと思っていたから。
 だから、マサト兄ちゃんがいなくなったら村の誰かと結婚して村のために働いていこうと思っていた。

 でも、ミーナにとってはそうじゃなかったみたい。
 ミーナにとってはマサト兄ちゃんは人生を変えてくれた恩人で、マサト兄ちゃんが嫌だと言わない限りは付いていくって。
 だったら、僕のやることは決まっていた。
 もう会えないお父さんとお母さんの頼み、ミーナを守ること。
 ちょうどいいことに僕の天職は誰かを守ること、敵を倒すことに特化している。
 だから、僕はマサト兄ちゃんが嫌だというまで、ミーナが満足するまでは二人を守ると心に決めた。
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