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2章 領都
02 価格設定
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「ところで、ウィリアムさん。領都では食料をどのように手に入れているのですか?」
「どのようにと言われても、皆、普通に金を出して買っているが……」
なるほど、こんな世界ではあるもののやはり領都周辺には貨幣が存在するのか。
「いえいえ、あの村では必要なものはすべて村長が手に入れて村人に配っていたので他ではどうしているのかわからなかったんですよ」
「ああ、なるほど。確かにあの村ではそうでしょうね」
「ところで、領都ではこの緑菜。一つ手に入れるのにどの程度の金額が必要なんですか?」
「でしたら、貨幣価値のほうから説明させていただきますね。貨幣は鉄の産出の際にでた鉱石を加工して作られていまして、下から銅貨、銀貨、金貨があります。銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚ですね」
「なるほど」
魔獣もいるこの世界では戦闘の際に必要な鉄が何より重要だから、それを掘り出す際に出てくる他の鉱石を利用しているということか。
「緑菜でしたら、様々な村で栽培している最もメジャーな野菜ですので銅貨二十枚程度で一つは買えるでしょうね。紫トマトや水瓜などなら銅貨五十枚程度、甘い果物でしたら銀貨で十枚超えるものも珍しくはありません」
まあ、緑菜は村の中でも村人に配っても余るくらい栽培されていたから価値は低いだろうな。
前の世界と比べる意味もないだろうが、銅貨一枚で十円くらいの感覚かな。
二百円で白菜、あるいはキャベツ一玉と考えればいいのだろうが、この世界の人間はそれで一日の食料になるからな。
「ポーションはどのくらいの値段になるのですか?」
「ポーションは基本的に権力者からの配給になっていますので値段は付けられないですね」
そういや、村でもポーションだけは労働力にかかわらず配っていたな。
「提供していただける野菜は緑菜になりますか?」
「そうですね。斑芋も少し受け取っていますが、こちらは領主様に確認していただかないといけないので渡せる野菜は緑菜になります」
「では、こちらとしては料理を提供する代わりに、食材の提供のほかに一人当たり一日、銅貨二十枚の支払いを要求してもよいですか?」
これから生活していく上で貨幣は重要な要素だ。
村の中なら物々交換、あるいは労働力で物資が手に入っていたが、領都に入ってしまえばそうはいかない。
「……これからの生活に不安があるのですね。ですが、マサト君たちは領主様の庇護下に置かれると思いますよ?」
「それはそうかもしれませんが、未来は不定ですからね。あまり権力者に借りを作るのも怖いですし、できるだけのことは自分たちの力だけでしたいんですよ」
「……そうですか。領主様の下にいる身としてはこちらの庇護下にいてほしいですが、仕方ないですね。ですが、値段設定のほうは看過できませんね」
「少し、高すぎたでしょうか?」
飲食店の原価率は二十~二十五パーセント程度と知識としてはあるから、原価率五十パーセントは破格だと思ったのだが。
まあ、こちらは食堂の運営に土地代も、光熱水費もかからない身だから実現できることだが。
「安すぎです。マサト君の作る料理は領都に出回っている果物並みに物珍しく、価値がある」
なるほど、こちらとしては原価率なんかを考えて値段を設定してみたが、希少価値については考えていなかったな。
「例えばですが、三食当たりの値段を銀貨一枚、一食で銅貨三十枚にするとしたら、どのくらいの人が食べられるでしょうか?」
「そうですね。一日に銀貨一枚の出費は騎士や文官、貴族なんかはたやすく出しますし、平民でも豪商や村長なんかも出せますね。普通の平民なら一食分がせいぜいかもしれませんが、貴族ですら一日に二食しか食べませんし、ポーションがあれば問題ないですよ」
こちらとしては、ポーションに頼る食生活自体を見直してもらいたいのだが、簡単にはいかないんだろうな。
「……そうですか。では、一人当たり銅貨八十枚にさせてもらいますよ。緑菜をいただいた分を差し引くということで。また、獣や魔獣が食べられる種類であった場合には差し引きさせていただくということで」
「ですが、それでは……」
「その代わりに領都についたらいろいろな食材を見せていただいてもいいですか? こちらはこの地方でどのようなものが食べられているのかわからないので」
「わかりました。でしたら、領都についたら食材を融通させていただきますよ」
ウィリアムさんの方にも面子というものがあるのでこの辺が落としどころだろう。
領都で商売をするようなことになったら値段のことはもう一度考えるということで。
「あとは、移動は車を頼らせてもらいますが、俺たちはこの食堂で寝泊まりすることにします」
「ふむ、我々は野宿のつもりだから君たちだけでも屋根の下で寝られるのはいいだろうな」
「皆さんもお泊めできればよかったのですが、流石に皆さんが寝られるだけのスペースはないので」
「いやいや、我々は野宿をするのも任務の内だからな、美味しくて能力値のあがる食事を提供してもらえるだけ役得というものだ」
「あと、少し注意を。この食堂内には料理に必要な様々な調味料が存在しています。その中にはそれ単体で食事となるようなものもありますが、この食堂内の物資はこの世界とは隔絶しており、おそらく食堂内の素材では能力値が上がることはないでしょう」
「……ふむ、あくまでも能力を上げるためには食材が必要とのことか」
だからこそ、この食堂内に存在している調味料の素材も早いうちに見つけなければならないのだ。
「味付けのためやバランスのために出すこともありますが、過度な期待はしないでもらいたいということです。この食堂内で食事が豊かになってもそれは神様の意図とは違いますから」
あくまでもこの世界の食事事情がよくならなければ意味がないのだ。
最悪、この能力自体は俺が死んでしまえばこの世界には残らない。
この食堂内の調味料も同じ。
ならば、いずれ来るであろう善人のためにも調味料の作成や、食材の発見に力を入れなければならない。
「ふむ、そのあたりも領主様と相談しなければならないな。私一人では判断できない部分だ」
「まあ、さしあたってはウィリアムさんや同行している騎士の皆さんが食堂内の味付けは今のところ他では再現不能なことと、食べても能力の上昇はそこまでしないことを理解してくれれば十分です」
食堂内の味付けに依存して、他に迷惑をかけられても困るし、能力が変わらないことに対して文句を言われても困る。
「どのようにと言われても、皆、普通に金を出して買っているが……」
なるほど、こんな世界ではあるもののやはり領都周辺には貨幣が存在するのか。
「いえいえ、あの村では必要なものはすべて村長が手に入れて村人に配っていたので他ではどうしているのかわからなかったんですよ」
「ああ、なるほど。確かにあの村ではそうでしょうね」
「ところで、領都ではこの緑菜。一つ手に入れるのにどの程度の金額が必要なんですか?」
「でしたら、貨幣価値のほうから説明させていただきますね。貨幣は鉄の産出の際にでた鉱石を加工して作られていまして、下から銅貨、銀貨、金貨があります。銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚ですね」
「なるほど」
魔獣もいるこの世界では戦闘の際に必要な鉄が何より重要だから、それを掘り出す際に出てくる他の鉱石を利用しているということか。
「緑菜でしたら、様々な村で栽培している最もメジャーな野菜ですので銅貨二十枚程度で一つは買えるでしょうね。紫トマトや水瓜などなら銅貨五十枚程度、甘い果物でしたら銀貨で十枚超えるものも珍しくはありません」
まあ、緑菜は村の中でも村人に配っても余るくらい栽培されていたから価値は低いだろうな。
前の世界と比べる意味もないだろうが、銅貨一枚で十円くらいの感覚かな。
二百円で白菜、あるいはキャベツ一玉と考えればいいのだろうが、この世界の人間はそれで一日の食料になるからな。
「ポーションはどのくらいの値段になるのですか?」
「ポーションは基本的に権力者からの配給になっていますので値段は付けられないですね」
そういや、村でもポーションだけは労働力にかかわらず配っていたな。
「提供していただける野菜は緑菜になりますか?」
「そうですね。斑芋も少し受け取っていますが、こちらは領主様に確認していただかないといけないので渡せる野菜は緑菜になります」
「では、こちらとしては料理を提供する代わりに、食材の提供のほかに一人当たり一日、銅貨二十枚の支払いを要求してもよいですか?」
これから生活していく上で貨幣は重要な要素だ。
村の中なら物々交換、あるいは労働力で物資が手に入っていたが、領都に入ってしまえばそうはいかない。
「……これからの生活に不安があるのですね。ですが、マサト君たちは領主様の庇護下に置かれると思いますよ?」
「それはそうかもしれませんが、未来は不定ですからね。あまり権力者に借りを作るのも怖いですし、できるだけのことは自分たちの力だけでしたいんですよ」
「……そうですか。領主様の下にいる身としてはこちらの庇護下にいてほしいですが、仕方ないですね。ですが、値段設定のほうは看過できませんね」
「少し、高すぎたでしょうか?」
飲食店の原価率は二十~二十五パーセント程度と知識としてはあるから、原価率五十パーセントは破格だと思ったのだが。
まあ、こちらは食堂の運営に土地代も、光熱水費もかからない身だから実現できることだが。
「安すぎです。マサト君の作る料理は領都に出回っている果物並みに物珍しく、価値がある」
なるほど、こちらとしては原価率なんかを考えて値段を設定してみたが、希少価値については考えていなかったな。
「例えばですが、三食当たりの値段を銀貨一枚、一食で銅貨三十枚にするとしたら、どのくらいの人が食べられるでしょうか?」
「そうですね。一日に銀貨一枚の出費は騎士や文官、貴族なんかはたやすく出しますし、平民でも豪商や村長なんかも出せますね。普通の平民なら一食分がせいぜいかもしれませんが、貴族ですら一日に二食しか食べませんし、ポーションがあれば問題ないですよ」
こちらとしては、ポーションに頼る食生活自体を見直してもらいたいのだが、簡単にはいかないんだろうな。
「……そうですか。では、一人当たり銅貨八十枚にさせてもらいますよ。緑菜をいただいた分を差し引くということで。また、獣や魔獣が食べられる種類であった場合には差し引きさせていただくということで」
「ですが、それでは……」
「その代わりに領都についたらいろいろな食材を見せていただいてもいいですか? こちらはこの地方でどのようなものが食べられているのかわからないので」
「わかりました。でしたら、領都についたら食材を融通させていただきますよ」
ウィリアムさんの方にも面子というものがあるのでこの辺が落としどころだろう。
領都で商売をするようなことになったら値段のことはもう一度考えるということで。
「あとは、移動は車を頼らせてもらいますが、俺たちはこの食堂で寝泊まりすることにします」
「ふむ、我々は野宿のつもりだから君たちだけでも屋根の下で寝られるのはいいだろうな」
「皆さんもお泊めできればよかったのですが、流石に皆さんが寝られるだけのスペースはないので」
「いやいや、我々は野宿をするのも任務の内だからな、美味しくて能力値のあがる食事を提供してもらえるだけ役得というものだ」
「あと、少し注意を。この食堂内には料理に必要な様々な調味料が存在しています。その中にはそれ単体で食事となるようなものもありますが、この食堂内の物資はこの世界とは隔絶しており、おそらく食堂内の素材では能力値が上がることはないでしょう」
「……ふむ、あくまでも能力を上げるためには食材が必要とのことか」
だからこそ、この食堂内に存在している調味料の素材も早いうちに見つけなければならないのだ。
「味付けのためやバランスのために出すこともありますが、過度な期待はしないでもらいたいということです。この食堂内で食事が豊かになってもそれは神様の意図とは違いますから」
あくまでもこの世界の食事事情がよくならなければ意味がないのだ。
最悪、この能力自体は俺が死んでしまえばこの世界には残らない。
この食堂内の調味料も同じ。
ならば、いずれ来るであろう善人のためにも調味料の作成や、食材の発見に力を入れなければならない。
「ふむ、そのあたりも領主様と相談しなければならないな。私一人では判断できない部分だ」
「まあ、さしあたってはウィリアムさんや同行している騎士の皆さんが食堂内の味付けは今のところ他では再現不能なことと、食べても能力の上昇はそこまでしないことを理解してくれれば十分です」
食堂内の味付けに依存して、他に迷惑をかけられても困るし、能力が変わらないことに対して文句を言われても困る。
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