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2章 領都

01 道中

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 俺の名前は狭間真人はざままさとどんな理由かはわからないが、前の世界で死亡した際に神様に呼ばれてこの世界へと転生させられた。
 神様曰く、この世界の人間はポーションに頼り切ってまともな食事をしていない。
 生きていけているのならば問題ないのでは? と、思う人もいるかもしれないが、この世界では食事によって能力値が変わるという一風変わったルールが存在する。
 だというのに、この世界の人間はまともな食事もとらずに生きているので神様が想定したよりもステータスが低いらしいのだ。
 このままではこの世界から人間が絶滅してしまうことを危惧した神様は俺に料理の技術と知識を広めることを要請してきた。
 前の世界での記憶を失っている俺はやることもないし、流石に絶滅してしまうのは寝覚めが悪いのでこの要請に従うことにした。

 俺が幸運だったのは、あるいは神様の思惑通りなのかもしれないが、この世界に降り立った場所は村の中。
 そこで、レイジとミーナという兄妹と出会い、試行錯誤しながらいくつかの食材を見つけ料理を作っていたのだが、やはりというかなんというか、悪目立ちが過ぎたようで領主の騎士団に目を付けられてしまった。

 で、今は村を旅立ち領主のいる領都へと向かっている最中というわけだ。
 まあ、騎士団が村に鍋を運んできたときに使っていた馬車(?)……いや、馬車は馬車なのだが、けん引しているのが俺の知っている馬とは違い体表が緑色なのだ。

『個体名:グリーン 種族:エメラルドホース 性別:雄 年齢:三歳 食用:可 草食動物であるが、蹄が硬質な鉱石でできているため危機に瀕すると相手を踏みつぶして攻撃する。肉は臭みが少なく、寄生虫もいないため新鮮であれば生食できるほど』

 で、こいつはエメラルドホースという種類の獣で、騎士団からかどうかはわからないがグリーンと呼ばれているらしい。
 これが、神様からもらった食材鑑定という能力だ。
 この食材鑑定は、食材と名がついていながらおよそ食材とは認識しないものも鑑定可能だ。
 人間でも石でも草でもだ。

「マサト君、それにレイジ君とミーナ君も、車の乗り心地はどうかな? 気分が悪かったりしたら遠慮なくいってくれよ」

「ウィリアムさん。車には初めて乗りましたけど、意外と揺れるんですね」

 そう、知識としては馬車が揺れることくらいは知っているものの、実際に乗ってみればその揺れ具合はひどいものだ。
 鍋を持ってきたときにはロープを使って何重にも固定して持ってきたという話を聞いて、なぜそんなことを……と思ったものだが、乗ってみればその理由も推し量れるというもの。

「うん、僕、外を一緒に歩くよ。確かに楽だけど、お尻が痛いや」

「ミーナは大丈夫ですけど、マサトさんはどうします?」

「うーん、そうだな。そろそろお昼時になるし、一度休憩をとってもらっても構いませんかね?」

「お昼? 確かに太陽は中天に差し掛かる頃合いだが、なにか用事でもあるのかい?」

 ああ、そういえばこの世界の人間は昼飯をとる習慣がないんだったな。
 村の人間だけの習慣化と思ったのだが、どうやら領都に居を構える騎士団でもそれは変わらないらしい。

「実は、俺の故郷の習慣なんですが飯を一日に三食とる決まりなんですよ」

「飯……マサト君、飯を食うと能力が上がるんだったな?」

「ええ、そうですよ」

「全体っ! 止まれっ! これよりここで休憩をとる! 見習いはエメラルドホースに水と飼い葉を与えることっ!」

 おっと、確かに休憩をとってほしいとは言ったが、こんなに唐突にとられるとは思わなかった。

「ウィリアムさん、他の人たちに相談とかしなくてよかったんですか?」

「なあに、私は団長だよ? 一日の活動方針を決めるのは私に決まっているじゃないか。それよりもマサト君、我々も食事に同席したいのだがよいかな?」

 まあ、目的としてはソレだろうなとは思っていた。
 この世界では食事によって能力値が変わる。
 他の人が認識しているかはわからないが、少なくとも力については騎士団に所属している人間よりも俺と一緒に過ごしていたレイジのほうが能力値が高いのは確かだ。

「食事ですか。良いと言ってあげたいのですが、食材にも限りがあるんですよね。もちろん、村を出る前にたっぷりと補充してきてはいますがこの人数の騎士様に振舞うの……」

 肉にも野菜にも限りはある。
 しかも、食堂で俺たちが主食としていたパンは作るのが一日仕事で移動中は作ることができない。

「ふむ、食材の問題か。野菜は村を出る前に我々も補充してきたからそれを提供するというのはどうだ?」

「野菜はそれで問題ないかと思いますが、肉がなければ寂しいでしょう?」

「ふむ。……おいっ、第一小隊、第二小隊、近くを探索して危険がないか見回ってこいっ! 獣や魔獣がいたら狩って死体を持ってくるんだっ!」

 おお、ウィリアムさんは団長としての権限をフルに使うつもりらしい。
 まあ、食べ物……特に肉は力のステータスがあがる、というのはウィリアムさんに伝えてあるし切実なのだろう。

「レイジ、一緒についていって内臓なんかの処理をしてきてもらってもいいか?」

「もちろんだよ、マサト兄ちゃん。いつも通り内臓はその場で処理して廃棄してくるから」

「頼むよ。……怪我しないように気を付けるんだぞ」

「わかってるよ、マサト兄ちゃん」

 レイジは……ミーナもだが、俺と従業員契約をしているから神様の加護が発動する。
 見られても問題はないが嫉妬の対象になるだろうからあまり人には見せないほうがいいだろう。

「ウィリアムさん、狩ってきた肉はすぐにお出しできるかはわかりませんので、今日のところはこちらで保管している肉を出します」

 まあ、その前にきちんとした食事をとるのなら食堂を展開しなきゃならないな。
 とりあえずは、村でもよく使っていたレベル3の食堂がいいだろう。
 幸いにもこのあたりの道は草原が広がっており、食堂を展開するのに不都合はない。

「なっ!!? マ、マサト君!? これは、君が村で使っていた家だよな!? どうしてこんなところに突然現れたんだっ!?」

「あー、これは神様からもらった加護の一部で料理を作るのに必要な器具が詰まっている家なんですよ」

 そういえば、村でウィリアムさんは食堂に来たことがあったがこれが加護の一部だっていうのは教えていなかったな。

「な、なるほど。確かにこれは魔法を使っても再現不可能だろうし……神様というのは本当なのか……?」

「ウィリアムさん、料理はこの食堂内で作ります。皆さんの分も作るとなると時間がかかりますけどいいですか?」

 単純な肉野菜炒めを作るとしても二十人以上の大所帯なんだ、全員分作るとなるとパパっと終わらせるというわけにもいかない。

「ああ、もちろんだ。何だったらこちらからも手伝いを出すぞ。……まあ、具材を切るくらいしか手伝えないとは思うが……」

 そういえば、村にいる間、騎士の人たちも料理に挑戦はしていたが、結果は芳しくなかったな。

「手伝いは大丈夫ですよ。俺とミーナで何とかなりますから。それよりもこの調子でいくと領都に着くのは何日後くらいになりますか?」

「そうだな、来るときには三日かかったから、その倍くらいは見てくれれば大丈夫だと思うが」

 六日か、肉が一人当たり一日五百グラムとして、六日で三キロ。
 二十人だから六十キロ。
 まあ、冷凍してある分で十分に足りるな。
 問題は主食をどうするかだな。

 米が見つかっていれば大量に炊くのも難しくはないのだが、パンだとそうはいかない。
 一応、食堂内にはホームベーカリーや固定型のミキサーなんかがあるのだが、それにしても二十人分のパンを作るのは並大抵の労力では済まない。
 斑芋を主食とするのも難しいだろう。
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