機動幻想戦機

第一章 閃血の復讐者《アヴェンジ》

戦闘開始

『ジェシナード様、呼びかけに応じませんが、如何いたしますか？』

「威嚇しろ、我々が本気である事を虫ケラ共に思い知らせろ」

『はっ！』

ジェシナードの命令でドレッドの装備である４０mmカノン砲が火を吹く。敷地内の建物が半壊していく。工場の跡地も子供達と暮らした寄宿舎もみんなみんな壊れていく。

そんな中、工場跡地の裏口から一台のジープが全速力で逃げていくのを一機のドレッドが確認した。

『ジェシナード様、奴ら建物を放棄して逃げていく様子です。如何なさいますか！？』

「なに！？」

(雌豚の分際でワシの寵愛を否定するとは！！何様のつもりだ！！)

ジェシナードは身勝手な怒りが込み上がってきた。今まで無理矢理奪ってまで玩具(オモチャ)にするための女を手に入れてきたジェシナード。そんな自分に手に入れられないものはない、いや、あってはならない。

「追え！！あの車をなんとしても捕縛せよ！！ワシの！！ワシの玩具(オモチャ)を逃すでない！！ワシの！！」

『お待ちくださいジェシナード様！！』

そんな時だった。

『敷地内奥より高熱源反応！これは……HARBT(ハービット)です！！』

「何！？」

工場の屋根を突き破る形で現れたのは、未完成なのか所々装甲がむき出しの状態ながらも赤と白の美しいラインをした機体、どことなくマクスウェル社が量産機として制作していたAS-98ライノと酷似した機体であった。

『なんだ！？あの機体は！？』

『見たことないぞ！新型か！？』

『バカな！？倒産したマクスウェル社が今更新型を？』

赤い機体、アヴェンジはその場を軽やかにジャンプ、120mは高く飛んだ。

◇

（すげぇ、本当に機体が俺の手足のように動く）
　
コックピットで機体とリンクしているビョルンはアヴェンジを自身の身体同様に動かすことができる、その機体スピードは期待を装甲車の操縦カプセルで操作しているドレッドとは比べ物にならない。

「なにをしておる！！一斉掃射じゃ！！あの賊の機体を撃ち落とせ！！」

ジェシナードの命令によりドレッドが３５ｍｍサブマシンガンの照準を空高くのアヴェンジに向ける。

『させるかぁ！！』

ビョルンが念じるとアヴェンジは飛び蹴りの姿勢をとり敵のドレッドの一機に向かってダイブ。ドレッドの頭部が鉄塊へと変わり果てる間際に華麗に着地。

『きっ貴様！！抵抗する気か！』

『下民（ノーメイク）の分際で！』

更に二機のドレッドが左右それぞれから照準を向け発砲する。

アヴェンジはその弾丸を下に向かって軽やかに避け、左のドレッドの脚部に足払い。崩れ落ちた敵の機体からサブマシンガンを奪い右側にいるドレッドに向けて発砲。

機体は風穴だらけとなり後ろに倒れ、爆破。すかさず左にいた倒れているもう一機の機体にサブマシンガンの先端に装着しているナイフで頭部を串刺しにして機能を停止させる。

「なっなにおしておる！！たった一機落とせんのか役立たず共め！！」

残る二機のうちの一機がドレッドがサブマシンガンからナイフを外し、アヴェンジに向かって突進していく。

『遅せぇよ』

が、アヴェンジは護身術の要領で相手からナイフを奪い取り首元に刺す。残るは一機。

「なっ…なんじゃコイツは…化け物か？……」

恐怖のあまりに失禁し始め女たちに小便がかかってしまう。

『ジェっ…ジェシナード様…』

「てっ撤退じゃ！！」

最期のドレッド一機がジェシナードを守るように後方に移動し始め、その陰に隠れるように装甲車も後退し始める。が、

『逃がすかよ！！』

先程突き刺したナイフを抜き、アヴェンジは最後の一機に向かっていく。軽やかにドレッドに接近していき、そして、右手に渾身の一撃を送るように念じながらナイフで首を落としたのだった。落ちた首がジェシナードの乗る装甲車付近に落ちその振動で車は横転したのだった。

アヴェンジが装甲車に接近すると横転した装甲車が全裸のジェシナードがまるで動物の腹の中から突き出る寄生虫のように現れる。

「ひぃぃぃぃぃ！！」

アヴェンジを見上げたジェシナードは腰が抜けてしまい、その場に倒れてしまう。

「きっ貴様！！このワシをジェシナード・フォン・ヤカリントスと知っての狼藉か！！」

『ピーピーうるせぇんだよクソ袋が、テメェ自分の状況分かっていってんのか？』

アヴェンジのカメラアイがジェシナードを見下すように見下ろす。その目は今すぐにでも殺すという殺気があふれ出ていた。

「わっ…ワシを助けろ！！」

『はっ？』

「助けろと言っているのだ！」

『なんで？』

「きっ貴様！薄汚い下民（ノーメイク）の分際でワシをコケにする気か！」

『俺にはあんたを殺す動機はあっても、助ける道理はないね』

アヴェンジはナイフを逆さに向けて切っ先をジェシナードに向ける。

「わ、ワシを殺すという事がどういうことか分かっておるのか！？ワシは八大貴族（エイトティアラー）の一人じゃぞ！？」

『それがどうしたよ？』

「ワシを殺すと他の者たちが黙っておらん！！一生逃げ纏うことになるぞ！！そっそうじゃ！！ワシを助けるならば貴族（ティアラー）の地位を…」

グサ！！アヴェンジは躊躇いもなくナイフをジェシナード向けて突き刺したのだった。何度も何度も何度も。

ジェシナードの身体はミンチ肉のような肉塊となっていた。きっと後でそこいらの野性動物の餌となるだろう。それより先に逃げたミシェル達が心配だ。

ビョルンはアヴェンジをミシェル達が逃げた方向に向かって軽やかにジャンプしその場から飛び去って行った。

◇

一方そのころ、ゲットー上層にある八大貴族（エイトティアラー）の会議室。

「ジェシナードが逝ったか」

「まぁ、どうでもよくありません事？」

「あのズタ袋の代わりなどどこにでもいるしなｗ」

「それより奴をやった例のHARBT(ハービット)少し気になるな、ゲットーの下民(ノーメイク)にあのような機体を作れる者が」

「まぁいずれにせよ、仮にも貴族(ティアラー)を殺したのだ、タダで帰るわけにはいかんな」

「我々の沽券にかかりますしな」

「可能な限り軍をゲットーに向かわせろ、あのHARBT(ハービット)を逃がすな」

此処にいるのはジェシナードを除く７人の八大貴族(エイトティアラー)、皇帝直属の部下であり貴族を統べる八人の長。ビョルンはその内の一人を殺害した。もう後戻りはできない。