上 下
8 / 42

8 初めての友達はSS級聖女騎士様

しおりを挟む
 西欧聖女筆頭騎士であるフィオナ・ステンドの銀槍が、唸りを上げて繰り出された。

 槍は紫の稲妻を抱えたトルネードとなって、俺の眉間に――刺さらなかった。

「な、んだと……?」

 フィオナが目を見開き、驚愕の表情を浮かべている。

 その理由は簡単だ。

 彼女の必殺技を、デュランダルが人差し指一本で受け止めたのだ。

「ほう。なかなかの技なのだ。だが、我らには遠く及ばない。さあマスターいくのだ!」

 そうだな。そろそろ頃合いか。

 俺とデュランダルの声が重なる。

 ドラグ・フュージョン!

 ごおっと轟音が広がり、周囲の空気を吹き飛ばす。次の瞬間には、二振りの刀を携えた赤き竜人が大地に顕現していた。俺の二度目の竜化。もはやこちらのほうが自然とさえ感じる。観客たちの息を飲む音すら、捉えることができた。

「この竜気……SSS級は伊達ではないということか」

 フィオナがそう声を漏らすと同時に、再び構える。まだやる気らしい。

「例えSSSだろうと、引くわけにはいかない! 筆頭聖女騎士の誇り、受け取れえ!」

 彼女は無数の突きを雨の如く、連打する。俺はその一つ一つに視認すると、スペルを無詠唱で唱える。

《倍速処理 クロックアップ》
《火属強化 フレイムバーン》
《剣戟無双 ソードダンス》
《魔力増幅 マジックブースト》
《刀剣硬化 ブレイドメタル》

「さあ! 舞踏会の始まりなのだ!」

 デュランダルの掛け声とともに、俺は紅蓮の閃光と化した。

 フィオナの突きを全て回避すると、炎の翼で上空へと飛び上がる。そのまま刀を抜き、天に翳す。

《烈火落星 メテオストライク》

 魔力が刀身に迸り、真っ赤に燃え上がる。紅く染まった刀はぐんぐんと俺の力を喰らい、頭上に炎の球を形成していく。これを受けたらただでは済むまい。

 眼下ではフィオナを含めた聖女騎士たちが目を見開き、動けないでいた。

 大聖女アリスだけが瞳を輝かせて、俺を見上げている。やはりあの皇女様はどこ変わっている。

「さあ! 行くのだマスター」

 いや――。もういいだろう。

 俺はデュランダルの声を無視して、火球をさらに高い空へと放り投げた。

「なっ! 何をするのだマスター! せっかくコネコネしたのに!」

「いいんだよ」

 炎はややあってから、花火のように弾けて消えた。僅かな残滓が風に踊り、意外ときれいだった。

「マスター! 何をしているのだ! せっかくビビらせてやろうと思ったのに」

「もう十分ビビってるよ。ありがとうデュランダル」

「へ。あ、あえ。お礼なんて言われると、なんだか照れるのだ。えへへ」

 彼女の弾む声を聞いてから、俺は地上へと戻る。

 周囲へ視線を流すと、どの顔も口をぽかんとあけていた。どうやら力を示すのは成功したようだ。

 アリスが満面の笑顔で手を振っている。何故、うれしそうなんだ彼女は。

「完敗だ。ジン」

「え」

 先程まで嫌悪の瞳を向けていたフィオナが片膝をつき、俺に頭を垂れていた。西欧聖女騎士皇国という大国の筆頭騎士が、だ。しかしFラン以下だった俺が、彼女のような本物の騎士に頭を下げてもらうのは気恥ずかしい。それにデュランダルのおかけで手に入れた力に過ぎない。

「マスター。何度も言うが、それがマスターの力であり、ユニークスキルなのだ。他の者には絶対に到達できない高み。それがマスターなのだぞ」

 デュランダルの声に、小さく頷く。本当にありがとうな。相棒。

「フィオナ。顔を上げてくれ」

 俺の声に、彼女の碧い瞳がこちらを向く。澄み渡る海のように綺麗だった。

「今までの暴言を詫びよう。申し訳なかった」

 それだけ言うと、彼女は再び頭を下げた。

 あー。これは少しめんどうだな。

 フィオナの性格からして永遠に詫びてきそうである。うーんと、唸りながら俺は思案した。それからぱっと閃いた案を、彼女に提案してみた。

「フィオナ。じゃあさお詫びの印に、一個だけ頼みを聞いてくれないか?」

「無論だ。なんでも言ってくれ」

 彼女が顔を上げ、俺を見つめる。アリス皇女とは違い、大人の色香が漂っていた。

「友達になってくれよ。俺、友達一人もいないんだ」

 そう言って、俺は右手を差し出した。

「え」

 フィオナは俺の顔と手を交互に眺めては、きょとんとしている。俺はしゃがみこんで、片膝をついている筆頭騎士に手を伸ばした。

「ともだち、か」

 彼女は俺の手を見つめたまま、大きく笑い出した。

「はは。愉快だな君は」

 フィオナはそう言ってからの俺の手を取った。

「承知した。この西欧聖女騎士団フィオナ・ステンド、謹んで君のプロポーズを受けよう」

 え。プロポーズ?

「さあ。新居と婚前旅行と子供の教育方針について語り合おうではないか」

 フィオナは俺の手を引っ張ると、ぐいっと立ち上がらせる。

「おい。ちょっとまて。なんで結婚することになってるんだ」

「細かいことはいいではないか。とりあえず見事だったぞジン・カミクラ」

 フィオナよ。何故、頬を赤らめているのだ。

「マスター……この女ったらしめ」

 竜化を解くなり、傍らでデュランダルがうらめしそうに俺を見上げている。

 はあ。またかよ。もう勘弁してくれ。


 一方。西欧聖女騎士皇国領内、農村地域では――ゴブリンの大群たちによる殺戮が開始されていた。俺たちがこの事を知るのは、もうすぐである。

 その農村がリラの出身地であり、病気の父親と兄妹たちが残されていることも――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚された俺は余分な子でした

KeyBow
ファンタジー
異世界召喚を行うも本来の人数よりも1人多かった。召喚時にエラーが発生し余分な1人とは召喚に巻き込まれたおっさんだ。そして何故か若返った!また、理由が分からぬまま冤罪で捕らえられ、余分な異分子として処刑の為に危険な場所への放逐を実行される。果たしてその流刑された所から生きて出られるか?己の身に起こったエラーに苦しむ事になる。 サブタイトル 〜異世界召喚されたおっさんにはエラーがあり処刑の為放逐された!しかし真の勇者だった〜

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした

田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。 しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。 そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。 そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。 なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。 あらすじを読んでいただきありがとうございます。 併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。 より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

処理中です...