灰色に夕焼けを

柊 来飛

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惹かれ合う

貴方と一緒だから

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「ただいま…」

 「えっ!?」

 ガチャリとドアが開く音がする。僕はバタバタと玄関に行くと、そこには疲れた顔をした先生がいた。

「先生!?仕事じゃ…」

「早めに上がって来た…烏坂…」

「せっ、、せんせっ、」

 先生が手をこいこいと動かす。僕は急いで先生に駆け寄ると、そのままハグをされる。バッグは玄関端にちょこんと置いてある。

「無事でよかった…。何もされてないよな?」

「えっ?は、はい。無事です」

「良かった…」

 ん?、まさか、僕のことが気掛かりで集中出来なくて帰ってきたのか?今日の朝も仕事が手に付かないと言っていたし。嘘だろ、僕、先生をすごい心配させてる。もっとしっかりしないと。

「先生!報告です!難しかったですが、書けました!」

「おお、頑張ったな」

「えへへ!」

 僕が笑うと、先生も釣られて笑う。疲れた顔が少し柔らかくなる。

「今日はどこか食べに行こう。どこが良い?」

「えっと…」

 僕は迷う。何を食べたいか決まらないわけではない。ここで素直にはいと言ったらすごい豪華なところに連れて行かれる。
 前、どこか食べに行こうと言われて気軽にお寿司と答えた。僕は回転寿司だと確信していたのに、先生が行ったところは回らないお寿司屋さんだった。何でも、かなり有名なところで評価も高いが、それなりに値段も張る。お寿司一貫だけで僕が回転寿司で食べる料金を超えていた。僕はちまちまと食べていたが、先生はひょいひょいと食べていってしまった。
 お会計の時、チラリと見たらそこには目を張る金額が出されていて僕は目を逸らした。先生はカード払いでスマートに会計してその場を後にした。

 さて、こんなことがあった後だ。焼肉やらステーキやらを言ったらとんでもないところに連れて行かれる。僕は今日使い切った頭をまたフル回転させる。

「えっと、せん、先生と、家でゆっくり食べたい…です…」

 僕が導き出した答えはこれだった。だって、何言っても無理じゃないか、こんなの。
 先生は少し驚いた顔をして、僕に確認する。

「本当にそれで良いのか?」

「はい!先生と家で食べるご飯が1番美味しいです」

 ここまで言って気づく。これ、僕のご飯が美味しいって言ってるものだろ。自画自賛じゃないか、ナルシストすぎる。

「そうか。俺も、お前と食べる飯が1番美味しい」

 先生は笑う。その笑顔は心の底からのもので、嘘をついていない。

「でもお前疲れてるだろ、俺が何か…」

「いえ!僕さっきまで休んでましたし、何か作ります!先生こそ休みましょ」

「………ん、なぁ、飯買いに行くの何時だ?」

「えっと、割引される時間がいいから夕方ですかね」

「分かった」

 先生はそれまで休むのだろう。僕は先生から離れて残っている家事を終わらせようとするが、先生が僕の腕を掴む。

「先生?」

「ご褒美、今日の夜な」

「……ひゃ、ひゃい、」

 何でもない、ただのあの約束のことなのに。僕の頭はそれをとても色っぽいことと受け取る。何もないのに、何も。それなのに僕は腑抜けた声を出してしまう。
 先生はそれだけ言うとフラフラと自室にこもってしまった。

「……はぁああ、」

 僕はその場にへたれ込む。あんなの、ずるいじゃないか。
 疲れた顔をしてたのに、僕をハグしたら少し柔らかくなって、僕と一緒に食べるご飯が美味しいって言ってくれて、端麗な顔であんな単語を言って。

「………好き、だなぁ……」

 口に出してみて後悔する。もっと身体中が熱くなる。そして、もう手遅れだと気づく。



 この恋の火を消せるのなら、それは先生の拒絶だけだろう。

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