灰色に夕焼けを

柊 来飛

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止められない想い

その言葉は希望が絶望か

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 翌日、僕が登校すると下駄箱に何かが詰められていた。

「うわ…」

 そこにはゴミや木の枝、上履きには数個だが画鋲が入っていた。
 こんな嫌がらせは初めてだ。僕の悪口は多々あったが、僕に近づこうとしなかったから、形に残る嫌がらせはされたことがなかった。

「幼稚な…」

 僕はゴミと木の枝を分け、木の枝は外に捨て、ゴミは燃えるゴミと燃えないごみに分けてゴミ箱に捨てる。

 教室に着くと、みんなが僕のそばに来る。

「烏坂、大丈夫か?何かされてたり…」

「えっと…、」

 僕は手の中の画鋲を見せる。それを見ただけでクラスメイトは全てを察したらしい。

「ふざけんな!もう無理だ!俺らも出るとこ出るぞ!」

「んー、形に残る嫌がらせは初めてだったからビックリしちゃった」

「そんな呑気なこと言ってる場合じゃねえよ!カチコミ行くぞ!」

「まだ来てないよ、アイツ」

 声を上げる男の子を女の子が嗜める。しかし、女の子は止めはしない。あくまで彼が来ていないということだけを伝えている。

「動画はもう何人かに回した。みんな怒ってたよ。烏坂さん、あんなに言われてよく手出さなかったね」

「本当はそうしたかったけど、ただ単に僕の力が無くて…先生なら殴ってたかな」

 アハハと僕が笑うと、みんなは張り詰めた表情になる。

「あ、のさ…、烏坂の先生って、本当にただの大学教授なの…?SPとかじゃなくて?」

「大学教授だよ。僕も先生の大学に見学行ったけど、ちゃんと授業してたし」

「あの体格と顔で大学教授は無理あるって…」

「確かに、前大学のドアに頭ぶつけたり、背が大きくて大変とは聞いたけど…」

「いや、そういうことじゃないんだ、そういうことじゃ…」

 みんなは頭を抱える。僕は眉を下げてオロオロしていると、彩葉が伊集院君と一緒に入ってくる。

「夕」

「あっ、彩葉」

「夕、さっき夕の先生に会った。水筒忘れてたって」

「えっ!?」

 見ると彩葉の手には僕がいつも使っている水筒がある。僕はそれを受け取り、彩葉に感謝を伝える。

「ありがとう、彩葉」

「ん、夕の先生、優しいね。姿怖いけど」

 ズバズバと言う彩葉を伊集院君が止める。
 まぁ姿が怖いのはそうだと思う。

「後、夕に何かあったら自分にも伝えてくれって言われた。だから、その画鋲のこと言った」

「……え?」

 何で、さっき起きた画鋲のことを知っているんだ?

「さっき、夕を見た時、何か下駄箱でしてたでしょ?そのとき、画鋲を取り出してるの見えたから。それで声をかけようとしたとき、夕の先生に声かけられた」

 すごく、すごくタイミングが悪い。

「夕の先生、怒ってたよ。後、サッカー部のあの男の子の名前も聞かれた」

「っ、しゃっ、喋った…?」

「?、うん。私は知らなかったから、凛に聞いた」

「教えたけど、アイツの名前烏坂さん知らなかったんだね」

 違う、わざと言わなかったのだ。やばい、本人の優しさがここまで痛いなんて。

「よくやった2人とも。後で飲み物奢ってる」

「じゃあ俺は今日購買所でなんか買ってやるよ」

 2人は急に受ける待遇に疑問符を浮かべるが、ありがたく受け取っている。
 僕が呆然としていると、女の子2人に仲良く肩を組まれる。
 
「夕ちゃん、教えてあげる。物事は急に風向きを変えるものだよ。良い方向にも、悪い方向にも。さて、これはどっちかな?」

 ニコニコとそんな言葉をかける。僕の口からは掠れた息が出るだけだ。
 今日家に帰ったら確実に聞かれる。どうしよう、先生本気で殺しに行くかもしれない。

 そんな不安を胸に僕は授業を受けたが、何も頭に入ってこなかった。

 帰り際、下駄箱で例の彼に鉢合わせした。

「あれ、烏坂さん。足の裏怪我してない?」

 僕は返すのも億劫になって眉を顰める。出てくる溜息も隠せない。

「おい、お前。ついに一線超えやがったな。いや、もうとっくに超えてるか」

 僕の後ろからクラスメイトの男の子が声を上げる。
 しかし、彼はものともせず自分の運動靴に履き替える。

「さあ、何のことだか」

「お前今なら引き返せるぞ、今なら。もうこの先は無理だ。もうやめろよ」

 男の子は真剣に問いかけるが、彼は手をハラハラと振るだけだ。

「だから、何のこと?」

「お前本当に死ぬぞ、」

 男の子の声色が変わる。最初は圧のある恨み声だったが、今は本当に心配している声だ。

「何がだよ。そんなこと言って、俺が怖がるわけないだろ」

 それを聞いた男の子は大きな溜息をついて頭を抱える。

「俺は忠告した、もう知らん」

 そう言って男の子も運動靴に履き替える。僕もローファーに履き替えたとき、クラスメイトの女の子がこちらに来る。



 「夕ちゃん!夕ちゃんの先生が来てるよ!」
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