灰色に夕焼けを

柊 来飛

文字の大きさ
上 下
73 / 132
止められない想い

頼って困らせて

しおりを挟む
 みんなは僕と一緒に校門まで来てくれた。そして、僕の別れ際に言葉を交わす。

「さっきああは言ったけど、本当にばら撒く気は無いから。でも、これからも続くようだったら俺たちに言って、なんでもするから」

「そうだよ、夕ちゃん。もっと頼ってよ」

「そのさ、さっきのこと、俺ら聞いちゃったたけどさ…。俺らからも教えるよ。辛い時とか、困ったときは、頼って良いんだよ。迷惑かけて良いんだよ」

「迷惑、かけていいの…?」

 僕が不安な声で聞くと、みんなは大きく頷く。

「良いんだよ!同じクラスメイトでしょ!?と言うか、夕ちゃんの迷惑って迷惑じゃないし!」

 僕の手を握って笑顔で答えてくれる。僕はさっき泣いたばっかりなのに、また泣いてしまいそうだ。

「もっと頼ってよ、もっと迷惑かけてよ。そうやって仲良くなってくんだからさ」

 今回の案の提案者の男の子が言う。僕は堪えきれずに涙がポロポロと流れる。

「え!?待って、烏坂!?ちょ、ちが、泣かせたいわけじゃなくて、」

「あーあ。夕ちゃんの先生に怒られるぞー」

「違うって!俺まだやりたいこと沢山あるのに!」

 ワナワナとする男の子に僕は笑いかける。

「ありがとう。僕、これからはみんなをもっと頼るよ」

「うん、そうしてよ。後、烏坂の先生には、俺が泣かせたって言わないでほしいかな…」

「それは僕の気分だなぁ」

「待って烏坂!ジュース奢る!ジュース奢るから!」

 財布を取り出して慌てる姿が面白くて笑ってしまう。

 そっか、僕、もっと迷惑かけて良いんだ。また新しいことをみんなに教えてもらった。僕はまだ何も返せてない。しかし、みんなは見返りを望んでこんなことをしているわけじゃ無いと、彩葉が教えてくれた。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「先生、お風呂入り終わった後、時間ありますか?話したいことがあるんです」

 夕飯を食べ終わった後、先生に話しかける。先生は全てを察したように答える。

「ああ。全部、聞かせてくれ」

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 お風呂上がり、僕たちはベランダに出ていた。

「今日、またあの男の子に呼ばれたんです」

「行ったのか?」

「はい。それで、最初は良かったんですけど、途中から僕も怒っちゃって。言い合いになったんです。取っ組み合いの喧嘩になってしまって」 

「お前がそんなになるなんて、随分と凄いな」

「はい。先生を、馬鹿にしてきたんです。僕の身体を、先生に売ってるって言われて、それで、先生のこと、凄い言って、」

「烏坂、」

「先生は、そんな人じゃ無いのに、何も知らないくせに、そんなこと言って」

 僕は先生の方を向く。先生は僕をただ見つめる。

「先生。僕とみんな、何が違うんでしょうか。聞いても、教えてくれなくて」

「全部違うし、全部同じだ」

 先生は僕の頭を撫でながら言う。

「同じところなんて無いし、違うところなんて無い。結局みんなそうだ、怖いんだ」

「怖い?」

「自分の知らないことが怖いんだ。だから、自分と違うものを認められない。違うということを、同じだということを、知らないから」

 未知は恐怖だと、どこかで聞いた。それは、この事なのだろうか。

「難しいですね、分かり合うのは」

「全くだ」

 先生も経験があるのだろう。遠い目をする。僕は先生に近づいて自分からハグをする。

「烏坂?」

「今日、みんなが教えてくれました。迷惑かけても良いと。だから、先生にも迷惑をかけます」

「可愛い迷惑だ」
 
 先生はそう笑って僕を抱き寄せる。先生の規則正しい鼓動が聞こえる。

「…今日、話したは良いものの、まだ解決してないんです。一応、証拠の動画は撮ったんですけど…」

「それなら十分だろう。何かあったら、俺がなんとかしてやる」

「心強いです」

 僕は安心感で眠くなる。しかし、もう少し先生と一緒にいたい。

「先生、あったかい…」

「それはお前の方だろ。もう寝るか?運ぶぞ」

「もう、少し…一緒に…」

 眠たい頭で僕はふと思い、先生から一回離れる。

「先生、しゃがんでくれませんか?」

「?、こうか?」

 スッと先生が屈む。身長差がある為、かなり腰を低くした状態になる。
 僕はほぼ同じ目線になった先生の頭を撫でる。

「か、烏坂?」

「先生がいつも撫でてくれるので、お返しです」

 わしゃわしゃと濡れた髪を撫でる。お返しとは言ったけれど、先生は頭を撫でられるの好きなのだろうか。僕は好きだけど、先生が好きじゃなかったらお返しにならないぞ。

「先生、今更ですけど、頭撫でられるの好きですか?」

「………お前に撫でられるのは、悪く無い」

「そっかぁ、えへへ」

 頭を撫でている間にも、睡魔は容赦なく襲ってくる。眠気でよろけた僕の身体を先生は支えてくれる。

「やっぱ眠いだろ、無理すんな」

「無理なんて、してない…」

 そう言っている間にも、僕の言葉は舌足らずだ。呂律が回らなくなっている僕を先生は僕を抱き上げる。
 
「今日はもう寝ろ。大変だったんだから」

「ん…。先生、また、明日…」

 
 僕はそのまま先生の腕の中で意識を手放した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

処理中です...