灰色に夕焼けを

柊 来飛

文字の大きさ
上 下
39 / 132
自覚

殺意

しおりを挟む
 「誰だ、テメェ…」

 みんなが驚いて先生に聞く。先生は黙っているだけだ。

「誰かって聞いてんだよっ!」

 近くにいた仲間が殴りかかったが、先生はフッと顔だけを少し動かしただけで相手の拳は空を切る。
 先生はそのままガラ空きの背中を蹴ってその人はバタンと地面に突っ伏する。

「痛ってぇ…っ」

 そのまま先生は僕の方に向かってくる。相手の人たちは恐怖をかき消すかのようにまた大声をあげる。

「テメェ、よくもやってくれたな!!」

「それは、こっちの台詞セリフだが」

「はぁ?」

「抵抗せず、彼女を離せ。穏便に解決したい」

「ハッ、ビビってんのかよおっさん!!」

 はぁと溜息を吐く先生。先生は一度目を瞑り、もう一度開ける。

 その目はナイフのように鋭く、光を受け付けなかった。

「話が通じないな」

「ああ、そうだなぁ!!」

 複数人で先生に向かっていく仲間達。
 しかし先生は1人の首根っこを掴むと仲間の方に投げ、残った人は足蹴りで一蹴する。 
  
 あまりにも呆気なくやられた味方を見て、僕を押さえている人達は怖気付く。
 ふと力が緩んだのを見計らい、僕は服を整えることもせず先生の方に走る。
 しかし、僕の前にいたリーダーらしき人に捕まってしまう。首に何か冷たいものを当てられる。

「ぅぐっ、」

「おい、コイツがどうなってもいいのかよ!!」

 僕の姿を見た先生は目を見開く。やめて、見ないでほしい。こんなボロボロの僕の姿。
 スカートはずり落ち、スパッツも少し下げられている。片方の下着の紐は肩には掛かっておらず、セーラー服の下から見えている。 
 僕は悔しさと怖さと恥ずかしさで余計にボロボロと涙が溢れる。

「み、見な、いで、せんせ、」

「先生?コイツが?」

 疑問の声を口にするが、今はどうでもいいのだろう。その人はグッと僕の首にそれを当てる。少しの痛みが走り、血が流れるのが分かった。このとき、この人が持っているのはナイフだと確信した。

「いいのかよ、センセイ。大人しくしないとコイツの首に傷がつくぞ」

「何をした」

 先生の聞いたことない低い声が静かに響く。オープンキャンパスの声とは比にならない怒りと殺気を織り交ぜた声。
 その声にみんなが怯む。

「み、見りゃ分かんだろ、アンタの目は節穴か?」

「そのままの意味で捉えていいんだな」

 そう言うと先生は、こっちに大きく飛んだかと思うと、仲間の1人の胸を踏みつけた。
 そのまま周りにいた1人の顔面に足蹴りを喰らわせて、ナイフを持っている手をついて掴んで捻る。
 痛みで顔が歪むのも気にせず、先生は力を入れ続ける。
 相手がナイフを落とした直後、それを空中で拾うと先生はそのナイフをリーダーらしき人に突きつけた。そのままその人を壁に追いやる。壁でもう後ろに下がれなくなった人は苦し紛れの強がる声を出す。
 自由になった僕は、立つ力もなくなりその場に座り込む。

「そ、それで、どうするつもりだよ」

「どうしてほしい?」

「ハッ、まさか殺すのか?」

「構わないが」

 先生はナイフをその人の首に立てて横にずらす。スパッと切れて血が出てくる。

「痛い、いてえええ!!!」

 その人は首を抑えてその場に蹲る。先生はヒュンとナイフの刃の向きを変えた後蹲ってるその人を容赦なく蹴飛ばし、その人は壁に打ち付けられてゲホッと咳き込む。

「誰から殺せばいい、誰から殺してほしい」

 先生は僕に問いかける。

「え?」

「誰でもいい。誰からがいい?コイツは最後に取っておくか?」

「せ、せんせ、」

「俺が最初殴ったやつから殺すか?」

「せ、先生、何言って…」

 淡々と誰から殺すか喋る先生の目は、本気だった。僕は怖くて泣きながら言う。

「こ、殺さなくていいです、だい、大丈夫ですから、、」

「こんな格好で、大丈夫だと?」

 自分の格好を指摘される。この格好は、明らかに暴漢に合ったと物語っている。

「先生、僕は、先生に人殺しになってほしくありません」

「じゃあどうすればいい!コイツらはお前をっ」
 
 先生が叫ぶ。感情的になっている先生を初めて見た。
 僕が、僕がして欲しいこと。それはー

      
      
      ー「抱きしめて」ー



 僕がか弱い声で言う。

 それを聞いた先生は瞳を僅かに揺らしてナイフを投げ捨てた後、そのまま膝をついて座り込んでいる僕を力一杯抱きしめる。

「すまん、怖がらせた」

 そう言って僕の頭を優しく撫でる。大きな手が僕を包み込んでくれる。先生の温もりが、僕を安心させてくれる。

「いつもの、先生だ」

「……ああ、いつもの俺だ」

「せんせ、助けに来てくれて、ありがとうございます」

「…………」

「僕、無事ですよ」

「どこが、どこが無事なんだ!」

 先生は僕の肩を力強く掴む。
 しかし、僕は先生の首に腕を回し、そのまま話し続ける。

「先生、ありがとう」

 先生はギリっと歯を噛み締める。

「何をされた」

「……なにも、は通じませんね。一線は超えてません」

「…それ以外はされたのか」

「体を、少し触られて、…。後は、首。首筋を、な、…舐め、られた…」

「やっぱ殺すか」

「ダメです先生。僕が嫌です」

「クソッ、お前は何でそんなに落ち着いてるんだ」

「先生が、来てくれたから」

 そう言うと、先生は僕をまた抱きしめる。

 外から彩葉達の声が聞こえる。

「こっちです!ここの路地に…」

 警察官達が路地に入るや否や、暴漢達が地面に転がっているのを見つける。

「何だ、これは…」

 僕たちは警察官達に言われ、警察署で事情を話すことになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

辞令:高飛車令嬢。妃候補の任を解き、宰相室勤務を命ずる

花雨宮琵
恋愛
“庶子・黒髪・魔力なし。3拍子揃った高飛車令嬢”――世間でそう呼ばれ蔑まれているデルフィーヌは、あらゆる魔力を無力化する魔力無効の持ち主である。 幼き日に出会った“海のアースアイ”を持つ少年が王太子・リシャールであることを知ったデルフィーヌは、彼に相応しい女性になるため厳しい妃教育に邁進するも、150年ぶりに誕生した聖女に彼のパートナーの座をあっさりと奪われる。 そんなある日、冤罪で投獄されたデルフィーヌは聖女付の侍女となり過労死する未来を透視する。 「こうしちゃいられない!」と妃候補を辞退する道を画策するデルフィーヌに、王命による辞令が言い渡される。 親世代の確執に、秘匿された出自の謎が解き明かされたとき、デルフィーヌが選ぶ未来とは――。 この小説は、不遇なヒロインが自分の置かれた環境で逞しく生き抜いていく姿を描いたハッピーエンドの物語です。 ※異世界の物語のため、アース・アイの描写など現実世界とは異なる設定になっています。 ※カクヨムにも掲載しています((C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。)

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...