灰色に夕焼けを

柊 来飛

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学校

部活

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 彩葉と一緒に色んな部活を回った。
 彩葉はもう何が何がも美術部と決めているらしく、まだ入るかどうかも決めていない僕のことを優先してくれた。
 
「スポーツをやってる人って、すごいカッコいいと思う。夕は?」

「うん、私もそう思う」

「夕、君はどっちなの?」
 
「どっちって?」

「僕か私か。ああ、いくつか一人称がある人?」

「あっえーと、人前では私にしてるけど…普段は僕だよ」

「じゃあ、私の前でも僕がいい。その方が友達になれそう」

「わかった。僕にする」

 運動部を一通り見た後、文化部を回る。色々見ている中、僕は彩葉に問いかける。

「彩葉は、何で僕のこと描きたいって思ったの?」

「…………むず、かしい、言葉にするのは。でも、夕は独特?だから。他の人とは、何か、違う気がしたから。だから描きたい。夕、とても綺麗だから。その美しさというか、儚さというか、それを自分の絵で表してみたい」

 何かとんでもないことを僕に想ってくれているらしい。でも僕はそんな綺麗じゃなくないか?髪だってピョコピョコ跳ねてるし、ストレートサラサラ黒髪ボブの彩葉の方がよっぽど映えると思うのだが。

 他愛の無い会話を続けていると、写真部の前に来た。写真部の部員らしき男子生徒2人が勧誘をしている、本当にとても一生懸命。命が懸かっているんじゃないかってくらいに必死に。生徒の男の子特有の低く大きな声が廊下に響きわたる。

「写真!写真撮りませんか!?初心者でも大丈夫です!大歓迎です!!部員がいないんです!部長と副部長二人だけなんです!!兼部でも!!このままじゃ廃部になっちゃうんです!!」

だからこんなに必死なのか。大変そうだなぁと思っていたら、僕たちの方にも声をかけられた。

「そこの二人組!どう!?気にならない!?」

「私は美術部一択なので」

「えっと…私は、まだ決まってはないんですけど…」

「じゃぁ候補に入れとくだけでも!活動日数少ないし、カメラさえあれば活動できるよ!」

 確かに、活動日数が少ないのは僕にとって良い条件だ。聞くと月に2、3回ほどらしい。
 「良いかも…」と、ポロッと口に出したら、これはいけると思った写真部の二人がグイグイ推してきた。どうすればいいのか分からなくて、彩葉にヘルプの視線を送ると、

「確かに、夕はカメラ、似合うと思う。写真撮るの上手そうだし。夕がいいと思うなら、それがいい。」

 違う!!いや、褒めてくれるのは嬉しいが今はそうじゃない!!助けてくれ!彩葉!!

 どうにかこうにかして写真部から離れた僕たちは彩葉本命の美術部に来た。何やらスケッチ?みたいなものをしている。美術部の部長さんが穏やかな声で話しかけてくれる。

「どう?描いてく?」

「いや、私は絵とかあんまり描かなくて…」

「じゃ、モデルだけでも!」

「夕、モデルやって欲しい」

 彩葉は僕を描きたいと言っていた。ここで断る理由も無いし、僕はモデルとなった。ポーズとか色々悩んだ結果、窓の外を見ている僕を描くことに決まった。
 時間は5分。タイマーが始まりの音を鳴らし、一斉に鉛筆が動く。鉛筆が紙の上を滑る音だけが美術室に響き、それがとても心地いい。
 ピピピピと、無情にもタイマーが5分経ったことを知らせる。

「あー、時間少ないー!」

「もっと時間配分考えるべきだったなぁ」

「ここ、もうちょっと書き込みたかったな」

 色んな声が交錯する中、僕は彩葉の絵を見せてもらった。当たり前だが僕の横顔が描かれている。自分で言うのもアレだが、とても美人だった。窓の外を見ている儚い美人な人という印象で、僕に似てるような似てないような、いや似てはいるのだが僕はそれを僕だと認識できなかった。あまりにも美人すぎて。

「すごい美人さんに描いてくれたね」

「そのままの夕を描いただけ。ほんとはもっと描き込みたかった。また、モデルになってくれる?」

「勿論だよ」

描いた絵は持ち帰ることも、美術部に預けることも可能らしい。せっかく描いた絵だ、彩葉は持って帰ることにしたらしい。

「彩葉、絵上手だね。びっくりしちゃった。」

「…夕、これ、いる?」

 そう差し出してきたのはさっき彩葉が描いてくれた僕の横顔だった。

「え!?これ彩葉が描いた絵でしょ?」

「うん、でも完成品じゃないし、もっと本格的に描きたいから。夕がいらないなら私が持ってる」

「……ほ、欲しい…です」

僕はありのままの心を伝えた。誰かに僕を描いてもらうなんて初めてだったし、嬉しかった。それをもらえるのなら、僕は喜んで欲しい。

「ん、あげる。次はもっとちゃんと描くから、また見にきて」

「うん!楽しみにしてる!」

 僕たちはもう一通り回り終わったため、そろそろ解散することにした。下駄箱で靴にローファーに履き替え終わったとき、僕たちは手を振り合う。

「じゃあね夕。また明日」

「うん。また明日!」

 僕は早速先生に連絡しようとスマホと開くと、先生から連絡が入っていた。ちょうど保護者の会議が終わったらしい。昇降口付近で待っていて欲しいとのことだった。
 このスマホも先生に貰ったもので、かろうじて連絡手段は覚えたがそれ以外の操作はほぼわからない。
 僕は邪魔にならない様に昇降口の端に寄る。僕はスマホ画面を意味も無くぽけーと見ていると、肩を叩かれた。

「あ、先…」

「?せん?」

「あっわっ!彩葉!どうしたの?」

「連絡先、交換してなかったと思って」

「あっ確かに。今交換しちゃおうか」

 連絡先交換は家で先生と一回やっていたため無事に交換できた。連絡先の項目に新しく彩葉の名前が入る。彩葉は満足そうにフフンと言ってから手を軽く振って帰路についた。それを見送ると、見計らった様に後ろから声がかかる。

「友達、出来てんじゃねぇか」

「わぁ!先生、居たなら言ってくださいよ」

「連絡先交換してんのに邪魔するわけにはいかねぇだろ」

 気を遣って話かけなかったらしい。そこまで考えが回らなかったことを密かに反省しながら、僕は先生の車で家に帰った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 僕が作った夕飯を2人で食べてる途中、先生が口を開いた。

「連絡先を交換してたが、もう仲良くなったのか」

「はい。向こうから話しかけてきてくれて。美術部に入る予定の子で、僕を描いた絵ももらったんですよ。すごく上手でした」

「そういえば、お前はどの部活入るか決まったのか?別に入らなくても俺が決めることじゃねぇが」
 
 それを聞いて僕は「ちょっと待っててください」と言って、自分の部屋から入部希望用紙を持ってきた。それを見た先生は少し驚いた様子で言った。

「ここにするのか。……似合うな」

僕を少し見つめてから、彩葉と同じ言葉を口にする。


 次の日、僕はその部長に入部届を出してきた。
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