灰色に夕焼けを

柊 来飛

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先生と僕

先生との生活の始まり

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「それと烏坂」

「はい」

「俺の前では取り繕わなくていい。君は気づいていないが、さっきから私やら僕やらで一人称がごちゃごちゃだぞ」

「えっ!僕、あっ、いやっ、わっ、私…」

 人前では「僕」ではなく「私」にしているのだが、まずい、気づかなかった。

「…分かりました、先生。先生の前では僕、取り繕わないです」

 そう言うと、先生は満足したのか資料を持って自室に行ってしまった。僕もここにいても何も無いから一旦自室に戻り私物を整理した。

 …と、言っても…本当に少ないな、僕の私物。服は今着ているTシャツとズボン合わせて各2着ずつ、そして制服のみだ。靴はローファーと運動靴の2組だけ。

 はぁ、とため息をつく。これらは全て施設での惨めさを表している様で気が滅入る。気分を変えたくて、僕は高校から出された課題に取り掛かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 

 しばらくして、先生に夕飯ができたと呼ばれた。部屋にあった時計を見ると6時半を差している。もうそんな時間か。僕は返事をして階段を降りた。
 
 リビングに行くと美味しそうな料理が沢山並んでいた。白いご飯にお味噌汁、サラダと鶏肉の料理など、様々な料理がある。

「わあああ!!!」
 
 僕は思わず感嘆の声を出す。美味しそう!本当に美味しそう!!匂いからして美味しいもん!!!しかも量が沢山ある。まぁ先生が大きいからその分沢山食べるのだろう。

「…そんなオーバーリアクションしなくてもいいんだが」

「?、オーバーリアクション?」

「…いや、何でもない、喜んでくれて何よりだ。すっかり好きなものを聞くのを忘れていたな、何か食べられないものとかないか?」

「無いです!」

「そうか、なら良かった」
 
 僕たちは席に着き、いただきますと言ってからそのご飯を食べた。
 美味しい!温かいご飯を食べたのはいつぶりだろうか。ニコニコとご飯を食べる僕を、先生は不思議そうな顔で見ていた。

「美味いか」

「はい!!」

「育ち盛りなんだから沢山食べろよ」
 
 優しい、とても優しい。僕の周りには、そんなこと言ってくれる人は居なかったから。
 先生の優しさに心を温かくさせて僕はお腹いっぱい夕飯を食べた。

「ごちそうさまでした」

「ん」
 
僕もかなり食べた方だけど、先生は僕の倍以上食べてる気がする。
 いや、気がすると言うか絶対そう。あんなにあった夕飯は全部綺麗に完食されている。

「お風呂は僕が沸かします」

「いや、そこまでしなくてもんだがー」

「いえ!こんなに美味しいご飯を食べさせてもらったのに、何もしないなんて僕が許しません」

「‥じゃあ頼む、風呂の場所はわかるか?」

「はい!わかります!」
 
 そう言って食器をキッチンに片付けた後、お風呂場に向かいお風呂を沸かした。お風呂場に行ったら思った以上に広くてびっくりした。
 この家自体大きいからそうなのかもしれないが。まぁ先生自体が大きいしそれに合わせて作っているのだろう。キッチンも少し見たけれど棚の位置とかも高かった気がする。
 その思考で僕は思い出す。あ!食器洗い!先生に任せてないか僕!?慌ててキッチンに行くと案の定先生が洗い物をしていた。

「先生、すみません!」

「?、風呂の場所分からなかったか?」

「いえ、お風呂は沸かしたんですが、食器洗いを任せてしまって」

「君に風呂を沸かせているんだから食器洗いくらい俺がやる。それに、ここは俺の身長に合わせているから使いにくいぞ」

「…次からは僕がやります。やって、この高さに慣れます」

「………献身的だな」

「家でも施設でも、全部僕の担当でしたから」
 
 それを聞いた先生は眉を顰めた後、目を少し伏せた。
 
 あれ、僕何か言ってはいけないことを言っただろうか。悲しませた?怒らせた?こんな小さい女一人じゃ出来ないって思われただろうか。
 でも、僕も何かやりたい。先生の役に立ちたい。

「先生、先生は仕事で忙しいと思います。だから、僕がご飯作ります。洗濯も、掃除も、家事全般は僕がやるので先生は気にせずゆっくりしてください」

「いや、君も勉強があるだろう。そんなに任せるのはー」

「先生はこんな僕を家に置いて、学費も払ってくれて、今日は美味しいご飯まで作ってくれました、お腹いっぱいご飯を食べさせてくれました。先生、本当に僕は大丈夫なのでやらせてください。やっぱり厳しいなって思ったら、遠慮せず先生に相談します。お願いです、僕、こんなにしてもらってるのに何も出来ないの、惨めさで死にそうです」
 
 僕が必死の思いで言うと、先生も分かってくれたのだろう。何か言おうと口を開いたが、ぐっと閉じた。 
 そして真っ直ぐな目をこちらに向けて言った。

「何かあったらすぐに言うんだぞ。無理は絶対するな。」

「はい!」
 

 ここから、僕と先生の生活が始まった。

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