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会いたい人
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ソレイユに事情を話すと、ソレイユはすぐに質問する。
「この部隊は所謂上の都合のいい駒だと」
「まぁな」
「だとすると、扱いも雑になると」
「その通り」
「となると、各地に派遣される」
「ご名答」
「分かりました。入ります」
「ああ…え?は、入る、のか?」
「ええ。入ります」
ソレイユのあまりにも軽い返事に、ヴァルレイトの組んでいた腕は解かれ、寄っかかっていた机の端からずるりと体勢を崩して拍子抜けする。
「じゃあよろしく、ソレイユ」
「よろしくお願いします、アンさん」
ソレイユとアンは互いに挨拶を交わし、グリムともまた挨拶を交わしている。ヴァルレイトは「ゴホン」と気を取り直し、ソレイユに問う。
「俺が言うのもアレだが、ここに入るメリットはあるのか?」
「…………会いたい人が、いるのです」
「会いたい人?」
ヴァルレイトが質問すると、ソレイユは目を伏せて何かに思いを馳せた後、ゆっくりと口を開く。
「自分が第一陸軍上等兵なのは、危ない戦地に駆り出されるからです」
「え、お、俺と真逆だ……」
「ご存知の通り、昇進の話も出ていましたが全て断りました。自分にとっては、「第一陸軍上等兵」の立場が重要なのです」
「ほう、それは何故だ?」
「……これ以上上に上がると戦いではなく指示全般を任されます。とすると、戦場に行っても自分は外野になってしまうのです。自分はそれを望んでいない、戦場で戦うことが望みなのです」
ヴァルレイトとホークを首を傾げる。ここだけ聞けばただの戦闘狂だが、「会いたい人がいる」というのが引っかかる。
「話が見えないな。何故そんなに戦うことを望むんだ?その戦いが何故会いたい人と繋がるんだ?」
「自分の会いたい人は、軍人なんです。自分をここまで強くしてくれたのも、その人です。しかし、その人はある日自分を1人置いてどこかに行ってしまった。そしてまだ再会を果たしていません。自分は、その人に会うために戦っているのです」
なるほどと皆は納得する。確かに理にはかなっているが、現実はそう甘くない。
「会いたい人が軍人だから戦地に行って探していると…。しかしだな、ソレイユ。その人はもう昇進して戦地には来ていないとか、軍を辞めている可能性だってあるぞ」
「それはありません。自分が記憶するその人は、自らが戦地に赴き少しでも犠牲者を減らすのだと、そう仰っていました。そして、その信念を軽々しく曲げる人ではありません」
「そうねぇ…まっ、可能性はあるな」
「ええ。ですから自分は、その人に会うために軍に入ったのです。お恥ずかしいことですが、国の為、軍の為…にはあまり動いたことがありません。勿論、命令とあらば何事もこなしてみせますが」
ソレイユもホークと同じ、その目的のためなら何だって出来る、やってみせる奴だと分かったヴァルレイトは早速パソコンにソレイユの名前を打ち込もうとするが、キーボードの音の前にアンの声がする。
「その人はもう死んでいるかもしれないぞ」
「おいアン!!」
ヴァルレイトはアンを嗜めるが、アンの口は止まらない。
何でアンはいつもこうなんだ。せっかく入ってくれると言っているのにそれを帳消しにする様なことばかり!
ヴァルレイトはアンを睨みつけるが、アンはフイッと視線を逸らしソレイユと見つめ合う。
「事実だ。あんなに長い戦争だったんだ、どこでいつ死んでもおかしくない」
「それはあり得ません」
ソレイユは淡々として答え、アンはその理由を問う。
「あの人は、先生は、強いです。だから自分も強くなり危ない戦地で探しているのです。そんな強い先生が死ぬなんてことはありません」
「じゃあ聞くが、俺達よりも強いのか?」
「アンさん達の戦力はまだ自分には分かりませんが、自分が勧誘されるくらいなら、先生は必ず欲しいと思うほどには強いです」
「ソレイユお墨付きか。その先生って人も欲しい、味方か敵かは分からないが。ヴァルレイト、候補に入れといてくれ」
「了解。ソレイユ、その先生の名前は?」
「アインス・ユニヴァースです」
アンの提案もあり、取り敢えずソレイユは決定とし、例の「先生」の名前も打ち込んでおく。皆と軽く自己紹介をし、敬語でなくても良いとヴァルレイトは言うが、これは本人そもそもの人柄らしく、ソレイユは名前だけは呼び捨てで敬語は続行する事となった。
「その、ソレイユ。何で俺なんかを知ってたんだ?普通、何の戦果も上げていない第五陸軍二等兵の事なんて普通知らないでしょ」
ホークはずっと気になっていたことをソレイユに聞く。
「以前、第五陸軍戦力底上げ訓練のため第一陸軍と合同に訓練を行ったのを覚えていますか?」
「ああ、あったね。第五陸軍は第一陸軍よりもずっと数が多いから第一陸軍1人につき第五陸軍100人程を当ててたよね」
「ええ。その時、ホークに会っています。自分の担当のグループに、ホークがいました」
「え、そ、そうだっけ………ごめん、覚えてなくて、」
「いいえ、自分はホークに話しかけませんでした。ホークは自分が教えなくても十分強かった。第五陸軍二等兵にしては動け過ぎているからよく印象に残っていたんです」
「そうだったんだ……。ありがとうソレイユ、じゃぁ他にこの部隊に入れそうな人はいるかな?」
「ハッキリ言うといないですね」
「ああ……」
「だよな」
ホークは落胆するが、ヴァルレイトは慣れた様子で眉を下げて肩をすくめる。そう簡単に出てくるわけがないし、今日だけで2人入隊しただけでもかなりの収穫だ。
「後はオペレーターとかも必要なんだよな…」
「今日はもう良いんじゃないかな、取り敢えず休もうよ。明後日からはもうテロ制圧に向けてここを出てる訳だし」
「ああ、そうだな。ソレイユ、それについての資料を送るから見といてくれ」
「分かりました」
「んじゃ、みんな備えろよ」
ヴァルレイトの労いの言葉を背に、皆はヴァルレイトの部屋を後にした。
「この部隊は所謂上の都合のいい駒だと」
「まぁな」
「だとすると、扱いも雑になると」
「その通り」
「となると、各地に派遣される」
「ご名答」
「分かりました。入ります」
「ああ…え?は、入る、のか?」
「ええ。入ります」
ソレイユのあまりにも軽い返事に、ヴァルレイトの組んでいた腕は解かれ、寄っかかっていた机の端からずるりと体勢を崩して拍子抜けする。
「じゃあよろしく、ソレイユ」
「よろしくお願いします、アンさん」
ソレイユとアンは互いに挨拶を交わし、グリムともまた挨拶を交わしている。ヴァルレイトは「ゴホン」と気を取り直し、ソレイユに問う。
「俺が言うのもアレだが、ここに入るメリットはあるのか?」
「…………会いたい人が、いるのです」
「会いたい人?」
ヴァルレイトが質問すると、ソレイユは目を伏せて何かに思いを馳せた後、ゆっくりと口を開く。
「自分が第一陸軍上等兵なのは、危ない戦地に駆り出されるからです」
「え、お、俺と真逆だ……」
「ご存知の通り、昇進の話も出ていましたが全て断りました。自分にとっては、「第一陸軍上等兵」の立場が重要なのです」
「ほう、それは何故だ?」
「……これ以上上に上がると戦いではなく指示全般を任されます。とすると、戦場に行っても自分は外野になってしまうのです。自分はそれを望んでいない、戦場で戦うことが望みなのです」
ヴァルレイトとホークを首を傾げる。ここだけ聞けばただの戦闘狂だが、「会いたい人がいる」というのが引っかかる。
「話が見えないな。何故そんなに戦うことを望むんだ?その戦いが何故会いたい人と繋がるんだ?」
「自分の会いたい人は、軍人なんです。自分をここまで強くしてくれたのも、その人です。しかし、その人はある日自分を1人置いてどこかに行ってしまった。そしてまだ再会を果たしていません。自分は、その人に会うために戦っているのです」
なるほどと皆は納得する。確かに理にはかなっているが、現実はそう甘くない。
「会いたい人が軍人だから戦地に行って探していると…。しかしだな、ソレイユ。その人はもう昇進して戦地には来ていないとか、軍を辞めている可能性だってあるぞ」
「それはありません。自分が記憶するその人は、自らが戦地に赴き少しでも犠牲者を減らすのだと、そう仰っていました。そして、その信念を軽々しく曲げる人ではありません」
「そうねぇ…まっ、可能性はあるな」
「ええ。ですから自分は、その人に会うために軍に入ったのです。お恥ずかしいことですが、国の為、軍の為…にはあまり動いたことがありません。勿論、命令とあらば何事もこなしてみせますが」
ソレイユもホークと同じ、その目的のためなら何だって出来る、やってみせる奴だと分かったヴァルレイトは早速パソコンにソレイユの名前を打ち込もうとするが、キーボードの音の前にアンの声がする。
「その人はもう死んでいるかもしれないぞ」
「おいアン!!」
ヴァルレイトはアンを嗜めるが、アンの口は止まらない。
何でアンはいつもこうなんだ。せっかく入ってくれると言っているのにそれを帳消しにする様なことばかり!
ヴァルレイトはアンを睨みつけるが、アンはフイッと視線を逸らしソレイユと見つめ合う。
「事実だ。あんなに長い戦争だったんだ、どこでいつ死んでもおかしくない」
「それはあり得ません」
ソレイユは淡々として答え、アンはその理由を問う。
「あの人は、先生は、強いです。だから自分も強くなり危ない戦地で探しているのです。そんな強い先生が死ぬなんてことはありません」
「じゃあ聞くが、俺達よりも強いのか?」
「アンさん達の戦力はまだ自分には分かりませんが、自分が勧誘されるくらいなら、先生は必ず欲しいと思うほどには強いです」
「ソレイユお墨付きか。その先生って人も欲しい、味方か敵かは分からないが。ヴァルレイト、候補に入れといてくれ」
「了解。ソレイユ、その先生の名前は?」
「アインス・ユニヴァースです」
アンの提案もあり、取り敢えずソレイユは決定とし、例の「先生」の名前も打ち込んでおく。皆と軽く自己紹介をし、敬語でなくても良いとヴァルレイトは言うが、これは本人そもそもの人柄らしく、ソレイユは名前だけは呼び捨てで敬語は続行する事となった。
「その、ソレイユ。何で俺なんかを知ってたんだ?普通、何の戦果も上げていない第五陸軍二等兵の事なんて普通知らないでしょ」
ホークはずっと気になっていたことをソレイユに聞く。
「以前、第五陸軍戦力底上げ訓練のため第一陸軍と合同に訓練を行ったのを覚えていますか?」
「ああ、あったね。第五陸軍は第一陸軍よりもずっと数が多いから第一陸軍1人につき第五陸軍100人程を当ててたよね」
「ええ。その時、ホークに会っています。自分の担当のグループに、ホークがいました」
「え、そ、そうだっけ………ごめん、覚えてなくて、」
「いいえ、自分はホークに話しかけませんでした。ホークは自分が教えなくても十分強かった。第五陸軍二等兵にしては動け過ぎているからよく印象に残っていたんです」
「そうだったんだ……。ありがとうソレイユ、じゃぁ他にこの部隊に入れそうな人はいるかな?」
「ハッキリ言うといないですね」
「ああ……」
「だよな」
ホークは落胆するが、ヴァルレイトは慣れた様子で眉を下げて肩をすくめる。そう簡単に出てくるわけがないし、今日だけで2人入隊しただけでもかなりの収穫だ。
「後はオペレーターとかも必要なんだよな…」
「今日はもう良いんじゃないかな、取り敢えず休もうよ。明後日からはもうテロ制圧に向けてここを出てる訳だし」
「ああ、そうだな。ソレイユ、それについての資料を送るから見といてくれ」
「分かりました」
「んじゃ、みんな備えろよ」
ヴァルレイトの労いの言葉を背に、皆はヴァルレイトの部屋を後にした。
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