アンデットボーイ・グリムリッパーガール

柊 来飛

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殺しの瞳

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 少し早く鍛錬広場に向かうと、もうそこにはソレイユが待っていた。

「早いな、ソレイユ」

「せっかく誘って貰ったのです、遅れるわけにはいきません」

「さて、誰と戦いたい?」

「誰でも構いません。自分の力を試すのなら、自分が選んでしまってはいけません」

 とても真面目だとヴァルレイトは笑うと、下から声がかかる。

「僕」

「グリム?」

「僕が出るよ」

「え、お前が?」

「駄目なら…」

「いや、駄目とかじゃ無いんだが…」

 ハッキリ言ってグリムはこの部隊の最高戦力だ。そのグリムでは戦力差があり過ぎて手合わせにもならないのではとヴァルレイトは少し不安になる。
 しかし、グリム自身からの申し出だ。ここで却下する理由も無い。
 
 相手がグリムなんてとても災難だと、こればかりはソレイユに同情するし、心の中で謝る。謝ってもどうにもならないが。
 
 しかし、逆に言えばグリムと少しでも良い戦いをすればそれは即戦力となりうる。その点においては基準が分かりやすいかもしれない。

「じゃあグリム、頼む」

「了解」

 グリムはアンと同じようなナイフを選び、ソレイユは小刀を選ぶ。2人して中央に向かうと、外野はコソコソと話をして嘲笑うような声を出す。

「なぁあれ、西の国の「死神の少年兵」と第一陸軍上等兵のソレイユだろ」

「だな、どんな勝負をしてくれんのか楽しみだ」

「女風情が。精々俺たちを楽しませてくれよ」

「「死神の少年兵」もまだガキじゃねえか。どっちが勝つと思う?」

「さぁ?ま、どっちも大した事無いんじゃね?」

 ザワザワと繰り広げられるのは彼女たちへの蔑む言葉ばかりだ。ヴァルレイトとホークは眉を顰めアンに視線を移すが、そこにアンはいない。2人は驚いてアンを探すと、アンは蔑む言葉を放っている男の集団の前にいた。

「おいアン!何やってんだ!」

 ヴァルレイトはアンを呼び戻そうとするが、アンは無視して男達と話す。

「2人がどうかは、見れば分かる」

「おおっ、これはこれは「不死身の少年兵」。お前はどっちに賭ける?」

「賭けはしない。ただ、グリムが勝つと思うが、それなりにいい戦いをすると予想する」

「グリム?あの「死神の少年兵」の名前か?」

「いいから黙って見てろ」

 アンはグリムに視線を移すと、グリムは頷いてナイフを構える。

「えっと……本気で来い、ソレイユさん」

 グリムはアンの真似をするが、丁寧な態度のせいでミスマッチだ。

「…………それは、命令ですか」

 ソレイユのその言葉にグリムは少し目を見開く。

 それは、その言葉は、




「それは、命令ですか、大佐」




 僕が、よく大佐に言っていた言葉。それを言うと、いつも大佐は笑ってこう答えた。


「ああ、命令だ」

 
 グリムは口を開き、そして紡ぎ、また開く。

「………ああ、命令だ」

 グリムは脳内に焼き付いている大佐の言葉と同じように答えると、それを聞いたソレイユは静かに「了解」と答える。

 嗚呼、その言葉でさえも僕とそっくりだ。

 大佐は、こんな気持ちだったのかな。


 命令と言うことが、少し辛くて、痛い。


 グリムは少し目を伏せ、一つ息を吐く。

 そして、最初に動いたのはグリムだった。

 軽いステップで一気に距離を詰めたグリムは小さな体を生かして低い姿勢で足を狙う。ソレイユはそれを躱わすと猫のようなしなやかさで小刀を振り、グリムと刃を交わす。上背があるソレイユは体全体でグリムを押し、足払いでグリムの体勢を崩そうとするが、グリムは飛び跳ねてそれを躱わすと持っていたナイフをソレイユに向かって投げる。ソレイユの視界は一瞬そのナイフによって遮られる。

「くっ、」

 ソレイユはそれを小刀で弾くと、さっきいた場所にはもうグリムはいない。ソレイユはすぐ自分の死角となる場所に目を移すが一足遅く、グリムはそこからソレイユの手首を掴むと、そのままソレイユの腕を引っ張りソレイユの体勢を崩す。

「ぐっ、」

 体勢が崩れたソレイユは小刀を握る力を少し弱め、グリムはそれを狙い思い切り小刀を蹴り飛ばしソレイユの手から武器を外す。宙に舞った小刀をグリムは取ると、そのままソレイユに向かって振り下ろすが、ソレイユはそれをぐるりと回って回避する。
 すぐに起き上がったソレイユはグリムが投げたナイフを拾いそれで応戦する。互いがリーチの短い武器のため、距離を詰めての戦いとなる。高い音が何回か響き、その度2人はグルグルと回りながら隙を窺う。

「長いな」

「ええ、意外に長引いている。グリムの戦いを見たんでしょ?どうなの、ヴァルレイトからしたら」

「………こんなに戦いを長引かせることが出来るなんて、柔な奴じゃねえ」

 グリム相手でここまで持ち堪えるのは褒め称えるべき事だ。グリムは人1人殺すのに1秒も要らない。相手が軍人なら少し話は違ってくるが、それでもだ。自分だってグリムと戦いここまで持つか怪しい。

「………長くねぇか?」

「お、おう…。でも、すげぇぞ、アイツら」

「嗚呼まどろっころしい!さっさと決着付けろよ!」

「そうだそうだ!」

 静かにしていた外野は段々と暴言混じりの言葉を吐き捨てザワザワとしていく。

「早くしろ!」

「どうした!そこ足かけろ!使えねぇな!」

「本気で殺す気で行けよ!!くそっ!」

「アイツら…!」

 ヴァルレイトはグッと眉を顰める。奴らを静かにさせようとヴァルレイトが動こうとしたとき、カキィンと一際高い音が響く。

「僕の勝ちです、ソレイユさん」

「………自分の負けです、グリムさん」

 ヴァルレイトが目を離した一瞬の隙に、グリムはソレイユの首に小刀を当てている。2人は武器を交換し最初の武器を持つと、お辞儀をして握手を交わす。

「チッ、ようやく終わったか。で、結局勝ったのは「不死身の少年兵」か。ハッ、第一陸軍のソレイユは噂よりも大したことなかったな」

「…………」

 ソレイユは目を伏せる。その様子を見たグリムは眉間に皺を寄せその男を睨みつける。男はそれに気分を悪くしたのか、2人の方にズカズカと足を運び2人を見下ろす。

「あ?何だお前。お前も実際は大したことないんじゃねえの?」

「やめてください!」

「黙れよ、お前は負けたんだからよっ!」

 ソレイユはガンと頭を殴られその場に倒れるが、彼女は呻き声一つ上げずまたゆったりと立ち上がる。打ち所が悪かったのか、彼女のこめかみに血が伝う。それを見たグリムは血相を変えてソレイユに駆け寄る。

「ソレイユさん!」

「なぁ「死神の少年兵」、俺と戦えよ」

「………戦って、僕が勝ったら、ソレイユさんに謝ってくれますか?」

「謝ったら戦ってくれんのか?」

「戦います」

「じゃあ謝るぜ」

「分かりました」

「グリム!」

「やめとけアン」

「ヴァルレイトッ」

「グリムの気持ちを分かってやれ。グリムだって、怒ってるんだ」

「…………」

 止めようとするアンをヴァルレイトは止める。アンがあの男たちを気に入らないように、グリムだってソレイユを殴った男に怒っているのだ。ここであまり問題を起こすのは良くないが、アンだってグリムの心情が少しも理解出来ないわけではない。その為、アンはヴァルレイトの言葉に素直に応じてグリムの2回戦を見守る。
 ホークは倒れたソレイユを支えて応急手当てをする。

「ソレイユさん、大丈夫ですか?」

「すみません…自分は大丈夫なので、グリムさんは…」

「グリムは2回戦目です」

「グリムさん……」

 ソレイユはグリムを見ると少し悲しそうな顔をする。自分の怪我よりもグリムの方が気に掛かるようだ。
 そんな中、グリムが選んだのは長身の刀だ。自分の背丈よりもずっと高く、重量もそれなりにあるためグリムはそれをガリガリと引き摺って中央に立つ。それを見た男は舐められていると思ったのか眉を顰めるが、ニヤリと笑ってグリムに声をかける。

「お前、俺を殺す気で来いよ。これは命令だ」

「了解」

「駄目です!貴方では殺されてしまう!!」

 ソレイユは止めるが、男は聞く耳を持つどころか逆ギレして大声を上げる。

「黙れ!俺がお前よりも弱いって言うのかよ!今に見てろ、お前よりも強いことを証明してやるよ!!」

「ソレイユさん、いざとなったら俺たちが出ますから」

「………頼みます……」

 グリムと男は武器を構える。男が使うのは基本型の剣だ。基本型のこともあって誰にでも使いやすく、扱いやすい為使用率は一番高い。

「じゃあ、始めるぞ」

 その一言で、グリムの2回戦目は始まる。

 その瞬間、新・秘密特別組織の3人とソレイユだけは気づく。


 グリムの瞳が、静かに澱んだことを。

 
 
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