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脳ある鷹は爪を隠す

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「と、言うわけだ。どうだホーク、入ってはくれないか?」

「……俺は……」

 一通りを説明した後ホークに入隊を促すが、やはり簡単には頷いてくれない。当然だ、こんな頭の狂った部隊入りたく無いし関わりたくも無い。それをアンもヴァルレイトも分かっているから何も言わない。

「無理にとは言わん。こんな部隊誰でも嫌がるしな」

「その、3人は自ら希望してこの部隊に?」

 その問いかけにはアンが答える。

「いや、俺たち3人は強制だ。グリムは勿論、俺とヴァルレイトは部隊でも良い戦果を挙げていたからな」

「全く、上にとっちゃ使える駒だよ、俺たちは」

 ヴァルレイトは眉を下げて苦笑する。グリムは言わずもがな、アンも特に思うことは無いのかずっと興味が無さそうな顔だ。

「君の答えを尊重する。ただし、一つ聞かせてくれ」

「何ですか?」

「何故、あれ程までの実力を持ちながら第五陸軍二等兵だったんだ?わざとだろ、君」

 ヴァルレイトが聞くと、ホークは目を伏せて静かな声で話し出す。

「……下っ端は、色んな所に派遣されます。北から南、東から西まで、国境を越え、海を越え、本当に色んなところに。しかも、それら全ては死亡率が格段に低い。戦闘地区ではなく市民の救助や復興に充てられるから」

「…まぁ、そうだな…。死にたく無いから実力を隠していたのか?」

「………まぁ、そんな所です。俺は、死ぬわけにはいかないんです」

 どうやら、本当の目的は別にあるらしい。その目的の為に、死ぬわけにはいかないと。ホークはさっき色んな所に派遣されると言った。何故色んな地域に行きたがるのか?ただ外の世界を知りたいのか、何か欲しいものがあるのか、はたまた、会いたい人がいるのかは不明だが。

「答えは急かさない、決まったら教えてくれ。嗚呼後、この事は他言無用で頼む」

「分かりました。………その、これからどうするおつもりで?」

 それを聞かれたヴァルレイトは口をへの字にして眉を顰め、顎に手を当てて考える。

「はぁ、さてと、どうしようか」

 まぁそんな上手く物事が進むとは思っていないが、なるべく早くに部隊はそれほどに完成させておきたい。もし部隊が出来上がっていなかったとしても、それはお前たちの責任だと言って問答無用で戦地に駆り出される。味方は多くいた方が良いことに越した事は無い。

 すると、アンが不意に口を開く。

「ホーク、お前は各地を飛び回りたいのか?」

「え?ああ、まぁ…」

「それなら、この部隊の入隊を勧める」

「え?」

「この部隊は使い勝手の良い駒だ。上の命令とあらば何処にだって行く」

「でもそれは戦場だろう?しかも、君達程の人物が行くんだ、戦死率が高すぎる」

「そうでも無いです」

 口を開いたのはグリムで、皆は一斉に目を見開きグリムを見る。

「王はこの大陸全体を統治下に置きたいと仰ったそうです。しかし、それはこの国だけの戦力では不可能です。となると、この国は他の大陸の国々と戦争に関する条約を結んで各地に味方を作るはず。その条約をスムーズに進める為には僕たちを各地に派遣して借りを作り、その後に条約の場を設ける。これが一番楽で手早い手法です。僕が思いつくんだから王達が思いつかない訳が無いし、実施しない訳が無い」

 「おおっ」とアンとヴァルレイトは感嘆の声を上げると、ホークも納得したように頷いている。

「だから、戦地ばっかりじゃ無いです」

「そうだな、1番可能性がある話だ。まぁ、その考えをアイツらが思いつくかどうかが怪しいが」

 ヴァルレイトは嘲笑って上を貶すが、アンはその言葉を否定する。

「いや、絶対思いつく。頭悪いくせに俺らをこっぴどく使う手は無限に考えられる奴らだ。目的の為なら手段を選ばない、それがアイツらが考える作戦の大前提だしな」

「…………そうか……」

 ホークはまたしばし考え、口を開く。

「分かった。俺は入るよ」

「良いのか?さっきも言ったが、ボロ雑巾のように使われるんだぞ」

 最後にヴァルレイトは念を押す。

「構わない。気付いていたんだ、このままじゃ駄目だって。このままじゃ、俺は、俺の目的に辿り着けない。なら、危険でも、もっと可能性のある道を選んで進むべきだって。大丈夫、死なないよ」

 覚悟を決めたその瞳に部屋の明かりが反射し、切れ長の目をもっと切れ長に見せる。

「決まりだな。これからよろしく頼むよ、ホーク」

「はい」

 ヴァルレイトはホークと握手を交わした後すぐにパソコンにホークの名を打ち込む。それが終わると、ヴァルレイトは思い出したように「ああっ!」と声を上げる。

「そうだ、改めて自己紹介をしようか。俺はヴァルレイト・アストラトスだ。旧秘密特別組織の隊員だ。よろしく頼む。あぁ後、これはみんなに言える事だが、敬語は外して貰って構わん」

「俺はアン。名前はそれだけだ。よろしく」

「じゃあ俺も。改めて、俺はホーク・ヴェルスタン。第五陸軍の二等兵だけど、頑張るよ」

「グリム……です。西の国の「不死身の少年兵」だけど、今は味方。よろしくお願いします」

 皆の紹介が終わると、早速ホークはアンとグリムに質問する。

「2人は少年兵ってことは、16歳未満だよね。何歳なの?」

「俺は15だ」

「僕は13」

「「「じゅっ…、」」」

 皆は声を揃えてグリムを凝視する。皆グリムが16歳未満なのは知っているし、グリムの背格好から13と言われても別に驚くべき事では無い。
 しかし、あまりにも年齢が低すぎるのだ。アンたちの部隊でも、13なんて聞いたことが無いし、それも女ときた。

「13であんなに強いのか……」

「じゃあ良かった。僕は、みんなに貢献出来ていて」

 グリムはそうは言うが、ヴァルレイトは褒めた訳では無い。危惧するべき事なのだ、本来は。

 アンやグリムのように、まだ幼い少年少女が戦争に駆り出され、そして戦果を挙げる事などあってはいけないのだ。それを、本人達は分かっていない。

「悲しい事だな」

「ええ、全く」

 ヴァルレイトとホークは頷き合うが、アンとグリムは訳が分からずに顔を見合わせる。その何気無い行為が、ヴァルレイトを深く抉った。

 
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