上 下
21 / 36
国軍尉官期

12 猛者です

しおりを挟む
「会合中に失礼します。赤獅子隊所属中尉、ジェイソン・キャンベルであります。至急、報告したいことがあって参りました!」

 緊張感のあるジェイソンの声が聞こえて、その内容を気にするよりも先に、ほっとしてしまった。
 この混沌とした状況で、私以上の常識人がやってきたのだ。突っ込み役をしてくれないまでも、なんとか盛り上がっている2人を落ち着けてくれるかもしれないという希望を持って何が悪い。

 扉を開けたジェイソンがアーロンに気付き、膝をつこうとして止められるという、私の時と同じくだりがあってから、ジェイソンはやっと部屋に入ってきた。
 アリアがいるからだろうが、ロペス大将に何やらこそこそと話すと、さっさと礼をして出て行ってしまう。
 突っ込み要員が……と内心でがっかりする私の横で、今度はロペス大将とアーロンがこそこそ話をした後、アーロンが居住まいを正した。

「さて、もう少し話していたかったが、もう時間が無いようだ」

 アーロンは私に、他国での“アリアの護衛”を特別任務という形で言い渡した。

「そしてアリア殿。次にこの国に来たときは遠慮無く、また俺を訪ねてくるといい。友として歓迎しよう」
「もちろんですわ」

 アリアの答えを聞くと満足気に頷き、「ではな」と言って、アーロンは颯爽と出て行った。

「私も失礼する。アリア殿はレミーとの打ち合わせが必要でしょう。このままこの部屋を使っていただいてかまいません」

 そう言ったロペス大将も部下を連れて出て行った。


 上司が出て行った後、『特別任務』の打ち合わせのために残った部屋で、早速アリアを問い詰めた。

「いつアーロン様と接触してたんですか?というか、よくそんな機会ありましたね」
「ほんと、アーロン様って凄いわよね!行政局で会ったとき、私の隠遁魔法を看破したのよ!」
「ちょっ、もしかして行政局で隠遁魔法使ってたんですか!?バレたら大事じゃないですか!」
「そうそう、私もバレないと思ってたから声を掛けられたときは真っ青で」
「大事になってるし!」
「それが、アーロン様お一人だったから大丈夫だったの。事情を説明したら分かってもらえて、ついでにしてから逃がしてもらったわ」

 ついに突っ込みが追いつかなくなって絶句した。
 なんというかこの世界、猛者が多すぎる!
 政治の中心である行政局で隠遁魔法を使ったアリアもアリアだが、使ってるのを目撃した国主がその当人と仲良くなっているのはどういうことだと聞きたい。

 “女子なのにイケメン”って自分で言うのも何だけど、突っ込まれる要素過多なのに、どうして私はよく突っ込む側になっているのか……


 頭を抱えた私を見て、アリアは楽しそうに笑った。

「“レミー”が頭を抱えるなんて、珍しいものを見たわ」
「あなた方はそれだけのことをしているのですよ……」
「ふふっ次からは気をつけるわ」

 さらっと答えられて、乾いた笑いが漏れる。
 きっと彼女の前世はかなりやんちゃで、“アリア”の真面目さではカバーできなかったのかもしれない。
 どうしよう。前にあったときの印象でだまされたかもしれない……。

「そうしてください……」

 私にはそう言うのが精一杯だった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...