上 下
9 / 36
少年期

9 手合わせです 2

しおりを挟む
「始め!」

 師匠の合図で二人同時に地面を蹴る。

 イアンは走った勢いのまま斧を振り抜き、私はそれを避けて懐に入り込もうとする。

 しかしイアンの斧は急に方向を変えて私に迫ってきた。イアンが強化魔法を使っているのは明らかだが、破壊力の強い斧が自由自在に動くのはかなりの驚異だ。

 それからしばらく、私が動き回って攻撃を仕掛けて、イアンがなぎ払うような打ち合いが続いた。
 素早さを中心に鍛えている私を相手に、中距離武器で懐に入らせない立ち回りは見事としか言い様がない。

「ははっ、ここまで完璧に防がれるとちょっと傷つくなぁ!」
「俺の方が強いんだから当然だろ!」
「へえ……?」

 準備はできた。

 私はイアンから距離を取ると、いくつもの光の球を頭上に浮かべた。

「それは魔法を使っても、かな?」

 それらをイアンの方に向かって一気に打ち出す。
 しかしイアンは光の球をなぎ払ってしまった。

「コントロールが甘いんじゃねえの?」

 確かにいくつかはイアンから逸れてその後ろに着弾している。
 イアンは魔法によって傷一つつかなかったが───

「チェックメイトだよ」
「……は?」

 次の瞬間、私はイアンの背後からその喉元に剣を添えていた。

「レミーの勝ちだな」

 師匠の気怠げな宣言が響き、私は剣を下ろす。

「ふふっ。使わなかったね、安全装置」

 悔しそうに振り返ったイアンは、足下にあるに気付いた。

「───っ!魔方陣!?いつの間に……」
「言っとくけど、試合開始前に描いたわけじゃないからね?」
「それは分かってるよ!でも、足で描くとかできないはずだし……ああ、魔法か。土魔法で描いて、最後のあれはエネルギー補充か!」

 ちょっと考えただけで答えを当ててしまった。

「君って、頭悪そうに見えてちゃんと考えられるよね……」
「頭悪そうは余計だよ!」

 叫んだイアンだったが、早速土魔法で魔方陣を描く練習をし始めた。

「うわっ、これ以外と難しいな。戦いながらとかおまえどんだけ器用なんだよ……」
「うまくいって良かったよ。でもこんなに早くバレるとは……」

 もちろん、器用さについてはレミーのハイスペック補正が強い。
 それと、特殊な方法で固定していない魔方陣は魔法で破壊できてしまうから、初お披露目でバレたのは痛い。

「まあ気付かなきゃ奇襲にもなるし、使えねえこともねえな」

 そう言った師匠が土魔法で複雑な魔方陣を描き終えて、影魔法を地面伝いに飛ばすと魔方陣から火柱が上がった。

 ラスボスかな?と思ってしまったのは仕方ないことだと思う。

 ついでに言うと、土魔法で魔方陣を描く方法は“遠隔魔方陣”と名付けられ、次の日にはほとんどの団員の知るところとなった。
 そこそこ難しいらしく、今のところ実践で使えそうなのは私と師匠、ミーニャ他数人の魔法使いの団員だけだった。まあでも、練習次第でできそうな団員も何人かいたので、使い手は増えていくことだろう。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

虐げられて死んだ僕ですが、逆行転生したら神様の生まれ変わりで実は女の子でした!?

RINFAM
ファンタジー
無能力者として生まれてしまった僕は、虐げられて誰にも愛されないまま死んだ。と思ったら、何故か5歳児になっていて、人生をもう一度やり直すことに!?しかも男の子だと信じて疑わなかったのに、本当は女の子だったんだけど!!??

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

処理中です...