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第63話、私の前に道はない、私のうしろに道はできる
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翌朝――
学生寮の居室には、庭から伸びるやわらかな秋の日差しが踊っていた。
「魔術書読みながらでいいから聴いててくれよ」
三味線をかかえてあぐらをかいた俺は、同室の寮生――璃恩に話しかける。
「樹葵くんがきのう、露店風呂から帰って書いてた曲?」
「ああ」
俺はうなずきながら、畳に歌詞を書いた紙を並べる。玲萌とあともう少しで口づけできそうだったのにくもぎりさんの邪魔が入ったあのあと、寮に帰ってから思いのたけを詩につづったのだ。やり場のない情熱は芸術に昇華するに限る。
「人外は気軽に女子と風呂入れていいねえ。ぼくなんか無駄に顔がいいから混浴温泉なんか行ったら大変さ」
璃恩は姉の玲萌と同じ桃色の髪に、玲萌によく似たぱっちりとした瞳で、確かに恵まれた外見をしている。筋の通った鼻も似ているが姉より高いだろう。凪留といい、こいつといい俺の周りには顔面偏差値の高い男がうろついていて邪魔くせえ。とっとと人間やめといてよかったぜ。美しきあやかしの俺は種族が違うから比べようねえもんな。
「きっとぼくのこと、女の子たちが放っておかないよ!」
まだ女子と温泉行った場面を妄想している璃恩に、
「俺はむしろ放っておいてほしかったけどな」
と、弦に視線を落としながら答える。惠簾の指が腰のあたりをすべるあの感触がいまも残っていて、思い出すたび体の奥がうずくようだ。まぶたをふせて最初の音符を爪弾いたとき、庭に面した障子がからりとあいた。
「もう樹葵! 今日は台本の読み合わせするって言ったでしょ!?」
そういえばきのう風呂行く前にそんな話が出ていたような……?
「おねえちゃん毎日、樹葵くん迎えに来るけどさ、学院一の美少女が連日男子寮に通ってるってみんな騒いでるよ」
魔術書から顔を上げた璃恩があきれた口調でたしなめる。
「あら、学院一の美少女が学院一強い男のもとを訪れるのは何もおかしくないじゃない?」
当たり前のように自分で学院一の美少女って言いやがった。俺はふたりの会話を聞き流しながら、三味線と歌詞を書いた紙の束を風呂敷に包む。
「はぁぁぁ」
璃恩はこれ見よがしに大きなため息をついて、
「おねえちゃん自分が男子学生にとって高嶺の花って自覚ないでしょ? あんな妖怪野郎がモテるのは納得いかないってみんな悔しがってるよ」
「なんですって!? こんなかわいい樹葵を妖怪とか言ってるバカどもは今すぐあたしのとこにしょっ引いてきなさいっ! 全員魔力弾で蒸し焼きにしてやるから!!」
すごい剣幕で怒り出す。しかし幼いころからいっしょにいる弟は慣れているのか意にも介さず、
「いや、ぼくのほうがかわいいでしょ」
こいつも自分で言いやがった。さすが姉弟である。
「なに言ってんのよ。あんたなんてあたしの偽商品か劣化複写みたいなもんじゃない」
「ひっどーい! 女の子でおねえちゃんくらいかわいいのはめずらしくないけど、男でこんなにかわいいのは――」
ごちゃごちゃと自説を展開する璃恩を部屋に残して、俺は風呂敷包みを背に高下駄をつっかけると庭先へ出た。玲萌と肩を並べて歩いていると自然に指先が触れあい、どちらからともなく手をつないでいた。
「きょう全員集まんの?」
俺の問いに玲萌は小さなため息ひとつ、
「瀬良師匠以外はね。師匠がなかなか出演了解してくれないのよ」
「えっ……? 瀬良の旦那に出演依頼してたの!?」
「だって男性が足りないんだもん。魔界の姫の兄役なんだけどね。姫を勇者のいる人間の国に嫁がせることを決める重要な役なのよ。魔界を攻められないため人間側になかば人質として妹を差し出す――平和主義というより事なかれ主義の師匠っぽくない?」
「あのでかい鳥なんだ?」
俺は玲萌の話す舞台のあらすじそっちのけで、田んぼの向こうを指さした。魔道学院のほうから近づいてくるのは――
「あれ、凪留の召喚獣じゃない!?」
玲萌の言う通り、鳥の背に人影が乗っている。
「樹葵くん、玲萌くん、きみたちを呼びに来たんです!」
巨大な鳥の上から大声で呼びかける凪留の言葉に、顔を見合わせる俺と玲萌。あぜ道に怪鳥がすべり降りた。
「説明はあとです、乗ってくださいっ! 仲良く手なんかつないでないで」
ひとこと多い凪留をにらみつつひょいと鳥の上に舞い上がり、玲萌に手を差し伸べる。
「ありがとっ」
鳥の腹をよじ登る玲萌を引き上げ自分の前に座らせる。高い秋空へ舞い上がる巨鳥。うしろから支えるふりしてさりげなく、俺は玲萌を抱きしめた。やわらかくてあたたかくて、いい匂いがする。
「旧校舎の敷地から異様な植物が伸びてきて、学生たちが攻撃されているんです」
状況を説明する凪留に、
「それって秋なのにやけに鮮明な若草色したつる草か?」
旧校舎の下から這い出ていた植物を思い出して尋ねる俺。
「そうです! 土蜘蛛の瘴気を吸った毒草じゃないかと思うのだが―― 消化液のような粘液を出して、からめとった学生たちを襲うんです」
「きょう休日なのに学生いるのね。みんな学園祭準備かしら?」
玲萌の問いに、
「でしょうね。少数の学生しかおらず、魔術に精通した教師たちが出勤していない日とは不運でした」
「てこたぁ対抗できるヤツがいねえのか?」
「休日を忘れていつも通り登校した夕露くんが金棒で戦ってます。新校舎のほうに伸びてこないよう、なんとかぶちつぶしているんですが、あの子魔術が使えませんからね……」
それでも自慢の怪力で、いまいる学生の中ではもっとも戦力になるのだろう。だいたい平和な今日、魔道学院の授業だけをぼけーっと聞いていても攻撃魔術に精通することはない。「火打石と火打金を使わずに火種を発火させる術」などから自分で編み出す必要があるのだ。
「それで凪留はあたしたちを呼びに来たのね!」
「そういうことです。僕以外にも空を飛ぶ召喚獣を使う学生が瀬良師匠の家に向かったり、回復と浄化をおこなえる惠簾くんを高山神社へ呼びに行ったりしています」
「なんで夕露は人力車で送り迎えしてもらってるのに休日を間違えるんだ?」
本筋と関係ないことを訊く俺に玲萌が、
「車夫さんも天然だからよ。丁稚のころから奉公してた気のいいお兄ちゃんで、抜けてるけど性根はやさしいからクビにするのもかわいそうなんだって。お店の本業と関係ない仕事を与えてるそうよ」
凪留もうなずきながら、
「商売をしている家は忙しいから、僕らくらいの歳になったら誰も管理してくれませんからね。僕だってきのう帰宅してから妹や弟たちの世話をしつつ、誰かさんに断ち切られた着物を自分でつくろったんです」
「そいつぁすまなかったな。あんたの家なんの店だっけ?」
「つぶれかけた酒屋です。魔道学院を卒業したら僕が天翔けで重い酒の宅配をになうつもりなんだ」
「へー」
ついつい気のない返事をする俺。ちぇっ、特別な存在になりたくて魔道学院に入学した俺とは大違いだな…… ちょっとふてくされていると、玲萌が振り返って耳打ちした。
「樹葵はその、ちょっぴりぽやんとしてるとこがかわいいんだから気にすることないのよっ」
あんまりなぐさめられた気がしねえ。なにが「ぽやんとしてる」だ。してねーし。
「玲萌はなんで魔道学院に入ったんだ?」
「うちのお父さん下級役人でしょ」
知らなかったけどそうなんだ。
「でも魔術にうといから何年たっても下っ端なのよ」
田園風景の向こうに魔道学院が見えてきた。広い敷地に点在する建物を見下ろしながら、
「そういうもんか?」
と首をかしげると、
「だって魔術が使えたら半刻で終わる仕事、手作業でやったら三日かかるからね。あたしはくやしいから魔道学院卒の資格を手に入れようと思ったわけ」
「じゃああんたも卒業後は官吏登用試験を受けるのか?」
「去年まではそう思ってたんだけど――」
桃色の髪を風になびかせて、玲萌は空をあおいだ。俺たちより高いところをツバメが羽ばたいてゆく。
「あたし樹葵と過ごすうちに変わってきたの。この先どうなるのか見通せる人生じゃなくて、限りない可能性の中から自由に選んでみたいって。あたしの歩いたところが道になるんだから」
「それって俺――、堅実なお嬢さんの人生狂わせた悪い男じゃね?」
「きゃははっ 言えてる――ってうそうそ」
玲萌はすがすがしい笑い声をあげた。
「樹葵はあたしに気づかせてくれたのよ。先人の通ってきた轍をたどるように、自分自身を縛ってきたこと」
彼女の腰に回したままの俺の手をやさしくなでながら、
「責任感じないでね? 樹葵まじめなとこあるから心配しちゃうわ」
と気づかってくれた。「役人になるのはうちの弟が果たしてくれるでしょっ 一度きりの人生なんだから、あたしは広い世界を冒険したいの!」
「そのほうがずっと、あんたにゃ似合ってるぜ」
ささやいて俺は、彼女の首筋に唇を近づけた。衿元から甘い香りが漂ってくる気がした。
学生寮の居室には、庭から伸びるやわらかな秋の日差しが踊っていた。
「魔術書読みながらでいいから聴いててくれよ」
三味線をかかえてあぐらをかいた俺は、同室の寮生――璃恩に話しかける。
「樹葵くんがきのう、露店風呂から帰って書いてた曲?」
「ああ」
俺はうなずきながら、畳に歌詞を書いた紙を並べる。玲萌とあともう少しで口づけできそうだったのにくもぎりさんの邪魔が入ったあのあと、寮に帰ってから思いのたけを詩につづったのだ。やり場のない情熱は芸術に昇華するに限る。
「人外は気軽に女子と風呂入れていいねえ。ぼくなんか無駄に顔がいいから混浴温泉なんか行ったら大変さ」
璃恩は姉の玲萌と同じ桃色の髪に、玲萌によく似たぱっちりとした瞳で、確かに恵まれた外見をしている。筋の通った鼻も似ているが姉より高いだろう。凪留といい、こいつといい俺の周りには顔面偏差値の高い男がうろついていて邪魔くせえ。とっとと人間やめといてよかったぜ。美しきあやかしの俺は種族が違うから比べようねえもんな。
「きっとぼくのこと、女の子たちが放っておかないよ!」
まだ女子と温泉行った場面を妄想している璃恩に、
「俺はむしろ放っておいてほしかったけどな」
と、弦に視線を落としながら答える。惠簾の指が腰のあたりをすべるあの感触がいまも残っていて、思い出すたび体の奥がうずくようだ。まぶたをふせて最初の音符を爪弾いたとき、庭に面した障子がからりとあいた。
「もう樹葵! 今日は台本の読み合わせするって言ったでしょ!?」
そういえばきのう風呂行く前にそんな話が出ていたような……?
「おねえちゃん毎日、樹葵くん迎えに来るけどさ、学院一の美少女が連日男子寮に通ってるってみんな騒いでるよ」
魔術書から顔を上げた璃恩があきれた口調でたしなめる。
「あら、学院一の美少女が学院一強い男のもとを訪れるのは何もおかしくないじゃない?」
当たり前のように自分で学院一の美少女って言いやがった。俺はふたりの会話を聞き流しながら、三味線と歌詞を書いた紙の束を風呂敷に包む。
「はぁぁぁ」
璃恩はこれ見よがしに大きなため息をついて、
「おねえちゃん自分が男子学生にとって高嶺の花って自覚ないでしょ? あんな妖怪野郎がモテるのは納得いかないってみんな悔しがってるよ」
「なんですって!? こんなかわいい樹葵を妖怪とか言ってるバカどもは今すぐあたしのとこにしょっ引いてきなさいっ! 全員魔力弾で蒸し焼きにしてやるから!!」
すごい剣幕で怒り出す。しかし幼いころからいっしょにいる弟は慣れているのか意にも介さず、
「いや、ぼくのほうがかわいいでしょ」
こいつも自分で言いやがった。さすが姉弟である。
「なに言ってんのよ。あんたなんてあたしの偽商品か劣化複写みたいなもんじゃない」
「ひっどーい! 女の子でおねえちゃんくらいかわいいのはめずらしくないけど、男でこんなにかわいいのは――」
ごちゃごちゃと自説を展開する璃恩を部屋に残して、俺は風呂敷包みを背に高下駄をつっかけると庭先へ出た。玲萌と肩を並べて歩いていると自然に指先が触れあい、どちらからともなく手をつないでいた。
「きょう全員集まんの?」
俺の問いに玲萌は小さなため息ひとつ、
「瀬良師匠以外はね。師匠がなかなか出演了解してくれないのよ」
「えっ……? 瀬良の旦那に出演依頼してたの!?」
「だって男性が足りないんだもん。魔界の姫の兄役なんだけどね。姫を勇者のいる人間の国に嫁がせることを決める重要な役なのよ。魔界を攻められないため人間側になかば人質として妹を差し出す――平和主義というより事なかれ主義の師匠っぽくない?」
「あのでかい鳥なんだ?」
俺は玲萌の話す舞台のあらすじそっちのけで、田んぼの向こうを指さした。魔道学院のほうから近づいてくるのは――
「あれ、凪留の召喚獣じゃない!?」
玲萌の言う通り、鳥の背に人影が乗っている。
「樹葵くん、玲萌くん、きみたちを呼びに来たんです!」
巨大な鳥の上から大声で呼びかける凪留の言葉に、顔を見合わせる俺と玲萌。あぜ道に怪鳥がすべり降りた。
「説明はあとです、乗ってくださいっ! 仲良く手なんかつないでないで」
ひとこと多い凪留をにらみつつひょいと鳥の上に舞い上がり、玲萌に手を差し伸べる。
「ありがとっ」
鳥の腹をよじ登る玲萌を引き上げ自分の前に座らせる。高い秋空へ舞い上がる巨鳥。うしろから支えるふりしてさりげなく、俺は玲萌を抱きしめた。やわらかくてあたたかくて、いい匂いがする。
「旧校舎の敷地から異様な植物が伸びてきて、学生たちが攻撃されているんです」
状況を説明する凪留に、
「それって秋なのにやけに鮮明な若草色したつる草か?」
旧校舎の下から這い出ていた植物を思い出して尋ねる俺。
「そうです! 土蜘蛛の瘴気を吸った毒草じゃないかと思うのだが―― 消化液のような粘液を出して、からめとった学生たちを襲うんです」
「きょう休日なのに学生いるのね。みんな学園祭準備かしら?」
玲萌の問いに、
「でしょうね。少数の学生しかおらず、魔術に精通した教師たちが出勤していない日とは不運でした」
「てこたぁ対抗できるヤツがいねえのか?」
「休日を忘れていつも通り登校した夕露くんが金棒で戦ってます。新校舎のほうに伸びてこないよう、なんとかぶちつぶしているんですが、あの子魔術が使えませんからね……」
それでも自慢の怪力で、いまいる学生の中ではもっとも戦力になるのだろう。だいたい平和な今日、魔道学院の授業だけをぼけーっと聞いていても攻撃魔術に精通することはない。「火打石と火打金を使わずに火種を発火させる術」などから自分で編み出す必要があるのだ。
「それで凪留はあたしたちを呼びに来たのね!」
「そういうことです。僕以外にも空を飛ぶ召喚獣を使う学生が瀬良師匠の家に向かったり、回復と浄化をおこなえる惠簾くんを高山神社へ呼びに行ったりしています」
「なんで夕露は人力車で送り迎えしてもらってるのに休日を間違えるんだ?」
本筋と関係ないことを訊く俺に玲萌が、
「車夫さんも天然だからよ。丁稚のころから奉公してた気のいいお兄ちゃんで、抜けてるけど性根はやさしいからクビにするのもかわいそうなんだって。お店の本業と関係ない仕事を与えてるそうよ」
凪留もうなずきながら、
「商売をしている家は忙しいから、僕らくらいの歳になったら誰も管理してくれませんからね。僕だってきのう帰宅してから妹や弟たちの世話をしつつ、誰かさんに断ち切られた着物を自分でつくろったんです」
「そいつぁすまなかったな。あんたの家なんの店だっけ?」
「つぶれかけた酒屋です。魔道学院を卒業したら僕が天翔けで重い酒の宅配をになうつもりなんだ」
「へー」
ついつい気のない返事をする俺。ちぇっ、特別な存在になりたくて魔道学院に入学した俺とは大違いだな…… ちょっとふてくされていると、玲萌が振り返って耳打ちした。
「樹葵はその、ちょっぴりぽやんとしてるとこがかわいいんだから気にすることないのよっ」
あんまりなぐさめられた気がしねえ。なにが「ぽやんとしてる」だ。してねーし。
「玲萌はなんで魔道学院に入ったんだ?」
「うちのお父さん下級役人でしょ」
知らなかったけどそうなんだ。
「でも魔術にうといから何年たっても下っ端なのよ」
田園風景の向こうに魔道学院が見えてきた。広い敷地に点在する建物を見下ろしながら、
「そういうもんか?」
と首をかしげると、
「だって魔術が使えたら半刻で終わる仕事、手作業でやったら三日かかるからね。あたしはくやしいから魔道学院卒の資格を手に入れようと思ったわけ」
「じゃああんたも卒業後は官吏登用試験を受けるのか?」
「去年まではそう思ってたんだけど――」
桃色の髪を風になびかせて、玲萌は空をあおいだ。俺たちより高いところをツバメが羽ばたいてゆく。
「あたし樹葵と過ごすうちに変わってきたの。この先どうなるのか見通せる人生じゃなくて、限りない可能性の中から自由に選んでみたいって。あたしの歩いたところが道になるんだから」
「それって俺――、堅実なお嬢さんの人生狂わせた悪い男じゃね?」
「きゃははっ 言えてる――ってうそうそ」
玲萌はすがすがしい笑い声をあげた。
「樹葵はあたしに気づかせてくれたのよ。先人の通ってきた轍をたどるように、自分自身を縛ってきたこと」
彼女の腰に回したままの俺の手をやさしくなでながら、
「責任感じないでね? 樹葵まじめなとこあるから心配しちゃうわ」
と気づかってくれた。「役人になるのはうちの弟が果たしてくれるでしょっ 一度きりの人生なんだから、あたしは広い世界を冒険したいの!」
「そのほうがずっと、あんたにゃ似合ってるぜ」
ささやいて俺は、彼女の首筋に唇を近づけた。衿元から甘い香りが漂ってくる気がした。
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