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十九之巻、夏祭り、花火に喧嘩に焼き鳥でぃっ!(前篇)

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 濃紺の夜空に光の雫が花開く。

 どーん、どどーん、と花火が上がるたび、川べりからも浮かべた船の中からも、太鼓橋の上からも歓声が上がる。

 川の両岸に広がる火除ひよけ地は文字通り、火事のときの延焼を防ぐために設けられた大きな広場だ。火事になったらすぐたためるような簡単な屋台が並んでいる。そのうちのひとつに腰掛け焼き鳥を喰っている細身の男――夜陰やいんの中で眼光を鋭くしている彼こそ今都を騒がせている脱獄犯、金巴宇こがねぱうだったりするのだが、辺りは暗いし人が多いし、まさかこんなとこでのんきに花火などたのしんでるとも思えないから、焼き鳥屋の親父は勿論、客もまわりで騒ぐ町人たちも誰一人として気付かない。

「おかしら、お頭」

 小走りに近付いて小声で呼びかけるのは、何の特徴もない普通の男。えて挙げるなら、なんとなく目がぼんやりしていることくらいか。

「おお、ぎんなんか」

 と、こちらも小声で応じる。端の席に座った巴宇ぱうは、店の親父とほかの客たちに背を向け、

「で、調べはついたか」

「へぃ、もう万全で。お頭の読んだとおり、修理屋ふぁしるは女――」

「おい、もっと小せえ声でしゃべれねえのか」

「へい」

 ぎんなんことしろがねみなみは、巴宇ぱうの耳元に口を近付け、何やら長々と報告しだした。ふんふんうなずいていた巴宇ぱうは、やがてにんまり笑って、

「お前は戦下手だが、こそこそ嗅ぎ回らせると天下一品の腕前だな」

「へい、勿体ねえお言葉で」

「喜ぶな。で、そのガキってのはどこにいる」

「あそこに」

 と、銀南が指差した先は、大きな太鼓橋の上、十二、三の少女が、手摺てすりから身を乗り出して夜祭りを楽しむ人々を一人一人みつめている。誰かを探している様子だ。

「道でも訊くふりして、人のいねえところに連れ出すんだな」

 と金巴宇こがねぱう

「でもお頭、あのガキ村のもんすよ、都の地名なんか知らねえんじゃ――」

「やっぱり馬鹿だな、お前は。それならガキの村に案内させりゃあいいだろ。そうすりゃあ、途中で淋しい場所を通るんだから、そこで……」

「成程、ふふふ――」

 含み笑いを漏らす横顔を、一瞬、夜空をいろどった橙色の光が染める。

「くっくっ―― うまくやれよ。俺は例の土蔵のところで待ってるから、手筈どおり事を運べよ」

「へい、任せてくんなせえ」

 暗がりを小走りに、その背中は橋の方へ消えていった。
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