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5,王太子は王位継承権を失うようです

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 そんなある日、レオノーラは法衣貴族として王宮に勤める兄から手紙を受け取った。そこには、

<王都民に鬱憤がたまり、暴動を起こしそうで不安です>

 と書かれていて、レオノーラは目を疑った。詳しく読むと、

<王太子妃となったパミーナ様が、王宮に宝石職人を頻繁に呼んでいることが騒ぎの発端です。レース編み職人や絹織物ギルドの羽振りが急に良くなって王都民も怪しみ、「新しい王太子妃は男爵家上がりで品がなく、贅沢三昧ざんまいしている」という噂が城下を駆け巡るようになった>

 と説明されていた。

(あんなに明るくて活気のある街だったのに……)



 さらに数日後――

「レオノーラ、もしかしたら僕は近いうち王宮に呼び戻されるかもしれない」

 アルヴィンが打ち明けた。

「父上から極秘の手紙が届いたんだ。君以外には他言無用と書かれていた―― 兄が倒れたらしい」

「ベネディクト殿下が!?」

「宮廷医師が診察しても悪いところが見つからず、頭――じゃなかった……心の病ではないかと言われているそうだ」

「まあ――」

 レオノーラは開きかけた口を手でふさいだ。

「あんな単純な方が心の病だなんて……」

「分からないよ。ただ原因不明ってことさ」



 結局翌月から月に数回、アルヴィン第二王子は公国と王都を行き来して外交などの政務をこなすようになった。

 長い馬車旅から帰ってくると、彼の若々しい横顔にも少し疲れが見えた。

「兄は午後遅くになるとベッドから起き上がってパミーナ様と一緒に庭園を散歩したり、読書したりはできるんだけど、とても王太子としての仕事を務められる健康状態ではないんだ」

 カウチに横たわったアルヴィンは、その黒髪を優しく撫でる妻レオノーラに報告した。暖炉で燃える赤い炎が、二人を暖かく照らしていた。



 半年経つと、ついにアルヴィン第二王子とレオノーラは王宮に移り住むこととなった。

 数ヶ月前から第三王子がファルナーゼ公国に住み込み、領地経営を引き継いでいたようだ。

(アルヴィン殿下を王宮に呼び戻したということは、ベネディクト殿下の回復は見込めないのでしょうね)

 果たしてレオノーラの予想は当たった。

 一年が経つ頃には、ベネディクト殿下は長期療養のため高原にある王家の別荘へ移った。

 ほどなくしてアルヴィン殿下の王太子即位式が行われ、第三王子は正式にファルナーゼ公爵位を賜った。

(真実の愛を見つけたはずのベネディクト殿下の身に、何が起こったのかしら?)

 王太子妃となったレオノーラは、隣国の大使との晩餐会に着て行くドレスを見つくろったり、侍女たちに夜会の準備を指示したりと忙しい日々の中で、ふと疑問に思うのだった。
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