1 / 17
地元編
チュートリアル 前世の経験値を受け取りましょう
しおりを挟む
どん、と。
確かに背を押された。振り返る間も無く、おれの身体は宙を舞っていた。くるくる、くるくると落ち葉にでもなったような心地だった。
気付けば、冷えた水面に叩きつけられていて、強張った体が沈んでいく。口から吐き出したあぶくが、歪んだ形のまま消えていって。
遠ざかっていく水面から、無機質な翠色の目がこちらをただ覗き込んでいるような気がした。
***
刺すような寒さの中で、おれは夢を見た。
画一化された扉の下から流れ出る血溜まり。
無数に転がる、制服姿の生徒たちの死体。
血と死臭が蔓延る鈍色の光景。
その中に悠然と佇む、痩躯の青年。柔らかそうな鳶色の頭髪も、真っ白な肌も、同じく真っ白な制服も。
凄惨たる光景から唯一切り離されたように、青年は清廉としていた。
「………………明希(あき)」
「おにいちゃん、おにいちゃん」
温かいベッドの上で目を覚ました俺は、またギュッと目を閉じた。恐怖ゆえに。
起き抜けに、弟──高倉明希(たかくら あき)がこちらを覗き込んでいるなんていう、超絶恐怖ゆえに。
一瞬視界に映り込んだ点滴やら何やらから察するに、俺はどうにか一命を取り留めた的な状態なのだろう。そして、健気にも兄である俺を心配して名前を呼ぶかわいい弟。
恐怖する要素なぞどこにあるのか。その疑問は尤もであるが、これならどうだろうか。
弟は、俺を池に突き落とした張本人である。
どうだろうか、お分かりいただけただろうか。俺は他でも無い、この弟に極寒の池に突き落とされて生死の境を彷徨ったのだし、弟は今も俺をこうして見守──もとい監視している。
これ以上にないサイコでホラーな展開である。
そして加えて朗報だが、三途の川特典か何かなのか俺は、『前世の記憶』なんて物を引っ提げて生還していた。
前世の俺は、ごく普通のサラリーマンだった。人並みに部活や勉学に打ち込み、人並みに青春を謳歌したのち社会人になった。そんな平々凡々な人生を送る中でのささやかな楽しみが、月額1000円弱のストリーミングサービスでの映画漁りであって。専らホラーやサスペンスなどを好んで漁っていたが、その中でも特に異彩を放つサイコスリラー、もしくはサスペンス。小説を原作としたその作品に、俺はドップリとハマった。
『降霊ゲーム』
とある全寮制の男子校。その一クラスで行われた『降霊ゲーム』。霊を呼び出し、願いを叶えてもらうと言う度胸試しに参加した青年たちは、次々と異常現象に見舞われ、惨劇の渦中で命を落としていく。
猜疑や欺瞞は、とうとう学校という閉鎖空間全体に及び。生徒たちは次第に疑心暗鬼に陥り、殺し合いを始める。
後に、世間を震撼させた、『貴船高校連続不審死事件』として作中に語り継がれることとなる事件だ。
そして最後の最後。関係者中での唯一の生き残りが息絶えて。異臭の蔓延る空間に悠然と現れるのが、高倉明希。
弟と同姓同名の男である。
頭脳明晰、容姿端麗、篤実温厚。三拍子揃った人気者にして、主人公の友人。降霊ゲームを行った初期メンバーの1人でもある。
物語の中盤で命を落としたかのように思われたが、それは偽装された遺体でしかなかった。そして彼は、舞台裏に身を潜め要所要所で惨劇の糸を引いていた。
一見怪奇現象と思われた惨劇は、全てその青年の手によって引き起こされた物だったのだ。
要するに黒幕である。
実写で高倉明希を演じた俳優とは、髪色も造形も異なるなるが、小説では確か、『鼻梁の通った端正な顔立ちに、翠色の目、鳶色の蓬髪』と描写されていた。弟と一緒である。
そして極めつけは、その経歴。高倉明希は、独白パートにて幼少期に彼自身の兄を極寒の池に突き落とした旨を語った。『期待ほど面白みはなかった』という余計な一言まで添えて。
兄の名は高倉陽介(たかくら ようすけ)。
寄しくも、俺と同姓同名だった。
確かに背を押された。振り返る間も無く、おれの身体は宙を舞っていた。くるくる、くるくると落ち葉にでもなったような心地だった。
気付けば、冷えた水面に叩きつけられていて、強張った体が沈んでいく。口から吐き出したあぶくが、歪んだ形のまま消えていって。
遠ざかっていく水面から、無機質な翠色の目がこちらをただ覗き込んでいるような気がした。
***
刺すような寒さの中で、おれは夢を見た。
画一化された扉の下から流れ出る血溜まり。
無数に転がる、制服姿の生徒たちの死体。
血と死臭が蔓延る鈍色の光景。
その中に悠然と佇む、痩躯の青年。柔らかそうな鳶色の頭髪も、真っ白な肌も、同じく真っ白な制服も。
凄惨たる光景から唯一切り離されたように、青年は清廉としていた。
「………………明希(あき)」
「おにいちゃん、おにいちゃん」
温かいベッドの上で目を覚ました俺は、またギュッと目を閉じた。恐怖ゆえに。
起き抜けに、弟──高倉明希(たかくら あき)がこちらを覗き込んでいるなんていう、超絶恐怖ゆえに。
一瞬視界に映り込んだ点滴やら何やらから察するに、俺はどうにか一命を取り留めた的な状態なのだろう。そして、健気にも兄である俺を心配して名前を呼ぶかわいい弟。
恐怖する要素なぞどこにあるのか。その疑問は尤もであるが、これならどうだろうか。
弟は、俺を池に突き落とした張本人である。
どうだろうか、お分かりいただけただろうか。俺は他でも無い、この弟に極寒の池に突き落とされて生死の境を彷徨ったのだし、弟は今も俺をこうして見守──もとい監視している。
これ以上にないサイコでホラーな展開である。
そして加えて朗報だが、三途の川特典か何かなのか俺は、『前世の記憶』なんて物を引っ提げて生還していた。
前世の俺は、ごく普通のサラリーマンだった。人並みに部活や勉学に打ち込み、人並みに青春を謳歌したのち社会人になった。そんな平々凡々な人生を送る中でのささやかな楽しみが、月額1000円弱のストリーミングサービスでの映画漁りであって。専らホラーやサスペンスなどを好んで漁っていたが、その中でも特に異彩を放つサイコスリラー、もしくはサスペンス。小説を原作としたその作品に、俺はドップリとハマった。
『降霊ゲーム』
とある全寮制の男子校。その一クラスで行われた『降霊ゲーム』。霊を呼び出し、願いを叶えてもらうと言う度胸試しに参加した青年たちは、次々と異常現象に見舞われ、惨劇の渦中で命を落としていく。
猜疑や欺瞞は、とうとう学校という閉鎖空間全体に及び。生徒たちは次第に疑心暗鬼に陥り、殺し合いを始める。
後に、世間を震撼させた、『貴船高校連続不審死事件』として作中に語り継がれることとなる事件だ。
そして最後の最後。関係者中での唯一の生き残りが息絶えて。異臭の蔓延る空間に悠然と現れるのが、高倉明希。
弟と同姓同名の男である。
頭脳明晰、容姿端麗、篤実温厚。三拍子揃った人気者にして、主人公の友人。降霊ゲームを行った初期メンバーの1人でもある。
物語の中盤で命を落としたかのように思われたが、それは偽装された遺体でしかなかった。そして彼は、舞台裏に身を潜め要所要所で惨劇の糸を引いていた。
一見怪奇現象と思われた惨劇は、全てその青年の手によって引き起こされた物だったのだ。
要するに黒幕である。
実写で高倉明希を演じた俳優とは、髪色も造形も異なるなるが、小説では確か、『鼻梁の通った端正な顔立ちに、翠色の目、鳶色の蓬髪』と描写されていた。弟と一緒である。
そして極めつけは、その経歴。高倉明希は、独白パートにて幼少期に彼自身の兄を極寒の池に突き落とした旨を語った。『期待ほど面白みはなかった』という余計な一言まで添えて。
兄の名は高倉陽介(たかくら ようすけ)。
寄しくも、俺と同姓同名だった。
44
お気に入りに追加
221
あなたにおすすめの小説
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…
彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜??
ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。
みんなから嫌われるはずの悪役。
そ・れ・な・の・に…
どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?!
もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣)
そんなオレの物語が今始まる___。
ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️
第12回BL小説大賞に参加中!
よろしくお願いします🙇♀️
俺の推しが幼馴染でアイドルでメンヘラ
ベポ田
BL
あの時引っ越してきたイケメン幼馴染が今はアイドルで俺の推し。ただしクソメンヘラ
橙矢将生(とうや まさき)
大人気アイドルグループの王子様担当。俳優業に力を入れる国民的スターだが、裏ではクソメンヘラの人間不信を拗らせている。睡眠薬が手放せない。
今村颯真(いまむら そうま)
橙矢の幼馴染であり将生くんの厄介過激派オタク。鍵垢で将生くんの動向を追ってはシコシコ感想やレポを呟いている。
俺は、嫌われるために悪役になります
拍羅
BL
前世では好かれようと頑張のに嫌われたので、今世では始めから嫌われようと思います。
「俺はあなた達が大嫌いです。」
新たに生を受けたのはアルフ・クラークソンという伯爵の息子だった。前世とは違い裕福な家庭へと生まれたが、周りの人々の距離は相変わらずだった。
「そんなに俺のことが嫌いなら、話しかけなけばいいのに…。」
「今日も、アルフ様は天使のように美しくて眩しいわ。」
そうアルフが思っていることも、それと反対のことを周りが考えていることも当の本人は知らなかった。
平凡な俺、何故かイケメンヤンキーのお気に入りです?!
彩ノ華
BL
ある事がきっかけでヤンキー(イケメン)に目をつけられた俺。
何をしても平凡な俺は、きっとパシリとして使われるのだろうと思っていたけど…!?
俺どうなっちゃうの~~ッ?!
イケメンヤンキー×平凡
『ぼくの考えた最強の攻様』に転生したけど解釈違いが覆せない悲しみ
雪雲
BL
病死した腐女子の主人公は、目が覚めたら見知らぬ場所で入院友達でありお腐れさま同志と考えた『ぼくの考えた最強の攻様』になって居たのだが…何故か設定とは異なる点、そして何よりも中身が腐女子である自分!最悪か!唯一の友達との思い出の詰まった『最強の攻様』像を壊さない為に、友人との右とか左の闘争を避けるべく、『最強の攻様』に成ろうと決意するが、良く分からない世界に良く分からない自分の現状。周囲の解釈違いにより『総受け』まっしぐらに焦りが増していく…。
「まっさん……私は正直逆カプとか平気なんだ。ただできれば第三者視点で見たい。私は壁に成りたい…。でもまっさんとの思い出を穢さない為にも、ガンバリマスネー(白目)」
尚、努力は実らない。病院暮らしのコミュニケーション経験値の低い主人公には『最強の攻め』は難易度が高すぎた…。
BL漫画の世界に転生しちゃったらお邪魔虫役でした
かゆ
BL
授業中ぼーっとしていた時に、急に今いる世界が前世で弟がハマっていたBL漫画の世界であることに気付いてしまった!
BLなんて嫌だぁぁ!
...まぁでも、必要以上に主人公達と関わらなければ大丈夫かな
「ボソッ...こいつは要らないのに....」
えぇ?! 主人公くん、なんでそんなに俺を嫌うの?!
-----------------
*R18っぽいR18要素は多分ないです!
忙しくて更新がなかなかできませんが、構想はあるので完結させたいと思っております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる