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一姫二太郎三太夫……太郎って俺より上なのか?

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 近付いてみると兵士はたった一人、それもコスプレっぽいくらいに鎧が似合ってないコボルトの少年だった。
 なんでもここに居た他の兵士たちは無謀にも勇者につっかかっていって瞬殺されたそうだ。
 寝ていて起きたばかりで武装していなかったため、彼は民間人と思われたらしい。
「いつも先輩たちに叱られてた着替えの遅さが役立ったッス!」と尻尾を振りながら元気良く答えてくるが、それはアカンやろ……。

 まあ、命あっての物種とも言うし、結果良ければ全て良しとも言うから、間違ってないと言えば言えるんだけどな?
 基本的にそれが通用するのは民間人だけだ。
 軍人は言うに及ばず、公僕も場合によっては「いのちだいじに」じゃダメなんだよ。
 その点ニートはなんの責任も無いんだけど、逆に権利を声高に主張することも出来ない。
 権利ってのは義務って通貨でしか買えない商品みたいなもん。
 義務ってお金を支払わない限り、それを欲しがる行為は乞食やタカりと変わらない。
 
 現状、魔王が倒されて、中枢も大ダメージで、そうしたルール自体も適用が難しくなってるんだがな……。
 まあ、おそらくは備蓄の食糧を食い尽くすまでは、なんにも考えずのほほんと過ごすであろうコボルトに別れを告げて更に道を進む。
 ちなみに幼女魔王は抱っこではなくおんぶをご所望で、俺の背中でコボルトを無視して空を眺めている。
 視線を追うとどうやら空を何かが飛んでいるようだ。
 鳥とはシルエットが違うからワイバーンとかそういった飛龍系だろう。
 グリフォンとかの獣に羽が生えた系なら胴体がもう少しゴツい感じになっている。
 
 空に手を伸ばす幼子、微笑ましい光景である。
 ぐっっと手のひらを握り締めた途端、その先にあった、もはやなんだったのか分からないシルエットが弾け飛ばなければな?

「ひ~め~さ~ま~!?」
「だってね、あのね、ぷんぷんとんでうるしゃいんだよ?」」

 どうやらこの幼女魔王にとってはハエや蚊の同類レベルだったようだ。
 むしろ虫の類は眺めたり、突っついたりする程度で済んでいるから、煩さを感じるレベルが常人とは異なると言った方がいいかもしれない。

 MPが3減っている。
 あの威力で完全に初歩呪文レベル。
 もしかして勇者とこの子が戦ってたら、この子が勝ってたんじゃね?
「今度からは三太夫におっしゃってください。姫様が手を煩わせる必要はありませんから……」
 注意したのは別に殺されたなんだか分からない生き物に同情したわけではない。
 道に落ちているものを拾った幼児に「ばっちいからポイっとしなさい!」と言うのと同レベルでの注意だ。
 
「ああいったもの」が幼女魔王の気に障るということを学習したため、片手でおぶって空いた手で上空を排除しながら歩く。
 鳥っぽいものや虫っぽいものは気にしておらず、どうも飛龍系だけが排除対象になっている。

 最初に確認していたから俺に経験値が入らないのは分かっていたが、俺が倒すとどうもこの幼女魔王に経験値が入っているようだ。
 ゲームの時も装備した剣や鎧が戦闘で強化や劣化してなかったからな、そう考えるとオプションである俺が変化せず、幼女魔王に経験値が入るのも不思議な話ではない。

 そうしてレベルが上がった……幼女魔王の。

 ステ値の伸びはゲーム時代の勇者のレベルアップ時の数値と比較して笑えるほど大きい。
 なんせ、さっき別れたコボルトくんのステ値以上なのだ、伸びた数値だけで。
 使える魔法が増えてこれまでの風と火に加えて水の魔法が使えるようになった。
 透明なプラスティックのオモチャっぽい幼女魔王の手の小ささにフィットした水鉄砲。
 さっきから人の背中の上でピューピューとあちこちに撃っている。
 これがレベル1水魔法アクアバレルらしい。
 完全に名前負けじゃね?
 とか思ってたら「キリッ」とした表情で構えて狙い撃った石が弾け飛んだ。
 俺に対してなら見かけ通りの水鉄砲程度の威力だが、コボルトくんレベルの相手には完全にオーバーキルである。
「人に向けて撃っちゃいけません」とおもちゃの鉄砲を与えられた子供へするのと同じ注意をすることが必要になった。
 神妙な顔をして肯いているが、指は引鉄から離れていない。
 まあ、コボルトくん以降誰にも会ってないんで、むしろ人に向けて撃つ方が難しいんだがな?

 肩車をリクエストされたんで「スカートでは、はしたない!」とキュロットにハイソックスにベストに帽子と貴族の狩猟スタイルの幼女コスプレの様な格好に着替えさせる。
 いちいち脱がして着替えさせて、脱いだものをまとめて、なんてことが必要ないゲーム的な着替えは実に便利だな。
 
 肩車をするとご機嫌で時々人の頭をぺしぺしと叩きながら水鉄砲を撃ち、鼻歌を歌っている。
 ちなみにこうしたケースで懸念される「おもらし」だが、アイテムボックスやどうぐぶくろなんかと同じ空間魔法が下着に付与されているため、もし万が一そうした事態が発生しても全く問題は無い。

 これは幼児向けだけでなく、女性向けの下着でも同様な加工がされたものが人間の世界でも魔界側でも売られており、「中の物を取り出す必要が無い」ため、道具袋などに比べて低コストな付与となっている。

 まあ、そんな訳で俺の方の上でドライアドアップルジュースを飲んで居ても、問題無い訳だ。
 時々、頭の上に飲みこぼしがかかる以外はな?

 さて、俺がオプション装備だということは何回も繰り返して言ったが、そうすると「他のオプション装備はあるの?」と疑問に思う人もいることだろう。
 その答えは「ある」だ。
 そろそろ辺りも暗くなり、テントの出番。
 俺以外のオプションであるメイドゴーレムとシェフゴーレムがアイテムボックスから出されて、夕食の準備や着替えを行っている。
 先ほど俺はアイテムボックスを用いたゲーム的な着替えを行ったが、メイドゴーレムが行っているのは髪形を整えたり、着ている服を手ずから脱がせたりする、非ゲーム的な着替えだ。
 シェフもコマンドではなく、食堂テントに付属したキッチンで食材から料理を作っている。

 俺が汎用性の高い標準オプション装備だとすると他のゴーレムは専門性の高い特殊オプションといった感じだ。
 他にもアイテムボックスに馬車ごと入っている馬型のゴーレムや、オーガどころかサイクロプスを上回るサイズの巨大なゴーレム、通信用の小鳥型ゴーレムなども存在している。

 すべて俺以外は名前が付いていない。
 メイドゴーレムは他に二体居るが、ABCといった区分さえ付いていない。
 ベッドや服などと同レベルなのだ。
 つまりは、アイテムボックスの中の他のオプションが全部外に出たとしても、ゲームの現実化なのか良く似た世界なのかは分からないが、この世界的には幼女魔王はソロで旅をしていることになる。
 コボルトくんが主に俺とやり取りして居たことから、「人やモンスターからの見た目」では俺はキャラクター的に受け止められているようだが、世界のシステム的にはオプション装備である。

 これって魔法とかの抜け穴にならないか?
 ゲームの時より増えてるっぽい魔法の中に「周囲の敵」や「周囲の生き物」を察知する呪文があった場合、俺はそれに感知されないことになるだろ?
 あるいは罠の類の発動スイッチとか、単純な機械仕掛けならともかく魔法的要素で発動する罠は俺の場合、反応しない可能性がある。
  逆に高いステータスを生かした漢解除が出来なかったりもするんだがなぁ……。
 まあ、ずっと建物の中での暮らしっぽかった幼女魔王は「お外」の方が好きだから、ダンジョンとかに行ったりすることもないし、すぐに必要になるとも思えないからいっか?

 魔王の称号もあるし、その内配下も出来るだろうしな。
 
 シェフゴーレムが料理を終え、食堂テントで幼女魔王の食事が始まる。
 キッチン部分に食材がかなり確保されているようで、俺が道中に食材の心配をしていたのは無意味だったようだ。
 俺と同様表情は無いが、メイドゴーレムが張り切っているようなので給仕は彼女に任せる。
 その間にもう別のメイドゴーレムをアイテムボックスから出し、寝室テントのベッドメイクと浴室での入浴準備にあたらせる。

 胃袋のサイズも魔王サイズな様で、冗談の様なサイズの肉塊と幼女魔王は格闘している。
 頬にソースを付けてニコニコと嬉しそうに食べる姿を見て、やはり表情は無いがシェフゴーレムも満足そうだ。
 デザートの準備にキッチンへと戻る足取りも軽い。
 デザートまでしっかりと堪能した幼女魔王が浴室テントへと入るが、メイドゴーレムたちの間で視線が火花を散らしているのが幻視出来る。
 結局、両者共同でお世話をすることになったようで、幼女魔王はちょっとはしゃいでいる。
 どうやら賑やかな、周りに居る人間が多い環境が嬉しいようだ。
 ペット的なモンスターでも配下にさせた方がいいかもしれないな?
 ゴーレムたちは馬や小鳥は居るがペットや友達という感じには成れないからな。

 下男としてあのコボルトくんを強制連行すれば良かったかな?
 シェフゴーレムはアイテムボックスの中に戻ったがメイドゴーレムたちはこのまま寝室テントへ同行するようだ。
 
 俺は睡魔どころか疲労すら無いからな、このままテントの外で見張りという名のシンキングタイムを続けるか……。
 
 辺りもすっかり暗く(今の俺だと晴れの日と曇りの日程度の明るさの違いしか感じないんだけどな、昼と夜)なったし、夜行性のモンスターが出てくるかもしれない。
 昼寝してる子供に近寄る虫を団扇で払うのと同じ感じで、モンスターを追い払うとするか。

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