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9話 街はずれの衝撃
しおりを挟む6024は、街はずれに来ていた。
「ありがとうねぇ」
「僕、それなりに力はあるので」
ふらふらと老婆が重い荷物を運んでいた為に、手伝ってここまできていた。
「偉いわねぇ、流石勇者ちゃんだわ」
「僕は勇者なんかじゃないです、ただの……売春人です」
「あらあら、変わった冗談だこと」
自宅まで運び、先ほど魔王側近のイチと別れた場所に戻ろうとした瞬間だった。
『きゃああああああああああ!』
女性が悲鳴をあげていた。
街はずれであり人は少なく、女性の姿ははっきりと見えたし怪我をしていた。
男が傍にいて鞄から財布を抜き取るとこちらに逃げて来た。
『どけっ!!!』
咄嗟の事で身体が動いてしまった、飛び上がって両足で男の首を挟んでそのまま地面に叩きつけた。
同時に落ちた武器を遠くへと蹴飛ばした。
『ぐっ!?』
「鞄の中身は……これか」
起き上がってこないように足を押さえつけながら奪った物を取り返した。
女性が慌てているがもう大丈夫だと荷物を帰そうとした瞬間『背後』の影に気付いた
『死ね』
二人いると思わなかった、振りかかる剣の切っ先が目の前に来る。
同時に『悪人』は突然の炎に焼き払われた。
「はぁ、はぁ……ッ」
そこにいたのは魔王で、息を切らして吐き出した炎の残りを口の周りでチリチリさせていた。
「いたぁ!!」
「イチさん……それに」
「よかった、間に合って」
「鍛冶屋の方ですね?」
「ナイゴです、突然いなくなるから心配したんですよ!?」
女性は怪我の手当を魔王が連れて来た兵士にして貰っている、命に別状がなさそうで少し安心した。
「えっ、何で?」
「何でって……」
『勇者ちゃん、さっきはありがとねぇ、これお礼よ』
先ほど手伝った老婆が家の中からパイを持って出て来た。
「わぁ美味しそう!ありがとう!」
『孫が料理人なの、気に入ったらお店にいらしてね』
「うん、ありがと」
あたりでは騒ぎになっていた、街はずれとはいえ泥棒に殺人未遂に魔王まで出て来たとあって野次馬とよばれる種類の人々が集まったのだ。
「突然、裏路地に行くといって消えたら心配もしますよ」
「そんなに治安悪いんだね?」
「裏路地に!?一人で行くような場所ではありませんよ」
「危険は承知の上だけど、そういう人の気配が無い所の方が仕事しやすいかと思って」
『あの、先ほどはありがとうございました』
怪我をした女性がお礼を言いに来た
「ううん、災難だったね」
『それより、もしかして同業者かなと』
「え?」
『自分はこの先にある風俗店で働く者です』
「風俗の内容って確か……うん、あってると思う」
『裏路地で危険な事をするより、店で雇って貰った方が安全ですよ』
「店で働いていいの!?」
『それは当然ですが、何故駄目だと?』
「えっと……隠れなくて、よくなったのか、そっか」
野良の主人をもたないクローンは身分証明がない故に、店で働く事は考えなかった。
だが今は隠れる必要性がなくなっている。
『うちでなら人気になれますよ、良かったら……』
ぐいっと後ろへ引っ張られた、振り返れば魔王様がいて
「これは私の、妻だ」
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