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56話 vs.イチドペンギン(挑戦編)
しおりを挟む今から闘牛でも始まりそうなコロッセオに飛ばされた。
レイニーたちとは引き離され、俺は今ペンギン型の魔物とたった1人で退治している。
やけに高いところから俺を見下してくるそいつが踏み台にしているのは、闇スキルを操る転生者・マキナが入った檻だ。
『ようこそ。私の名前は【イチドペンギン】です。あなたのお名前は何ですか?』
英語の教科書に載っている例文のような質問。
俺はカドマツであるとだけ名乗った。
そして、何故俺1人をここに連れてきたのかと問う。
『カドマツ様にここの【ルール】を説明させていただきます』
1、参加者2人が揃ったらゲームスタート
2、参加者のうち1人は『人質』として檻の中に入る
3、もう1人の参加者が『挑戦者』としてイチドペンギンに挑む
4、『挑戦者』がイチドペンギンを倒せば『悪夢の水槽』は破壊され、囚われている人々は解放される
5、『挑戦者』はイチドペンギンを倒せなければ檻の中にいる『人質』が『悪夢の水槽』の中に転送される
6、『挑戦者』の死亡、または挑戦者が建物のそとに出たことをもってゲームオーバー
7、イチドペンギンに挑戦できるのはたったの一度、二度目はない
8、この闘技場以外の場所にいるイチドペンギンはただの幻影であり、攻撃しても無駄
9、『悪夢の水槽』は触れた者を中に取り込む仕組み、物理・スキルを問わず攻撃しても中に取り込む
10、参加者が2人以上の場合は『人質』1人と『挑戦者』1人をランダムに抽出、残りは手出し無用
「何で俺は『人質』ではなく『挑戦者』になった?」
『カドマツ様がスキルカードでここに現れた時、あなたがお仲間に向けられた顔がその答えですよ』
確かにウルフは、ティラノと入れ替わった俺に嫌そうな顔を向けた。
レイニーはあまり表情を変えなかったが、状況が好転したときの反応ではなかった。
そして檻の中に入れられているマキナは、俺のことを相手の過去を見るスキルを持つ者だと思っている。
「なんでアイツらの誰かはお前に負けたわけ?」
返事など期待してはいなかったのだが、イチドペンギンは丁寧に説明した。
この場所では【スキル】および【スキルカード】が1種類につき1度きりしか使えない。
なるほど、だからイチドペンギンなわけか。
一撃必殺で倒すか、多種多様なスキルカードで倒しきるしかない。
『過去に私と戦い、そして私に負けたのはシャックという男性です』
俺はこの建物から出ることなくイチドペンギンを倒せれば『挑戦者』の勝ちかと念を押す。
『勿論ですとも』
余裕綽綽とペンギン野郎が俺の質問に答える間にも、俺は脳をフルで回転させる。
向こうは俺とイチドペンギンじゃ相性が最悪であることにはまだ気が付いていない。
勝機は必ずあるはずだ。
『では、面白い物を見せてあげましょう 【トリダシ】』
今の今まで水槽の中にいたはずの知らない男性が突如、俺の目の前に現れた。
月の瞬間、銃声が鳴り響いて彼は倒れ、血だまりが広がっていく。
イチドペンギンの手にはハンドガンがあり、明らかに既製品のベレッタ。
アニメでよく見る警察とかが持っている自動拳銃がこれだ。
「スキル……」
『おや、一般人だと思っていましたが治療系のスキルをお持ちなのですか』
ぼそっとスキル名を小さな声で、イチドペンギンには聞こえないようにつぶやく。
【スキルカード:治療】を使い、撃たれた男性を理療する。
大丈夫ですかと声をかけてもうめき声しか返ってこないが、意識はある。
銃弾は貫通しているが、今のところ命に別状はなさそうだ。
「……俺、頑張りますね」
絶対に助ける、なんて無責任な約束は俺にはできない。だが全力は尽くしたい。
151人いるという歴代異世界転生者の中で俺は、俺より他にイチドペンギンとの戦いに有利なスキルの持ち主は思い浮かばないのだ。
俺は意を決して深呼吸すると、声の限りさけんだ。
生き抜くための叫びを上げる。
「【スキル:トラウマ】!!!」
俺が召喚したのは虎で馬なぬいぐるみ。しかしトラウマ人形の下半身は本物の馬のそれに近くなり、人ひとり乗せて走れそうなほどに大きくなっていた。
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