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32話 ニカナの国王

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ニカナの港に到着すると、それだけでかなりの賑わいが見て取れた。
赤い提灯が並び、確かに古風な日本と中華をかけ合わせたような独特な雰囲気。
のぼり旗があるのだが〈だんご〉〈酒〉〈レストラン〉と日本語で書かれている。

「気を付けろよカドマツ」
「スリとかにですか?」
「泥棒よりもゴミカスの国王にだけは出会わないようにな」

レイニーと2人で船に乗せてもらった感謝を伝えてからガゴリグと別れた。
街には甘酒の香りが漂い、手直な屋台をのぞき込んでみると値段も悪くない。
観光地っぽい華やかな景観なのに、旅行客から金をせびろうという感じがあまりない気がした。

「数百年もカミノに引きこもっていたので、この国の現在のことは私も詳しくは知りません」
「日本で1900年の人が2000年にタイプスリップしたら何も案内できなそうだもんな」

まずは今晩泊まる宿を探すかと提案したが、レイニーが先に行っておきたいところがあるとのことで、宿探しの前に2人でその場所へ行くことに。
大きな赤い橋の先に、まるで竜宮城のような城が遠くにそびえ立っていた。
観光名所なのかと思ったが、橋を渡ろうとすれば槍を持った兵士2人に拒まれる。

『この先は王宮街だぞ』
『低級市民を通すわけにはいかん』
『そこで通行証を買え』

「【スキル:水 檻】」

唐突に兵士の2人が水に沈められた。
しかもドロドロに溶けて消えてしまい、近くにいた人たちが騒ぎだした。
王宮街を守衛する兵士を観光客が殺したとかそりゃ当然大騒ぎ。

「そんなに兵士に怨みが!?」
「ないわけではないのですが……人形なんですアレ」
「へ? 人形?」
「叩き潰せば異変に気付いた国王が動いてくれるだろうと思ったのですよ」
「国王ってガゴリグさんが出会うなって注意していた奴のような気がする」

やがて人形だと明らかに分かる見た目の女性が橋の向こうからやってきて、付いてきてくださいと言う。
国王は足が悪く、今は自室から動けないと言うのだ。
女性人形に付いて行くと、さっき遠くに見えていた竜宮城のような建物の中へ。
 貝の形をしたエレベーターに乗りこんだ。
羽衣を着た人々が紫色の雲の上を歩き地面はピンク色。
本物の竜宮城にやってきたかと思うほど美しい。
たどり着いた先で巨大な扉が開かれると大きなベッドに座る男性が1人。

「君たちは何者かな?」
「お久しぶりですね、ホンイツ」

フードを取るレイニーにも特に驚く様子は見せない。
彼がここニカナの国王で、名前はホンイツさんというらしい。
ガゴリグさんから出会うなと言われていただけに困惑する俺。

「久しぶりだね」
「この方はゴミカスなので信用はしないでくださいね」
「本人目の前にいるのに」

ふうとキセル煙草の煙を吐いたホンイツさんの傍には人間っぽいナニカがあった。
よく見れば人形だったのだが、驚くほど作りがいい。
さぞや腕のいい職人が作ったのだろう。この距離でも作った人の高い技術力がうかがえる。

「僕に抱かれにきたの?」

これでレイニーが美少女、あるいは俺が美少女ならその台詞に理解もできる。
明らかに女を抱いていそうな雰囲気の部屋なので冗談なのだろうか。
キセル煙草の灰を灰皿に落とした国王の視線はレイニーではなく俺に向いた。

「私がココに来たのは〈国王許可証〉を貰うためです」
「そんな程度の物で良ければあげるけど……そっちの君は誰?」
「俺はカドマツで異世界転生者っス」

唐突に国を出てきた王子様よりも、むしろ俺に驚いている様子。
異世界転生者ぐらい国王ならそれなりに関わっていそうなものだが違うのだろうか。
スキルでかき氷を出して本当ですよとアピールする。

「君たち本当に何しにきたのかな?」
「旅行ですよゴミカス」
「嘘はよくないな」

ぐ~~~(カドマツの腹の音)

「すいません、腹減ったので安くて美味い飯屋紹介してくれませんか?」
「食事なら用意するからこの子にこれ以上〈ドール〉を壊さないように言って貰えるかな」
「ドール?」

 話は食事をしながら続ける運びになった。
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