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六話 悪と裁判
しおりを挟むなかに入ると天井は高く人が百人はいるだろうか。皆が奇抜な恰好をしており、足を出した女も多数。
「え、車椅子?」
「地獄とはいえ、何かの罰?」
「死んで歩けないなんてことある……?」
何やらこちらに視線が集まる。しかし通り道を開けてくれたようだ。
「オイラこういう裁判見るの初めてなんだ」
「こいつは俺の同期で名前はノノホカです、ちょっと変わり者だけど……一緒でも大丈夫ですかね?」
「もちろんです」
車椅子というものに乗せられ奥へと進む、やがて箱の中に入れられた。
「エレベーターで上へと参ります、今回は観客席なので12階ですね」
「この箱は誰かが持ち上げているのでしょうか?」
「……妖術です」
「妖術じゃなくね?」
「こういうのは伝わるってことのほうが大事だって上に言われてるだろ?」
「ふーん」
「電気も妖術も似たようなものだからさ」
その場所は椅子がいくつも並ぶ。中央には今代の閻魔大王がまさに裁判中。
「阿鼻地獄(あびじごく)の十一焔処(じゅういちえんしょ)にて三百年の投獄とする」
私は千年地獄にいるが阿鼻地獄を聞いたことがない。新しい地獄ではなく、超がつく悪でしかありえない罪人が落ちる場所。私が落ちずに済んだのが不思議で質問。
「そもそも寺や死者への冒涜を行わなければ落ちません」
「……ず~っとトトンガが案内してるけど、赤鬼さんは何も言わないんですか?」
「おいバカ!!相手は赤鬼様だぞ、案内なんて下っぱの仕事だろ」
「そなの?」
「すいません、ちゃんと言っておきますから」
「……俺は本来、拷問をするため地獄に産まれた鬼ゆえ案内は子鬼に任せたほうが良いと思ったまで」
「へー!!かっけぇ!!」
阿鼻地獄は地獄のなかで最も重い罰をうける。ここへ落ちた者は千年でわずか百名足らず。でも彼は落ちる、何をしたのだろう。
「寺を火の海にし信仰した皆々を己ごと皆殺しにしたのです」
「それは、復讐で?」
「どんな場合であれ殺人の理由が復讐や生物競争、生きるためであれば阿鼻地獄には落ちませんよ」
「それ以外に?」
「神を偽るためです」
「天照大神のような神様になるため、とでも?」
「簡単に言えば神様になるのだから何したって許されると思って暴力・暴酒・盗み・嘘・強姦・そして寺を焼き人も百名を越えて焼き放った人です」
「……その人々は何をしたのでしょうか?」
「男とは何の関係もない人々にございます」
人というのは時に悪となり、だからこそ鬼がいるのだ。
あの世でどんなに己が幸せでも怨み辛みを晴らすべく善人が悪しきことを繰り返させないように。人が人を裁くことのないように。
「道具が変わっても人の怨みはいつの世にも存在するのですね」
「……あの、もしかしてお名前はシノガタ様でしょうか?」
「はい、それは私の名前ですよ」
「教科書に載ってたあのシノガタさん?」
「きょうかしょ?」
「学ぶための紙ですよ、本屋で売ってると思います」
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