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二話 令和
しおりを挟む千年ぶりの粥をもらい少しずつ目や耳が治ってきたようだ。
声も何とか出そうと試みる。
悲鳴以外の言葉を紡ぐのは何百年ぶりだろうか。
「も……と……」
その言葉に鬼は返事をくれた。
「……もっとだな!?」
どうやら私はまだ牢のなかにいるようだ。
岩の地面ではなく雪色の布団に寝かされている。
食べては休みを繰り返して少しは言葉を紡げるように。
「皆は……母様や妹と、弟は?」
「令和の日本に転生した」
戦で人々が死なない平和な世。
病気でも人が人を殺さず薬で治せる。
火で焼け死ぬものなどもうほとんどいないのだそうだ。
「食べ物や着物は……」
「ああ、皆いい家に産まれて幸せに暮らしている」
母も優しき両親の家に産まれたらしい。
私たちのために朝から晩まであんなにも働いていた母にはどうか来世でのんびりと。
疫病で亡くなった父は私たちのことを本当に可愛がってくれた。
「嗚呼、約束は守られたのですね……」
水と粥の食事を噛みしめつつ今は令和という時代なのだと教えられた。
千年という年月は何もかもが変化し、食事も教えも私が知るものではないのだと。
鬼に卵を振舞われるという異様な光景になった。
※奈良時代では仏教徒が浸透し始めたので肉や卵を食べるのは禁忌とされていた。
「卵を食していいのですか?」
「千年であらゆる罪が変わったのだ」
令和の今、卵を人生で食べたことがないのは呪いを持って産まれた者だけ。残りは皆、食べるそうだ。肉も卵も現代の人々にとっては罪にならない。そんな馬鹿な。
「信じられぬか?」
「いえ、鬼が嘘を吐くよりは信じられます」
確かに馬鹿げた話ではある。しかし鬼は嘘という罪を決して犯さない。いくら何でもこれだけは変わっていないだろう。
卵を溶き粥にまぜて煮たそれを口に入れた。
「これは美味いものですね」
「栄養がうんとある」
令和の現は変わりに変わったらしい。そして地獄も合わせ変わりゆく。あまりに変化したので私がついてゆけるように少しずつ環境を変えてゆくとのこと。
「今では天国行きを望まず地獄で暮らす者もいる」
「人が自ら地獄を望むのですか?」
「地獄といっても今では千を超える大まかな地域があり、罰を受けずに人が暮らすような場所もあるのだ」
これは元々の裁判で人間が関わっていたからだそう。裁判を待機する地域である【裁判待機処(さいばんたいきしょ)】や裁判における参考人が暮らす【意見人処(いけんにんしょ)】など理由を聞けば確かにと理解はできた。
「罰が終わった者が暮らす村はちと名前が変わっていて【オールドエデン】と」
「おうるど?」
「オールドエデン、発音が少し難しいだろうがすぐ慣れる」
極楽浄土に行くか転生するか、あるいは消滅になるかを自分で決められる場所。
この地獄では死ぬこととされる消滅。私は未来にこれを選ぶことになるだろう。
私に残るは罪を与えた鬼しかいないのだから。
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