イシュラヴァール戦記

道化の桃

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第一章 乱世到来

王子の野望

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 21ポイントは外郭を鉄で囲んだ要塞である。さきの内戦の激戦地のひとつで、多少の損傷はあるものの、内部はほとんど影響を受けていなかった。
 前王を放逐したアルヴィラ解放戦線だったが、部族を失っていた遊牧民たちがアルヴィラに集まってきて、アルヴィラはひとつの街になりつつあった。隣国アルナハブからアルヴィラに亡命してきていたダレイ王子は、手狭になったアルヴィラをあとにして、この鉄の要塞に新たな拠点を築いた。
 ダレイ王子には思惑があった。クーデターに失敗して国を追われ、この不毛の砂漠に逃れてきた。だが、命があることに感謝して大人しく隠遁するような性質の男ではなかった。
「こんな砂漠でいつまでも燻っているなど、性に合わん」
「……んっ……」
 アディの喘ぎが、香を焚き染めた夜具に吸い込まれる。
 一度果てた後も、王子はアディの秘所を弄んでいた。媚薬混じりの膏薬を塗り込んで滑りが良くなった入り口を丹念にほぐし、ぐちゅりと指を挿し入れて奥の感じる場所を刺激する。と、アディがダレイ王子の腕の下でびくんとのけぞった。
「っくぅ……」
「お前の身体は覚えがいいな。最初は拒まれるが、少しほぐすとすぐに吸い付いてくる」
 ダレイ王子が中でぐねぐねと指をうねらせたので、アディはたまらず腰を浮かせ、シーツに爪を立てた。
「んんっ!はぁ、あっ……!」
「隠してもダメだ。お前が、男のほうがいい奴だということは、ひと目見てわかったぞ」
 言いながら、アディの先端から滲み出た透明な体液を張り詰めた亀頭に塗りたくる。
「あ、だめ……っ!」
 反射的に腰を引いた勢いで、指が奥までずぶりと埋まった。
「ひあっ!」
 仰け反った細い首に片手を這わせ、耳元で王子が囁いた。
「そろそろ認めろ、アディ」
 アディは首を振った。
 王子はアディの中から指を引き抜き、アディの固くなった陰茎を掌で包み込んだ。
「認めて委ねてしまえ。そうすれば最高に良くしてやるぞ」
 今にもはちきれそうなその器官を愛撫しながら、囁く。
「ん……んん……っ……」
 王子はアディが達しないように絶妙な緩急をつけるので、押し寄せては頂点に達する直前で引いていく波に、アディは翻弄されていた。
「いきたいだろう?アディ」
「い……や……」
 アディはしなやかに細い身体を捩って、黒目がちの潤んだ瞳で王子を見上げた。薄く色づいた唇が、悩ましげな喘ぎ声を漏らしている。その合間に、王子が思いもかけない言葉を紡いだ。
「……裏切り……者め……」
「何?」
「あの街道だ……海に抜ける道……」
 アディは脳を痺れさせるような快感に耐えながら、必死で言葉を続けた。
「……あんたは……っ、砂漠を、ふたつに分けようとしてる……」
 なぜそんなことを言ったのか、自分でもはっきりとした思惑があったわけではなかった。ただこの王子にいいように翻弄されているのが、たまらなく嫌だった。
「あんたは……アルヴィラを、裏切る……気だ」
 その言葉を聞いた王子の反応は、果たしてアディの期待以上だった。
「――賢い子だ、アディ。お前は本当に」
 言いながら、王子はアディの小さな尻に自らの楔を打ち込んだ。
「あう!」
「本当に、俺を愉しませてくれる」
 細い腰を掴み、何度も突き立てる。それは乱暴なようでいて、苦痛と快楽のぎりぎりの境界線を狡猾に刺激する動きを執拗に繰り返していた。
「―――――っ……」
 長い夜の間、王子はゆっくりと、獲物の隅々を味わい、陵辱していった。


 王子の寝室の前で、タリファは後悔と自責の念に押し潰されそうになっていた。
「ごめん、アディ……俺が……俺がお前を引き込まなければ……」
 寝室からアディの悲鳴が聞こえてきて、タリファは弾かれたように駆け出した。
 居眠りをしている見張りの横をすり抜けて、地下牢の階段を駆け下りる。
「おい、女、出ろ」
 男女の捕虜は顔を見合わせた。
 タリファは構わず牢を開け、捕虜の女に短剣を突きつけて、牢から引きずり出した。
「歩け」
 女はちらりと男の方を見たが、大人しく階段を上がった。男の方も特段騒ぐこともなかったので、タリファは肩透かしを食ったような気分で元通り牢の錠を下ろした。
(夫婦かと思っていたんだが……違うのか?)
 なんとなく腑に落ちない思いが胸をよぎったが、今はそれどころではない。
「どこへ連れて行くの?」
 砦の入り組んだ通路を抜ける途中、女が口を開いた。
「黙れ。余計な話をするな」
「あなた、まだ子供でしょう。いくつなの?」
「黙れっ!」
「誰があなたたちを兵士にした?家族はどこにいる?」
「そんなもの――いない!」
「死んだのか?」
「うるさい!お前、連れがどうなってもいいのか!?」
「彼に手を出すつもりなら、やめたほうがいい。彼は百人ほどの盗賊団を一人で潰した男だ。あなたたちが襲ってきたときも、わたしが止めなければ、あなたは街道で死んでいた」
「黙れ!」
 と、その時、不機嫌な声がした。
「なんだ、騒々しい」
 気づくと、二人はすでに王子の部屋の前に着いていた。
「王子、あの、捕虜の女を連れてきました!」
 タリファの声が裏返る。
「誰が女など連れてこいと言った?」
 再び扉の向こうから、不機嫌な声がした。
「あの……っ、アディはもう限界です!頼みます、かわりにこの女を」
 タリファは扉にすがりつくように懇願した。それでようやく扉が開いて、不機嫌な声の主が姿を現した。
「お前、アディの友人だったな。タリファと言ったか」
 王子は女を一瞥して、顔色を変えた。
「タリファ、お前……なんて女を連れてきやがった……?」
「……えっ?」
 王子の機嫌を損ねたかと、タリファはうろたえた。が、恐る恐る見上げた王子の顔には、笑みが浮かんでいた。
「凄まじい殺気だ――いいねぇ」
 王子は短い顎髭をひと撫でして言った。
 タリファが振り返ると、連れてきた女が、今にも噛みつきそうな形相で王子を睨みつけていた。
「でかしたぞ、タリファ。俺はこういう女を待っていたんだ」
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