9 / 65
第一章 乱世到来
甘美なる悪夢
しおりを挟む
――泣いている。誰かが、果てしなく続く砂丘の彼方で。
手を伸ばしても届かない。駆け寄りたいのに、足は砂に埋もれ、もどかしいほど前に進まない。
精神を引き裂き続けるような、悲痛な声を漏らし、泣いている。――あれはよく知っている女だ。縋るような瞳で男を惑わせながら、それでいて誰にも支配されない女。犯され苛まれ、細い肢体に無数の疵痕を刻みつけられて、それでも一片も汚されることのない女。
泣いている――かつて、すべてを擲って愛した女が。
駆け寄って、この腕に抱きしめたい。その涙と悲しみをすべて吸い取って、全身に口付けたい。あたたかく濡れた内奥深く繋がって、己で満たしたい。お前の苦痛をすべて引き受け、共に地獄に堕ちても構わない――。
「――っ……」
どこか甘美な悪夢から覚醒して、マルスは小さく息を吐いた。無意識に抱き寄せた腕の中では、恋人のルビーが、すうすうと寝息を立てている。その身体は、豊満な胸から引き締まった腰へと見事な曲線を描き、なめらかな肌には疵ひとつない。
枕元の小卓に置かれた水差しから杯に水を注ぎ、粘つく口中を洗い流す。ふと窓外に視線を巡らすと、夜明け前の群青色の空に白い月が出ている。
マルスはぐっすり眠っているルビーの首筋に、唇を這わせた。マルスの長い銀色の直毛が、ルビーの真珠のような肌の上に流れ落ちる。
よほど眠りが深いらしく、ルビーは反応しない。マルスは構わずに彼女の肉感的な唇を塞ぎ、豊かに張り詰めた乳房を揉みしだいた。そして、曖昧な夢の中で昂った自身の先端を、彼女の腹部に押し付けた。
「ん……」
舌を執拗に絡め取られて、ルビーはようやく小さく喘いだ。眠りから強引に引き上げられて、困惑する間もなく快感がルビーの全身を貫いた。マルスの長い指が乳房の先端を摘み上げ、同時にもう片方の手が股の間に滑り込んで陰核を剥く。
「ん……っあ……!」
腰が浮き上がり、爪先が反り返る。くちゅり、とマルスが指を侵入させると、そこはしっとりと潤いを帯びてひくひくと吸い付いてきた。
マルスのそれは、既に硬く張り詰めていた。ルビーの膝を大きく割り広げ、痛いほどの欲求が脈打っている器官を、まだ緩みきっていない入り口に押し当てる。
「――あ!や、あ……っ!」
ルビーが両眼を見開いて喘いだ。いつになく性急な挿入に、身体が追いつかない。逃げかけた腰をマルスの両手が捕まえて、強引に先端をねじ込んだ。
「あぁ!」
「――っく……」
マルスを半分だけ呑み込んだところで、ルビーのそこは限界だった。他方、マルスの陰茎は怒張しきって、猛り狂っている。
「マ……ルス……おねが……っ」
ルビーが眼尻に涙を滲ませて懇願する。
「もう少し……ゆっくり……っあ!」
言い終わる前に、マルスはずぶりと奥深く貫いた。この日、マルスには恋人の願いを聞いてやるほどの余裕はなかった。マルスの中で言いようのない不安が渦巻いて、出口を求めて暴れている。
砂漠を統べるイシュラヴァール王国の、かつて王だったマルス。追放されていた弟が首謀したクーデターによって玉座を追われたが、戦力を蓄え、虎視眈々と復権の時を狙っていた。
マルスには、恐れも不安も無縁だ。必要なのは鋭い洞察力と冷徹な判断力で、マルスは常にそれをわきまえていた。マルスにとって、玉座は権力の象徴ではない。王になるべくして生まれ、王になるべくして育てられたマルスには、王であることが生きる理由であったし、王として国を統べ栄えさせることは義務であった。マルスは玉座を欲したことなどない。玉座がマルスを必要としているのだ。欲望がなければ、失う恐怖もない。
だから、時折沸き起こる不安をマルスは恐れ、そんな自分に怒りを覚えた。
不安の正体はわかっている。わかっていても、どうしようもない。マルスは何も知らないルビーをめちゃくちゃに抱いて、行き場のない感情をぶつけるしかできなかった。
「いやあ……!だめ、もう……っ!」
強制的に絶頂させられ、ルビーは小さく痙攣した。そのままぐったりとベッドに沈み込む。マルスはルビーの腰を背後から掴んで高く上げさせ、ぐっしょりと熟れきった秘所に自らの屹立を突き立てた。硬く膨らみきったマルスの楔が一気に子宮を突き上げ、内壁を抉った。
「あ…ーっ……!」
シーツにしがみついて、ルビーが悶える。と同時に、透明な潮が噴き出してシーツを濡らした。
マルスは脱力したルビーを仰向けにして、唇に喰らいついた。ルビーは自らの潮で下半身を膝まで濡らして、羞恥のあまり涙を流している。ルビーの舌を貪りながら、マルスは再び挿入した。
どれだけルビーを抱いても、満たされることなどない。
そんなことは、わかりきっている。
欲望がなければ、不安も恐怖も無縁なのだ。
マルスはかつて、ただひとつ抱いた欲望を封印した。それはもう何年も前に、失ってしまった女。
(それでもいまだに夢に見るのは、未練か)
泣いているのだろうか、砂漠のどこかで。そう想像するだけで、胸中に墨を流すように不安が湧き起こる。だが自分には、その涙を拭いてやることすらできない。
「叶わぬ夢など、見なければ良いのに……」
抱き潰されて眠ってしまったルビーを見下ろして、マルスはぽつりと呟いた。
手を伸ばしても届かない。駆け寄りたいのに、足は砂に埋もれ、もどかしいほど前に進まない。
精神を引き裂き続けるような、悲痛な声を漏らし、泣いている。――あれはよく知っている女だ。縋るような瞳で男を惑わせながら、それでいて誰にも支配されない女。犯され苛まれ、細い肢体に無数の疵痕を刻みつけられて、それでも一片も汚されることのない女。
泣いている――かつて、すべてを擲って愛した女が。
駆け寄って、この腕に抱きしめたい。その涙と悲しみをすべて吸い取って、全身に口付けたい。あたたかく濡れた内奥深く繋がって、己で満たしたい。お前の苦痛をすべて引き受け、共に地獄に堕ちても構わない――。
「――っ……」
どこか甘美な悪夢から覚醒して、マルスは小さく息を吐いた。無意識に抱き寄せた腕の中では、恋人のルビーが、すうすうと寝息を立てている。その身体は、豊満な胸から引き締まった腰へと見事な曲線を描き、なめらかな肌には疵ひとつない。
枕元の小卓に置かれた水差しから杯に水を注ぎ、粘つく口中を洗い流す。ふと窓外に視線を巡らすと、夜明け前の群青色の空に白い月が出ている。
マルスはぐっすり眠っているルビーの首筋に、唇を這わせた。マルスの長い銀色の直毛が、ルビーの真珠のような肌の上に流れ落ちる。
よほど眠りが深いらしく、ルビーは反応しない。マルスは構わずに彼女の肉感的な唇を塞ぎ、豊かに張り詰めた乳房を揉みしだいた。そして、曖昧な夢の中で昂った自身の先端を、彼女の腹部に押し付けた。
「ん……」
舌を執拗に絡め取られて、ルビーはようやく小さく喘いだ。眠りから強引に引き上げられて、困惑する間もなく快感がルビーの全身を貫いた。マルスの長い指が乳房の先端を摘み上げ、同時にもう片方の手が股の間に滑り込んで陰核を剥く。
「ん……っあ……!」
腰が浮き上がり、爪先が反り返る。くちゅり、とマルスが指を侵入させると、そこはしっとりと潤いを帯びてひくひくと吸い付いてきた。
マルスのそれは、既に硬く張り詰めていた。ルビーの膝を大きく割り広げ、痛いほどの欲求が脈打っている器官を、まだ緩みきっていない入り口に押し当てる。
「――あ!や、あ……っ!」
ルビーが両眼を見開いて喘いだ。いつになく性急な挿入に、身体が追いつかない。逃げかけた腰をマルスの両手が捕まえて、強引に先端をねじ込んだ。
「あぁ!」
「――っく……」
マルスを半分だけ呑み込んだところで、ルビーのそこは限界だった。他方、マルスの陰茎は怒張しきって、猛り狂っている。
「マ……ルス……おねが……っ」
ルビーが眼尻に涙を滲ませて懇願する。
「もう少し……ゆっくり……っあ!」
言い終わる前に、マルスはずぶりと奥深く貫いた。この日、マルスには恋人の願いを聞いてやるほどの余裕はなかった。マルスの中で言いようのない不安が渦巻いて、出口を求めて暴れている。
砂漠を統べるイシュラヴァール王国の、かつて王だったマルス。追放されていた弟が首謀したクーデターによって玉座を追われたが、戦力を蓄え、虎視眈々と復権の時を狙っていた。
マルスには、恐れも不安も無縁だ。必要なのは鋭い洞察力と冷徹な判断力で、マルスは常にそれをわきまえていた。マルスにとって、玉座は権力の象徴ではない。王になるべくして生まれ、王になるべくして育てられたマルスには、王であることが生きる理由であったし、王として国を統べ栄えさせることは義務であった。マルスは玉座を欲したことなどない。玉座がマルスを必要としているのだ。欲望がなければ、失う恐怖もない。
だから、時折沸き起こる不安をマルスは恐れ、そんな自分に怒りを覚えた。
不安の正体はわかっている。わかっていても、どうしようもない。マルスは何も知らないルビーをめちゃくちゃに抱いて、行き場のない感情をぶつけるしかできなかった。
「いやあ……!だめ、もう……っ!」
強制的に絶頂させられ、ルビーは小さく痙攣した。そのままぐったりとベッドに沈み込む。マルスはルビーの腰を背後から掴んで高く上げさせ、ぐっしょりと熟れきった秘所に自らの屹立を突き立てた。硬く膨らみきったマルスの楔が一気に子宮を突き上げ、内壁を抉った。
「あ…ーっ……!」
シーツにしがみついて、ルビーが悶える。と同時に、透明な潮が噴き出してシーツを濡らした。
マルスは脱力したルビーを仰向けにして、唇に喰らいついた。ルビーは自らの潮で下半身を膝まで濡らして、羞恥のあまり涙を流している。ルビーの舌を貪りながら、マルスは再び挿入した。
どれだけルビーを抱いても、満たされることなどない。
そんなことは、わかりきっている。
欲望がなければ、不安も恐怖も無縁なのだ。
マルスはかつて、ただひとつ抱いた欲望を封印した。それはもう何年も前に、失ってしまった女。
(それでもいまだに夢に見るのは、未練か)
泣いているのだろうか、砂漠のどこかで。そう想像するだけで、胸中に墨を流すように不安が湧き起こる。だが自分には、その涙を拭いてやることすらできない。
「叶わぬ夢など、見なければ良いのに……」
抱き潰されて眠ってしまったルビーを見下ろして、マルスはぽつりと呟いた。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
壁の花令嬢の最高の結婚
晴 菜葉
恋愛
壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。
社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。
ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。
アメリアは自棄になって家出を決行する。
行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。
そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。
助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。
乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。
「俺が出来ることなら何だってする」
そこでアメリアは考える。
暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。
「では、私と契約結婚してください」
R18には※をしています。
カナリアというよりは鶸(ひわ)ですが? 蛇令息とカナリア(仮)令嬢
しろねこ。
恋愛
キャネリエ家にはカナリアと呼ばれる令嬢がいる。
その歌声は癒しと繁栄をもたらすと言われ、貴族だけではなく、王族や他国からの貴賓にも重宝されていた。
そんなカナリア令嬢と間違えられて(?)求婚されたフィリオーネは、全力で自分はカナリア令嬢ではないと否定する。
「カナリア令嬢は従妹のククルの事です。私は只の居候です」
両親を亡くし、キャネリエ家の離れに住んでいたフィリオーネは突然のプロポーズに戸惑った。
自分はカナリアのようにきれいに歌えないし、体も弱い引きこもり。どちらかというと鶸のような存在だ。
「間違えてなどいない。あなたこそカナリアだ」
フィリオーネに求婚しに来たのは王子の側近として名高い男性で、通称蛇令息。
蛇のようにしつこく、そして心が冷たいと噂されている彼は、フィリオーネをカナリア令嬢と呼び、執拗に口説きに来る。
自分はそんな器ではないし、見知らぬ男性の求婚に困惑するばかり。
(そもそも初めて会ったのに何故?)
けれど蛇令息はフィリオーネの事を知っているようで……?
ハピエン・ご都合主義・両片思いが大好きです。
お読みいただけると嬉しいです(/ω\)!
カクヨムさん、小説家になろうさんでも投稿しています。
不貞の使者は、おれに傅く一途な雛鳥
野中にんぎょ
BL
※この作品は不倫BLです。攻め(既婚者)×受け(独身)です。※
※攻めの妻×受け(独身)の描写があります。(攻めの妻が受けを愛でているシーンはありますが、受けから妻への挿入などはありません)※
漫画家・吾妻リョウとしてヒット作を量産してきた篠田航大(42)は、美貌の妻・篠田光子(32)が脳梗塞で倒れたと聞き病院へ駆けつける。そこで居合わせたのは光子の不倫相手・徳光奏多(25)だった。
オープンマリッジを選択していた篠田夫婦。航大は複雑な思いを抱えながらも救急車を呼んでくれた奏多に感謝する。が、奏多から「光子さんがよくなるまで、自分に身の回りのことをさせて欲しい」と請われ……。航大と奏多、そして目覚めない光子の奇妙な生活と、愛。
兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜
藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。
__婚約破棄、大歓迎だ。
そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った!
勝負は一瞬!王子は場外へ!
シスコン兄と無自覚ブラコン妹。
そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。
周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!?
短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています
カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)
三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。
各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。
第?章は前知識不要。
基本的にエロエロ。
本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。
一旦中断!詳細は近況を!
悪意か、善意か、破滅か
野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。
婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、
悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。
その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。
他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに
千石
ファンタジー
魔法学園4年生のグレイ・ズーは平凡な平民であるが、『他人の寿命が視える』という他の人にはない特殊な能力を持っていた。
ある日、学園一の美令嬢とすれ違った時、グレイは彼女の余命が本日までということを知ってしまう。
グレイは自分の特殊能力によって過去に周りから気味悪がられ、迫害されるということを経験していたためひたすら隠してきたのだが、
「・・・知ったからには黙っていられないよな」
と何とかしようと行動を開始する。
そのことが切っ掛けでグレイの生活が一変していくのであった。
他の投稿サイトでも掲載してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる