イシュラヴァール放浪記

道化の桃

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イシュラヴァール拾遺

番外編 紅玉 前編☆

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マルス編……というか、ルビー編になってしまいました。
ルビー×マルスです。

*****

 王都を追われたマルスは、縦に長い海岸線のほぼ中央付近にあるアズハル湾を本拠地に据えていた。だがマルス自身は滅多に陸に上がることはなく、大抵は海軍の軍艦か、武器商人ブラッディ・ルビーの船にいた。
 アズハル港には司令部が置かれ、マルスのための居室も一応はしつらえられてあったが、使ったためしがない。
 ブラッディルビー号の船長室で、ルビーとマルスはイシュラヴァール近海を根城にする各勢力の動きを確認する。ルビーの海図には商船のルートから各国海軍の軍艦の数、海賊の勢力図まで細かく書き込まれていて、随時更新され続けていた。この一年で、ルビーの情報網は、復権を狙うマルスにとって戦略上なくてはならないものになっていた。
 夜遅くまでワイングラス片手に戦略を練っていて、気付くとルビーの手下たちは疲労と酔いに沈没し、マルスの兵も眠そうに目をこすっている。
「今日はここまでにするか……」
 マルスが呟くと、気を利かせた手下の一人が、眠りこけている仲間を起こして部屋から出ていった。マルスの麾下の兵士も、唯一集中力を保っていたスカイの合図で皆外へ出た。
「まさに潮が引くようだな」
 あっという間にルビーと二人きりになって、マルスが苦笑した。
「何か言ったか?」
 ワインを注ぎ足す手を止めて、ルビーが言った。
「いや。……そなた、まだ飲むのか?」
「あなたもどうぞ。まだ飲めるでしょう?」
 ルビーは微笑ってボトルを差し出した。マルスは空になったグラスにそれを受ける。
「聞きしに勝るうわばみだな」
「マルス殿も相当だ。勝負するか?」
 そう言って一気にグラスの中身をあおりかけたルビーの手を、マルスが止めた。
「よしておけ。どれだけ飲んでも私は酔わぬ」
 ルビーはマルスを見上げた。
「どうした?」
 マルスに問われて、ルビーはふと顔を逸らす。
「……なんでもない」
 視線を落とした先には海図が広がっている。その海岸線、アズハル湾から少し南の小さな漁港に、先月マルスたちを降ろした。「怪我で療養している友人に会いに行く」という話で、事実、付近一帯は彼の一族の領内だった。
 深く考えずに同行するつもりで下船の準備をしていたルビーを、マルスの側近のスカイがやんわりと制した。
「船に残ってください。何かあっては危険ですから」
 それが「砂漠が危険だ」という意味か「船を守れ」という意味か測りかねて、ルビーは何事か言いかけたが、スカイがそれを遮って続けた。
「積もる話もありますから、いらしてもきっと退屈でしょうし」
 それでルビーは察した。彼らはルビーに来てほしくないのだ。
 女の勘、と言ってしまえばいかにも陳腐だが、そこに言及するのも野暮に思えて、ルビーは大人しく引き下がった。だが砂漠から戻って数日、マルスがどこか塞ぎ気味に見えたのは、気のせいではないだろう。
(側室の誰かが、その友人とやらの領内に匿われているのだろうか)
 ルビーの想像ではそれが精一杯だった。マルスとルビーが深い仲なのは、仲間内では周知のことだ。わざわざルビーを遠ざける理由は女以外にないだろうと思えた。
 マルスはなぜ、その側室をそばに置かないのだろう。さすがにルビーに遠慮しているのか。深窓の側室は船暮らしなどできないからか。危険に晒したくないのか。それほど大事な女がいるのか。砂漠に。――そんなことを、聞けるわけがない。
 もやもやとした気分を流し込むように、ルビーはグラスに残っていたワインをひと息に飲んだ。
「おい、ルビー」
 気づいたマルスが、ルビーの手からグラスを奪った。
「それくらいにしておけ。もう遅い――」
 マルスの唇を、ルビーが塞いだ。
 砂漠にどんな美しい姫がいようが、今、彼の目の前にいるのはルビー自分なのだ。
 ルビーは自身の美貌には自信があった。海賊まがいのことをしてはいても、本来は家柄も良く、教養も身につけている。その自負ゆえに、醜い嫉妬を口にしなくて済んだ。目の前のマルスが応えてくれさえすれば、それで良かった。
「――私の理性を試しているのなら、私の負けだ。ルビー」
 囁いたマルスの唇に、ルビーが人差し指を当てた。
「二人きりのときは、どうぞスラジャと」
 普段は獲物を狙う猛禽のようなルビーの瞳が、艶かしく潤んで光を放っている。
「スラジャ……」
 マルスはルビーに口付けした。そのままルビーを抱き上げ、船長室の奥のドアを開けた。そこはルビーの寝室だった。
 ルビーの大きく形の良い唇をついばみながら、臙脂に金糸の刺繍が施されたコートを脱がせ、ブラウスの襟についたタイをほどく。
「毎度のことだが、男の服を脱がすのは妙な気分だな」
「では自分で脱ぐか?」
 そう言って、ルビーが自分のぴったりとしたキュロットパンツに手を掛けた。その手をマルスが捉えて、ルビーの頭上でひとまとめに掴む。
「大人しく脱がされていろ、スラジャ」
 マルスはルビーの首筋に食らいついた。
「あっ……!」
 思わずびくんと腰を浮かせた瞬間、するりとキュロットパンツが脱がされた。
「ん……」
 ルビーが熱っぽい吐息を漏らした。マルスの首に腕を絡ませ、豊満な胸元に抱き寄せる。それに応えて、マルスが純白の乳房の先端の紅い蕾を咥え、舌で弄ぶ。
 決して広くはない船室に、熱い吐息が満ちていく。
 ルビーがマルスと交わる時、まるで見えない何かと戦っているような気分になる。敵はマルスではない。マルスはむしろ――獲物だ。正体のわからない何者かと先を争うように、ルビーはマルスに食らいつき、その愛を貪る。
 だがすぐに、自分自身もまた獲物であったことを思い知る。
「や、あっ……!」
 マルスに下から貫かれて、ルビーはマルスの腹の上で大きく仰け反った。空を泳いだ両手を、マルスが捉えてルビーの背中で交差させた。接合部分が丸見えになり、ルビーは羞恥に昂ぶった。
「や、あ、あ、あん、あっ、あんっ……!」
 下から何度も突き上げられ、落下するたびに自身の重みで奥深く突き刺さる。動きに合わせて豊かな乳房が激しく揺れ、それがまたルビーの羞恥心を煽ったが、両手を後ろ手に掴まれているのでどうすることもできない。結局いつも、ルビーの方から許しを請うことになる。
「あ、あ、もう、いっ――!」
 一度達してしまうと、ルビーはもはや従順な獲物に過ぎなかった。マルスは美しい曲線を描くルビーの肢体を組み伏せ、様々に体位を変えて思うまま啼かせた。
 ルビーは他の男を知らない。夜毎マルスによって官能の在り処を覚えていくルビーは、愛らしく大胆だった。普段の居丈高な振る舞いからは想像もつかない乱れ方は、マルスの支配欲を満たした。
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