イシュラヴァール放浪記

道化の桃

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第十章 王都編

処刑台☆★

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 処刑される罪人の悲鳴が響かなくなった代わりに、広場には朝から木材を組み上げるつちの音が響いていた。
 作業開始から数日後、それは徐々にグロテスクな姿を現してきた。
 夜明け近くに塔を訪れたマルスが寝台に潜り込んできたので、ファーリアは目を覚ました。一方マルスはファーリアを抱きしめて眠ってしまった。寝直すほどは眠くなく、本を読むには暗すぎる。仕方なくぼんやりと考え事をしていたら、だんだんと空が白み始めて、朝になった。
 広場から聞こえてくる大工仕事の音で目が覚めたのだろう。マルスが目を閉じたまま言った。
「あれが何だかわかるか?ファーリア」
 あれ、とは、広場に作られているもののことだろう。
「さあ……?」
 マルスは目を開けた。
「処刑台だ」
「――!」
 さすがのファーリアも息を呑んだ。マルスがファーリアの大きな腹を撫でた。
「これが産まれたら、あの台の上でユーリ・アトゥイーを処刑する」
 ファーリアはマルスの腕をすり抜けて、窓辺に駆け寄った。
 真っ白な新しい木で組まれた広い台の上に、X字に組まれた柱が立っていた。その前には、四方に鎖が備え付けられた細長い台が置かれている。
「まず柱に縛り付けて鞭打ちをし、次に台に寝かせて、硫黄で焼く」
 マルスもまた起きてきて、ファーリアの背中をなぞった。そのまま寝間着を脱がせる。マルスはもとより裸だった。
 X字の柱から少し離れたところには高いやぐらが立ち、上部の横木の中央には滑車に取り付けられたロープがぶら下がっている。
「あのロープで逆さ吊りにして、焼け爛れた上からまた鞭打ちをする。処刑人の鞭は強い。皮膚は溶けてなくなり、肉片がえぐり取られる」
 言いながら、マルスは早くも屹立したそれを背後からファーリアに押し付けた。
「……っ……」
 処刑法のあまりの残酷さに、ファーリアは震えた。マルスはファーリアの腰を掴んで挿入した。
「……あっ!」
「見よ」
 マルスは、下を向いて屈み込んでしまったファーリアの髪を軽く引いて、顔を上げさせた。
「最後に、再び拷問台の上にうつ伏せさせ、首を落とす。首は百日の間、あそこに晒される」
「ひどい……こんな……」
 ファーリアの眼から涙がこぼれた。朝日を浴びて白く輝く処刑台が、ユーリの鮮血で真っ赤に染まる。
 その幻想はマルスを更に昂ぶらせた。
 マルスは怒張してびきびきと筋の浮き出た陰茎をファーリアから引き抜いた。力が抜けて床に座り込んだファーリアの口に、それを押し込む。
「あぐ……!」
 泣くがいい。嘆くがいい。私を裏切ったことを、後悔し続ければいい。私のものを奪ったことを悔やみながら、あの男は死ぬのだ。復讐の昏い欲望がふつふつと腹の奥で煮えている。マルスはそれを吐き出すように、ファーリアの口中に射精した。
 まるで道具のように抱かれている間、ファーリアは泣き続けていた。
 いつの間にか太陽が高い。
 マルスに抱かれて寝台に運ばれたのを覚えている。室内にはもうマルスの姿はなかった。
 ファーリアは再び窓辺に立った。見たくない。だが、見ておきたい。脚が震え、呼吸が早くなる。
「ああ……!」
 数人の大工がせっせとそれを組み上げている。考えるまいと思っても、つい目で追ってしまう。あそこで鞭打ち……あそこで硫黄……ロープで逆さ吊り……真っ白な木材が、幻想の中で紅に染まっていく。
 ユーリを苦しめ抜いて、命を奪う、そのためだけに作られた美しくおぞましい処刑台。
「どうすれば、助けられるの……?」
 その時、キラリと何かが光った。ファーリアは目を凝らした。広場の先に点在する建物の、どこかが光ったのだ。
「……っ!!」
 次の瞬間、ファーリアは窓から飛び退いた。

 弓には自信があった。
 塔で拾った紙切れには、ぽちぽちと穴が開いていた。その文字を追っていく。
『処刑は7月、罪の道を通る』
 エディは頭の中に市街の地図を広げ、ファーリアのいる塔の窓を狙える建物を探し出した。窓の高さと角度を考えると三階以上の高さは欲しい。士官学校主席に授けられる「金の盾」保持者のエディの射程距離は200メートルほどだが、確実に射抜くなら少しでも近いほうがいい。
 矢を打ち込む時間帯も重要だ。確実にマルスがいない時間でなければならない。更に、ファーリアに当たる可能性を考えると、むしろファーリアが窓の外を見ている時がいい。室内の様子が分からないまま打ち込むより、ファーリアの動体視力の良さに賭ける。となると、夜はだめだ。
 その日、塔からマルスが出ていくのを見たエディは、救護院に取って返し、庭の茂みに隠しておいた弓を持って門を出た。当たりをつけた建物に潜み、双眼鏡で塔の窓を窺う。失敗はできない。
 果たして窓辺にファーリアの姿が見えた。注意を引くために、小さな鏡で光を送る。
 弓を引き絞ると、鎖骨が鈍く痛んだ。
「くっ――」
 痛みをこらえ、窓辺のファーリアに集中する。鏡の光に気付いたのだろう、こちらを見つめている。
 エディは呼吸を止め、矢を放った。
「行けっ!」
 小さな窓に向かって矢がまっすぐに飛んでいく。
 ファーリアが避けた。その暗闇へ、矢は吸い込まれていった。
「やった!ファーリア……!」
 緊張が解けた途端、汗がどっと吹き出した。

「ウソでしょ……?」
 ファーリアは信じられない思いでその矢を見た。
 矢には薄い紙に書かれた手紙と、鉛筆の軸を細く細く削ったものがついていた。少しでも矢が安定するための工夫だろう。
 手紙を開いて、思わずファーリアは笑っていた。涙が溢れてくる。
「エディ……生きてた……!」
 生きて、弓を使えるまでに回復して、ファーリアが藁にもすがる思いで落とした紙を見つけてくれた。
 その奇跡のような友情に、嬉し涙が止まらない。
「エディ、ありがとう……ありがとう……」
 手紙には短く、こう書いてあった。
『毎週金曜日、夕方五時に、兎が下を散歩する。それから、この紙は水に溶けるんだ。すごいだろ?』
 ファーリアは細い鉛筆を床板の隙間に隠し、水差しの水で手紙を溶かして、矢と共に窓から捨てた。
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