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第七章 愛執編
側近たちの夜
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その夜遅く、ファーリアを捜索していたエディたちがアルサーシャに帰還した。
報告のために王宮を訪ねたエディは、小姓からスカイの不在を知らされる。
「昼過ぎに陛下とシハーブ様のお屋敷にお出かけになって、それから戻られていません」
「昼過ぎ?随分長いね」
エディは時計を見て言った。
「アトゥイー様がお戻りになったとのことでしたから……」
語尾を濁した小姓に、エディはなるほど、と得心した。が、スカイまで戻らないのは不思議だ。
「じゃあシハーブ様のお屋敷にいるんだね?」
シハーブ家は王宮の目と鼻の先である。エディはとにかく報告だけでもと、シハーブ家の門を叩いた。時間が遅いので若干気が引けたが、先程から何やら胸騒ぎがしていた。
(何事もなければいいけれど――)
玄関ホールでしばらく待つと、スカイが現れた。
「エディ!ご苦労だったね」
「ええ……あの、何かありました?」
「いや!」
スカイは即座に否定したが、その表情が硬い。怪訝そうにしたエディの肩に手を掛けて、スカイはすぐ脇の小部屋に入ってドアを閉めた。
「……エクバターナで何があった?」
「それは――あの、報告書に書いた通りですが」
「アトゥイーとは、どういう経緯ではぐれたんだ?」
スカイが声を一段落とした。
「……アトゥイーが、どうかしたんですか?」
エディは心拍数が上がるのを自覚した。これだ。胸騒ぎの正体。何か不穏なことが起きている。
その時、カチャリとドアノブが回って扉が開き、シハーブが現れる。
「シハーブ様」
スカイが声を掛けると、シハーブは険しい顔で首を振った。
「水を運ばせた――食事は部屋の外に用意しておいたが、手を付けられていない」
「シハーブ様!アトゥイーがどうかしたのですか!?」
エディが声を上げた。
「静かにしろ。夜中だぞ」
シハーブが疲れた声で言う。
「……すみません、でも……!」
「アトゥイーは……恐らく、間諜の疑いが」
スカイの言葉に、エディは青ざめた。
「そんな……まさか……」
「エクバターナの乱には反乱軍の一味がいたと」
「ええ、それはダレイ王子と共謀してクーデターを。それに王妃が対抗して挙兵し……報告したとおりです!」
「で、アトゥイーはなぜその後、アルヴィラにいた?そもそも何故お前たち――我が国の使節団が襲われたのだ?内部に通じていた者がいたのじゃないのか?」
シハーブが問い詰める。
「そんなばかな……!隊長、アトゥイーを信じていないんですか!?」
エディはスカイにすがるような目を向ける。
「僕は彼女のことは信じたいけどね。でも、シハーブ様が仰ったように受け取る人間もいるってことだよ」
エディははっとした。
「……まさか……陛下が……?」
最初から、シハーブとスカイの様子はおかしかった。重苦しい空気。会話のひとことひとことすら、言いにくそうに、言葉を選んで。そして今、この場にいないのは――。
「…………アトゥイー!」
エディはドアに飛びついた。そのドアをシハーブが押さえ、スカイがエディの腕を掴む。
「放せ……!アトゥイー!アトゥイーっ!」
「落ち着けエディ!今きみが行ってもどうにもならない!」
「そうだ。下手をすればマルス様に斬り捨てられるぞ。――今までにないほど気が立っておられる」
「そんな……!じゃあアトゥイーがみすみす殺されてしまうのを黙って見てろって言うんですか!?」
「滅多なことを言うな!」
シハーブが一喝する。
「エディ、何かないのか。アトゥイーの身の証しを立てられるような」
スカイが努めて落ち着いた声で尋ねる。エディはそれでようやく、少しだけ冷静さを取り戻した。
「……僕は、一緒じゃなかったんです……」
エディはそう呟いて、はっと顔を上げる。
「……ヤーシャール王子……!」
「アルナハブから亡命してきた王子か?」
「ええ。幽閉されていたヤーシャール王子を助け出したのはアトゥイーなんです。アトゥイーと、ヨナとサハル、あと傭兵隊のリン。もし反乱軍についていたら、ダレイ王子と敵対するヤーシャール王子を助けたりしません」
シハーブとスカイは顔を見合わせて頷きあった。
「今日はもう遅い。明日、王子にお話を伺おう」
「そうですね」
スカイはそうシハーブに答えて、エディにも労いの言葉をかけた。
「ありがとうエディ。今夜のところは宿舎に戻って休みたまえ。君も長旅で疲れているだろう」
報告のために王宮を訪ねたエディは、小姓からスカイの不在を知らされる。
「昼過ぎに陛下とシハーブ様のお屋敷にお出かけになって、それから戻られていません」
「昼過ぎ?随分長いね」
エディは時計を見て言った。
「アトゥイー様がお戻りになったとのことでしたから……」
語尾を濁した小姓に、エディはなるほど、と得心した。が、スカイまで戻らないのは不思議だ。
「じゃあシハーブ様のお屋敷にいるんだね?」
シハーブ家は王宮の目と鼻の先である。エディはとにかく報告だけでもと、シハーブ家の門を叩いた。時間が遅いので若干気が引けたが、先程から何やら胸騒ぎがしていた。
(何事もなければいいけれど――)
玄関ホールでしばらく待つと、スカイが現れた。
「エディ!ご苦労だったね」
「ええ……あの、何かありました?」
「いや!」
スカイは即座に否定したが、その表情が硬い。怪訝そうにしたエディの肩に手を掛けて、スカイはすぐ脇の小部屋に入ってドアを閉めた。
「……エクバターナで何があった?」
「それは――あの、報告書に書いた通りですが」
「アトゥイーとは、どういう経緯ではぐれたんだ?」
スカイが声を一段落とした。
「……アトゥイーが、どうかしたんですか?」
エディは心拍数が上がるのを自覚した。これだ。胸騒ぎの正体。何か不穏なことが起きている。
その時、カチャリとドアノブが回って扉が開き、シハーブが現れる。
「シハーブ様」
スカイが声を掛けると、シハーブは険しい顔で首を振った。
「水を運ばせた――食事は部屋の外に用意しておいたが、手を付けられていない」
「シハーブ様!アトゥイーがどうかしたのですか!?」
エディが声を上げた。
「静かにしろ。夜中だぞ」
シハーブが疲れた声で言う。
「……すみません、でも……!」
「アトゥイーは……恐らく、間諜の疑いが」
スカイの言葉に、エディは青ざめた。
「そんな……まさか……」
「エクバターナの乱には反乱軍の一味がいたと」
「ええ、それはダレイ王子と共謀してクーデターを。それに王妃が対抗して挙兵し……報告したとおりです!」
「で、アトゥイーはなぜその後、アルヴィラにいた?そもそも何故お前たち――我が国の使節団が襲われたのだ?内部に通じていた者がいたのじゃないのか?」
シハーブが問い詰める。
「そんなばかな……!隊長、アトゥイーを信じていないんですか!?」
エディはスカイにすがるような目を向ける。
「僕は彼女のことは信じたいけどね。でも、シハーブ様が仰ったように受け取る人間もいるってことだよ」
エディははっとした。
「……まさか……陛下が……?」
最初から、シハーブとスカイの様子はおかしかった。重苦しい空気。会話のひとことひとことすら、言いにくそうに、言葉を選んで。そして今、この場にいないのは――。
「…………アトゥイー!」
エディはドアに飛びついた。そのドアをシハーブが押さえ、スカイがエディの腕を掴む。
「放せ……!アトゥイー!アトゥイーっ!」
「落ち着けエディ!今きみが行ってもどうにもならない!」
「そうだ。下手をすればマルス様に斬り捨てられるぞ。――今までにないほど気が立っておられる」
「そんな……!じゃあアトゥイーがみすみす殺されてしまうのを黙って見てろって言うんですか!?」
「滅多なことを言うな!」
シハーブが一喝する。
「エディ、何かないのか。アトゥイーの身の証しを立てられるような」
スカイが努めて落ち着いた声で尋ねる。エディはそれでようやく、少しだけ冷静さを取り戻した。
「……僕は、一緒じゃなかったんです……」
エディはそう呟いて、はっと顔を上げる。
「……ヤーシャール王子……!」
「アルナハブから亡命してきた王子か?」
「ええ。幽閉されていたヤーシャール王子を助け出したのはアトゥイーなんです。アトゥイーと、ヨナとサハル、あと傭兵隊のリン。もし反乱軍についていたら、ダレイ王子と敵対するヤーシャール王子を助けたりしません」
シハーブとスカイは顔を見合わせて頷きあった。
「今日はもう遅い。明日、王子にお話を伺おう」
「そうですね」
スカイはそうシハーブに答えて、エディにも労いの言葉をかけた。
「ありがとうエディ。今夜のところは宿舎に戻って休みたまえ。君も長旅で疲れているだろう」
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