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第六章 アルナハブ編
落下
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アトゥイーは敵をかいくぐり、月光宮の奥へと入り込んでいた。
宮殿そのものが天然の地形に沿って築かれているらしく、内部の構造は恐ろしく複雑だった。奥に行けば行くほど複雑さは増していく。廊下は曲がりくねり、何層にも重なり合っている。露出した岩肌に沿って大小の階段が巡らされ、思いもかけない高さにぽっかりと通路が口を開けている。
平地に整然と築かれたアルサーシャの宮殿とは、全く様相が異なっている。
「まるで、迷路だ……」
そう呟いた時、暗がりから小声で呼び止められた。
「アトゥイー!」
咄嗟に剣を構えて振り返ると、そこにはリンがいた。
「リン!無事だったのか」
「敵に追われて――そいつらは倒したんだけど、謁見の間に戻れなくなった」
「わたしもだ」
その時、通路の奥から話し声が聞こえてきた。だんだん近づいてくる。
「こっちへ来る!」
アトゥイーとリンは音を立てないよう注意して、声から遠ざかるように進んだ。
しばらく進むと、唐突に外に出た。外、といっても、中庭を見下ろす外廊下だ。山の斜面を削り取るように建てられたたくさんの建物が、外廊下や内側の通路で繋がって、宮殿が形成されているらしい。アトゥイーたちはその斜面の中腹にいた。眼下には複雑に入り組んだ建物が重なり合っている。何度も上がったり下がったりして、実際に今何階にいるのか定かではない。
「リン、あそこ……!」
アトゥイーが指差した。
遙か下に、敵に囲まれたエディたちが見えた。そこは先程までいた謁見の間だった。
咄嗟にそちらに向けて銃を構えたリンが、小さく舌打ちする。
「ライフルを取り上げられてしまった。短銃ではここからじゃ届かない」
銃は貴重品だ。傭兵隊では狙撃手であるリンだけが、銃身の長い狙撃用ライフルを持っている。それを、謁見の間の回廊に通された時に預けてしまっていた。
と、その時、背後から声がした。
「おい!何者だ!」
「――見つかった!」
アトゥイーとリンは外廊下を駆け、突き当たりの階段を駆け下りる。が、すぐに騒ぎを聞きつけた兵が階下からも駆け上がってきた。
「こっちだ!」
手近にあった暗い通路に飛び込む。と、いきなりガクンと足が空を踏んだ。
「あ?きゃ、あ、あっ!」
通路の先は、恐ろしく急な――ほとんど崖と言っていいほど――階段だった。
背後には追手の気配がする。戻るわけにも止まるわけにもいかない。
アトゥイーとリンは転がるように暗闇の中を落ちていった。
宮殿そのものが天然の地形に沿って築かれているらしく、内部の構造は恐ろしく複雑だった。奥に行けば行くほど複雑さは増していく。廊下は曲がりくねり、何層にも重なり合っている。露出した岩肌に沿って大小の階段が巡らされ、思いもかけない高さにぽっかりと通路が口を開けている。
平地に整然と築かれたアルサーシャの宮殿とは、全く様相が異なっている。
「まるで、迷路だ……」
そう呟いた時、暗がりから小声で呼び止められた。
「アトゥイー!」
咄嗟に剣を構えて振り返ると、そこにはリンがいた。
「リン!無事だったのか」
「敵に追われて――そいつらは倒したんだけど、謁見の間に戻れなくなった」
「わたしもだ」
その時、通路の奥から話し声が聞こえてきた。だんだん近づいてくる。
「こっちへ来る!」
アトゥイーとリンは音を立てないよう注意して、声から遠ざかるように進んだ。
しばらく進むと、唐突に外に出た。外、といっても、中庭を見下ろす外廊下だ。山の斜面を削り取るように建てられたたくさんの建物が、外廊下や内側の通路で繋がって、宮殿が形成されているらしい。アトゥイーたちはその斜面の中腹にいた。眼下には複雑に入り組んだ建物が重なり合っている。何度も上がったり下がったりして、実際に今何階にいるのか定かではない。
「リン、あそこ……!」
アトゥイーが指差した。
遙か下に、敵に囲まれたエディたちが見えた。そこは先程までいた謁見の間だった。
咄嗟にそちらに向けて銃を構えたリンが、小さく舌打ちする。
「ライフルを取り上げられてしまった。短銃ではここからじゃ届かない」
銃は貴重品だ。傭兵隊では狙撃手であるリンだけが、銃身の長い狙撃用ライフルを持っている。それを、謁見の間の回廊に通された時に預けてしまっていた。
と、その時、背後から声がした。
「おい!何者だ!」
「――見つかった!」
アトゥイーとリンは外廊下を駆け、突き当たりの階段を駆け下りる。が、すぐに騒ぎを聞きつけた兵が階下からも駆け上がってきた。
「こっちだ!」
手近にあった暗い通路に飛び込む。と、いきなりガクンと足が空を踏んだ。
「あ?きゃ、あ、あっ!」
通路の先は、恐ろしく急な――ほとんど崖と言っていいほど――階段だった。
背後には追手の気配がする。戻るわけにも止まるわけにもいかない。
アトゥイーとリンは転がるように暗闇の中を落ちていった。
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