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第五章 恋情編
王の憂鬱
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「スカイ……私にはあれの考えてることがわからん……」
マルスは執務室に入るなりぐったりと椅子に座り込んで頭を抱えた。
「……重症だな」
「あっはは!」
シハーブは呆れ果てて書きかけの書類の上に溜息を落とし、スカイは声を上げて笑った。
「後宮に入れと言っても、嫌だという。そんなに近衛兵でいたいのか?」
「いい職場ですからねぇ、近衛隊は」
スカイは得意気に、半ば冗談めかして言った。だがマルスの顔は真面目そのものである。
「絹も宝石も要らんというし」
「だいぶすれ違ってますねぇ」
「後宮に入ってもらわねば、子を産ませられぬではないか」
「……え?」
シハーブが手を止めて顔を上げた。マルスはぷいと横を向く。その顔が僅かばかり紅潮している。
「マルス様……?まさか……」
「え、陛下、まさか本気で?」
「……しかも……っ、あいつ、医者に薬まで出させてるんだぞ?」
「薬、って、なんの」
シハーブが尋ねるが、マルスは苦い顔で横を向いたままだ。
「まさか、不妊の?」
勘のいいスカイが、マルスの濁した言葉を正確に言い当てる。
「……一体なんのつもりだ。私のそばにいたいと言う。だが後宮には入らぬという。私の妃にはならぬと言う。……あれは一体、何を考えているのだ」
「知るか」
シハーブは小声で独りごちる。
「つまり、陛下はこれまで諸国の姫君たちの上げ膳据え膳で、ご自分から口説かれたことなどないのでしょう?女性の思考なんて僕のような平凡な男からしてみたら永遠の謎です」
スカイが両手を広げて言った。
「お前のような女たらしでもか」
「ええそうですよ。僕はごく平凡ないち女たらしに過ぎませんからね。それがわかったら陛下は類稀なる賢王になれるかと」
「私に説教するのか、スカイ」
「本気だと思われていないのでは?」
シハーブが面倒くさそうに言った。
「国王の気紛れだと思われているとか」
「むしろ私のほうが、遊ばれている女の気分だ……!」
マルスが苛々と吐き出した。
「あっはっはっは!」
「……笑い事か?スカイ」
シハーブが真面目な顔で言った。
「陛下は奴隷が望んでいることなんて理解できないでしょうからね」
目尻に涙を浮かべながらスカイが言った。
「……なぜ知っている」
マルスは頭を抱えたまま、目だけをスカイに向けた。
「ちょっと待て。奴隷?アトゥイーが?」
情報に一歩取り残されたシハーブの質問は、またしても無視される。
「だってあの身体見たら、分かりますよ」
「見たのか!?」
ガタンと椅子を鳴らして、マルスが立ち上がった。
「ちょ、陛下、落ち着いて……っ」
マルスはスカイに詰め寄り、壁際に追い詰めた。その左手が剣の鞘を掴んでいる。
「ああもう、男に襲われかけてたところを止めたんですよ!」
「相手は誰だ!」
「言えませんよ。今の陛下じゃ、相手を殺しそうですもの。でも、誓って未遂ですから!」
マルスは踵を返し、スカイから離れた。苛立ちのあまり呼吸が荒い。
「重症……ですね」
スカイとシハーブは顔を見合わせた。
マルスは執務室に入るなりぐったりと椅子に座り込んで頭を抱えた。
「……重症だな」
「あっはは!」
シハーブは呆れ果てて書きかけの書類の上に溜息を落とし、スカイは声を上げて笑った。
「後宮に入れと言っても、嫌だという。そんなに近衛兵でいたいのか?」
「いい職場ですからねぇ、近衛隊は」
スカイは得意気に、半ば冗談めかして言った。だがマルスの顔は真面目そのものである。
「絹も宝石も要らんというし」
「だいぶすれ違ってますねぇ」
「後宮に入ってもらわねば、子を産ませられぬではないか」
「……え?」
シハーブが手を止めて顔を上げた。マルスはぷいと横を向く。その顔が僅かばかり紅潮している。
「マルス様……?まさか……」
「え、陛下、まさか本気で?」
「……しかも……っ、あいつ、医者に薬まで出させてるんだぞ?」
「薬、って、なんの」
シハーブが尋ねるが、マルスは苦い顔で横を向いたままだ。
「まさか、不妊の?」
勘のいいスカイが、マルスの濁した言葉を正確に言い当てる。
「……一体なんのつもりだ。私のそばにいたいと言う。だが後宮には入らぬという。私の妃にはならぬと言う。……あれは一体、何を考えているのだ」
「知るか」
シハーブは小声で独りごちる。
「つまり、陛下はこれまで諸国の姫君たちの上げ膳据え膳で、ご自分から口説かれたことなどないのでしょう?女性の思考なんて僕のような平凡な男からしてみたら永遠の謎です」
スカイが両手を広げて言った。
「お前のような女たらしでもか」
「ええそうですよ。僕はごく平凡ないち女たらしに過ぎませんからね。それがわかったら陛下は類稀なる賢王になれるかと」
「私に説教するのか、スカイ」
「本気だと思われていないのでは?」
シハーブが面倒くさそうに言った。
「国王の気紛れだと思われているとか」
「むしろ私のほうが、遊ばれている女の気分だ……!」
マルスが苛々と吐き出した。
「あっはっはっは!」
「……笑い事か?スカイ」
シハーブが真面目な顔で言った。
「陛下は奴隷が望んでいることなんて理解できないでしょうからね」
目尻に涙を浮かべながらスカイが言った。
「……なぜ知っている」
マルスは頭を抱えたまま、目だけをスカイに向けた。
「ちょっと待て。奴隷?アトゥイーが?」
情報に一歩取り残されたシハーブの質問は、またしても無視される。
「だってあの身体見たら、分かりますよ」
「見たのか!?」
ガタンと椅子を鳴らして、マルスが立ち上がった。
「ちょ、陛下、落ち着いて……っ」
マルスはスカイに詰め寄り、壁際に追い詰めた。その左手が剣の鞘を掴んでいる。
「ああもう、男に襲われかけてたところを止めたんですよ!」
「相手は誰だ!」
「言えませんよ。今の陛下じゃ、相手を殺しそうですもの。でも、誓って未遂ですから!」
マルスは踵を返し、スカイから離れた。苛立ちのあまり呼吸が荒い。
「重症……ですね」
スカイとシハーブは顔を見合わせた。
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