66 / 230
第五章 恋情編
近衛隊長への苦情
しおりを挟む
鼠混入事件からひと月が経った。
後宮でのアトゥイーへの嫌がらせは止むことはなく、日に日にエスカレートしていた。
「わたしの部屋だけ掃除も洗濯もされないし、なんなら埃を全部置いていかれる。犬猫の死骸が投げ込まれるなんてざらだし、最初の頃は毎日何かが部屋から消えていた。……もっとも大したものは置いていないから、すぐに盗るものがなくなって止んだけど。困るのは減ることよりも増えることだ。覚えのないものが部屋にあって、泥棒呼ばわりされる。髪飾りや指輪なんかはまだいいが、こないだなんてわたしの背丈ほどもある壺が置いてあった」
「……壺!!」
話を聞いていたスカイが腹を抱えて爆笑した。こちらに背を向けているシハーブも、肩が震えている。近衛隊の訓練前、ひとときの余裕ができて、たまたま三人話す機会ができたのだ。
「笑いごとじゃない。壺なんて盗んでどうするというのだ。だがその弁明で、昨日は一日潰れた。他にも掃除や洗濯や探し物で、休む間もない」
「女の嫉妬は怖いねぇ」
「スカイ、そういうわけだから、そろそろわたしを後宮付きから外して。仕事にならない」
「……仕事にならんのはこっちも同感だ」
シハーブがぼそりと呟く。尤も、仕事をしないのは彼の主人だったが。
「話をややこしくしないでください、シハーブ様。で、陛下はどれくらい君を呼んでるの?」
「…………ジャスミンの日は、さすがに遠慮した」
「は……!」
スカイはまた笑い声を上げた。
ジャスミンの日、とは、亡くなった正妃の月命日だ。それ以外は、たとえ月のものが来ていても、添い寝だけでもと寝床に引っ張り込まれる。
「はは、は!それはまた、君も大変だねぇ!」
「笑いごとじゃない」
アトゥイーはむっとしてスカイを睨んだ。その頬が赤い。
「まあ、ちょっと進言してみるよ。でもきっと無理だと思うけど」
何がそんなにおかしいのか、笑いすぎて目尻に浮かんだ涙を拭きながらスカイは言った。
「どうして?他の女兵士を寄越せばいいだけのことでしょう?」
「だって君が後宮付きじゃなくなったら、陛下が寝所に呼べないじゃないか――あ、でも」
スカイはふと顎に手を当て、考えを巡らせる。
「……いけなくはない……のかな?」
「……?」
アトゥイーはきょとんとした。
「……おい、スカイお前、なにを考えている?」
シハーブは悪い予感がした。が、やがて三々五々隊員が集まってきて訓練が始まり、その話は一旦それきりになった。
後宮でのアトゥイーへの嫌がらせは止むことはなく、日に日にエスカレートしていた。
「わたしの部屋だけ掃除も洗濯もされないし、なんなら埃を全部置いていかれる。犬猫の死骸が投げ込まれるなんてざらだし、最初の頃は毎日何かが部屋から消えていた。……もっとも大したものは置いていないから、すぐに盗るものがなくなって止んだけど。困るのは減ることよりも増えることだ。覚えのないものが部屋にあって、泥棒呼ばわりされる。髪飾りや指輪なんかはまだいいが、こないだなんてわたしの背丈ほどもある壺が置いてあった」
「……壺!!」
話を聞いていたスカイが腹を抱えて爆笑した。こちらに背を向けているシハーブも、肩が震えている。近衛隊の訓練前、ひとときの余裕ができて、たまたま三人話す機会ができたのだ。
「笑いごとじゃない。壺なんて盗んでどうするというのだ。だがその弁明で、昨日は一日潰れた。他にも掃除や洗濯や探し物で、休む間もない」
「女の嫉妬は怖いねぇ」
「スカイ、そういうわけだから、そろそろわたしを後宮付きから外して。仕事にならない」
「……仕事にならんのはこっちも同感だ」
シハーブがぼそりと呟く。尤も、仕事をしないのは彼の主人だったが。
「話をややこしくしないでください、シハーブ様。で、陛下はどれくらい君を呼んでるの?」
「…………ジャスミンの日は、さすがに遠慮した」
「は……!」
スカイはまた笑い声を上げた。
ジャスミンの日、とは、亡くなった正妃の月命日だ。それ以外は、たとえ月のものが来ていても、添い寝だけでもと寝床に引っ張り込まれる。
「はは、は!それはまた、君も大変だねぇ!」
「笑いごとじゃない」
アトゥイーはむっとしてスカイを睨んだ。その頬が赤い。
「まあ、ちょっと進言してみるよ。でもきっと無理だと思うけど」
何がそんなにおかしいのか、笑いすぎて目尻に浮かんだ涙を拭きながらスカイは言った。
「どうして?他の女兵士を寄越せばいいだけのことでしょう?」
「だって君が後宮付きじゃなくなったら、陛下が寝所に呼べないじゃないか――あ、でも」
スカイはふと顎に手を当て、考えを巡らせる。
「……いけなくはない……のかな?」
「……?」
アトゥイーはきょとんとした。
「……おい、スカイお前、なにを考えている?」
シハーブは悪い予感がした。が、やがて三々五々隊員が集まってきて訓練が始まり、その話は一旦それきりになった。
0
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説
冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました
せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜
神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。
舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。
専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。
そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。
さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。
その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。
海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。
会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。
一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。
再会の日は……。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
性欲の強すぎるヤクザに捕まった話
古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。
どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。
「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」
「たまには惣菜パンも悪くねぇ」
……嘘でしょ。
2019/11/4 33話+2話で本編完結
2021/1/15 書籍出版されました
2021/1/22 続き頑張ります
半分くらいR18な話なので予告はしません。
強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。
誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。
当然の事ながら、この話はフィクションです。
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】
remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。
干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。
と思っていたら、
初めての相手に再会した。
柚木 紘弥。
忘れられない、初めての1度だけの彼。
【完結】ありがとうございました‼
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる