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1年生
街角にはクリスマス・ツリー。
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「4,298円です」
「はい、どうぞ!」
私は背伸びしてお金を渡す。
「702円のお返しです。ケーキはあぶないからパパに持ってもらおうね!」
「え?」
一瞬、ケーキ屋さんのお姉さんが何を言っているのか理解できなかった。
「え、あ、えーと……はい」
後ろに立ってたセイくんが曖昧な笑顔でケーキを受け取る。そこでようやく私も気づいた。
「……ええ!?いや、パパじゃないです!」
「え?そうなんですか?えっと……坊や、知ってる人かな?」
「えっ」
あ、やばい、そっちに誤解されたか!?いや変質者とかじゃないから!ってなんて言えば……!近所のお兄さん、じゃまだ怪しさは払拭できない気がするし……自分の友だちって言ったところで信用度ゼロだろうし。
「……ママの!ママのお友だち!ね?セイくん!これからケーキ、おうちで一緒に食べるんだよね!?」
「う、うん!」
「あっ、そうなんですねー。失礼しましたぁ……よいクリスマスを!」
今度はまた違う種類の微妙な笑顔で、店員のお姉さんは私に手を振った。
私はと言うと、成り行きとはいえなんだかセイくんにも妙な誤解というかプレッシャーというかを与えてしまったようで、気まずくて顔が上げられない。セイくんも、やっぱり気まずいのか、それとも勝手にパパだの友達だのと決めつけられて怒っているのか、無言で歩いていく。
「……あ!ねぇ、ソラタくん。見てごらんよ」
セイくんに言われて顔を上げる。目の前には巨大なクリスマスツリーがあった。
「うっ……わあ!」
子どもの目線で見上げるツリーは、見慣れたツリーよりもひと回りもふた回りも大きく見える。商店街のアーケードに吊られた飾りが背景を賑やかに飾り立てて、それはもう圧巻だった。
「キレイ……」
しばらく我を忘れて見入ってしまう。そうか、子どもの世界ってこんなにキラキラしてるんだ……。
小学生になってだいぶ大きくなったなと思ってたけど、まだまだソラタの背は小さくて、クリスマスはキラキラしてるんだなぁ。
「……そろそろ行こっか。ママ心配してるかも」
セイくんに言われて、私はハッと我に返る。
「そうだ!早く帰らなきゃ!」
ミッションはまだ残っているのだ。
「ちょっとまってて!ママに話してくる!」
セイくんをドアの外に待たせて、私は家に入った。ソラタ(見かけ、私)は……大丈夫、まだ眠ってる。
私は大急ぎで準備を整え、セイくんを迎え入れた。
「おじゃましまーす……」
「どうぞどうぞ!ママね、眠ってるから、しー!ね」
私達は小声で会話する。
「ソラタくん、ケーキはどこに置く?」
「あ、冷蔵庫の中にお願い!」
セイくんが冷蔵庫を開けた。
「……あれっ」
「どうしたの?セイくん」
「ううん、なんでもないよ……」
カサリ、と紙をしまう音がした。
(やった……!)
私は心のなかでガッツポーズをする。
「ねぇ、ママ、お布団に寝かせなくていいの?」
セイくんが、ソファで寝ている私(中身ソラタ)を見つけて言った。
「うん、でもママ起きないし、ベッドのお部屋まで運べないから……」
言い終わる前に、セイくんがひょいっと私の身体を抱き上げた。
「えええええ!ちょ、セイく、重い、やめ、重い重いから!」
抱かれているのは私ではないのに、いや私なんだけど、とにかく動揺しすぎて言葉にならない。
「こんくらい平気だよ。ベッドどっち?」
「こちらで……ございます……」
私は無駄に恐縮しながら寝室のドアを開ける。セイくんは本当になんでもないかのようにベッドに私を横たえて、布団をかぶせた。
「じゃ、僕ちょっと用事があるから、またね」
「あっ……ああ、そっか。もう行っちゃうの?戻ってくる?」
「……うん。たぶん」
「ありがとう!またねー!」
……あーびっくりした。男の子って力、あるんだなー。
セイくんを送り出した私は、気を取り直して冷蔵庫を開けた。
「……よし、指令書はなくなっている」
芝居がかった低い声でつぶやく。
指令書とは、他でもないソラタが書いたサンタさんへの手紙。それから、おもちゃの引換券と、封筒に入った代金。お店の名前は引換券に書いてあるから、この辺りに住んでいる人なら絶対わかる。
――そう。私はイチかバチか、おもちゃのピックアップをセイくんに託したのだ!
(だって、うっかり外に出ている時に元に戻ったら洒落にならないし……)
それにプレゼントをピックアップしてもらっている間、私は料理の仕上げができる。
そう、やることリストの、その4と5。ミートローフとチキンパイをオーブンで焼く。
冷蔵庫で寝かせていたミートローフを取り出して、オーブンにセットする。今回は豪華にゆで玉子入り。玉子大好きなソラタ、喜んでくれるかなぁ……うふふ。想像するだけでにやけちゃう。
オーブンに入れて40分。よし、これでほぼ完璧。
あとはセイくんがサンタよろしくプレゼントを持ってきてくれるのを待つ……だ……け……。
「……はっ……!今、今何時っ!?」
がばっと飛び起きた途端、強烈な頭痛に再び倒れ込む。
「痛っ……たぁー……」
フラフラとリビングに行ってみると。
……ありゃ。ソラタがソファの上で寝てる。
待てよ。てことは。
「……元に、戻っ……た」
え、ちょっと待って。
えーと私、なんで寝ちゃったんだっけ?あ、風邪か。いやいやそうじゃなくって。
そうそう、確かミートローフを……。
私はアンデッドよろしくフラフラとオーブンまで行くと、がちゃりとドアを開けた。
中からは香ばしいいい匂いがふわ~んと。
「おお……焼けておる……」
時計を見ると、午後の五時。窓の外はもうすっかり夜だ。
「……あれ。ちょっと待って。プレゼントは?私、確かセイくんに託して」
そのあとどうなった?
部屋を見渡しても、あの後セイくんが来た気配はない。
「無理……だったのかな……」
ソラタがうーんと伸びをする。そろそろ目覚めるのかもしれない。
「そうだよね……いくらなんでも、甘え過ぎだよね……ほぼ他人、なのに」
今年のクリスマスだけは、サンタさんからのプレゼント、あげたかったな。
ああ、顔が熱い。
きっとこの熱のせいだ。涙が止まらないのは――。
「はい、どうぞ!」
私は背伸びしてお金を渡す。
「702円のお返しです。ケーキはあぶないからパパに持ってもらおうね!」
「え?」
一瞬、ケーキ屋さんのお姉さんが何を言っているのか理解できなかった。
「え、あ、えーと……はい」
後ろに立ってたセイくんが曖昧な笑顔でケーキを受け取る。そこでようやく私も気づいた。
「……ええ!?いや、パパじゃないです!」
「え?そうなんですか?えっと……坊や、知ってる人かな?」
「えっ」
あ、やばい、そっちに誤解されたか!?いや変質者とかじゃないから!ってなんて言えば……!近所のお兄さん、じゃまだ怪しさは払拭できない気がするし……自分の友だちって言ったところで信用度ゼロだろうし。
「……ママの!ママのお友だち!ね?セイくん!これからケーキ、おうちで一緒に食べるんだよね!?」
「う、うん!」
「あっ、そうなんですねー。失礼しましたぁ……よいクリスマスを!」
今度はまた違う種類の微妙な笑顔で、店員のお姉さんは私に手を振った。
私はと言うと、成り行きとはいえなんだかセイくんにも妙な誤解というかプレッシャーというかを与えてしまったようで、気まずくて顔が上げられない。セイくんも、やっぱり気まずいのか、それとも勝手にパパだの友達だのと決めつけられて怒っているのか、無言で歩いていく。
「……あ!ねぇ、ソラタくん。見てごらんよ」
セイくんに言われて顔を上げる。目の前には巨大なクリスマスツリーがあった。
「うっ……わあ!」
子どもの目線で見上げるツリーは、見慣れたツリーよりもひと回りもふた回りも大きく見える。商店街のアーケードに吊られた飾りが背景を賑やかに飾り立てて、それはもう圧巻だった。
「キレイ……」
しばらく我を忘れて見入ってしまう。そうか、子どもの世界ってこんなにキラキラしてるんだ……。
小学生になってだいぶ大きくなったなと思ってたけど、まだまだソラタの背は小さくて、クリスマスはキラキラしてるんだなぁ。
「……そろそろ行こっか。ママ心配してるかも」
セイくんに言われて、私はハッと我に返る。
「そうだ!早く帰らなきゃ!」
ミッションはまだ残っているのだ。
「ちょっとまってて!ママに話してくる!」
セイくんをドアの外に待たせて、私は家に入った。ソラタ(見かけ、私)は……大丈夫、まだ眠ってる。
私は大急ぎで準備を整え、セイくんを迎え入れた。
「おじゃましまーす……」
「どうぞどうぞ!ママね、眠ってるから、しー!ね」
私達は小声で会話する。
「ソラタくん、ケーキはどこに置く?」
「あ、冷蔵庫の中にお願い!」
セイくんが冷蔵庫を開けた。
「……あれっ」
「どうしたの?セイくん」
「ううん、なんでもないよ……」
カサリ、と紙をしまう音がした。
(やった……!)
私は心のなかでガッツポーズをする。
「ねぇ、ママ、お布団に寝かせなくていいの?」
セイくんが、ソファで寝ている私(中身ソラタ)を見つけて言った。
「うん、でもママ起きないし、ベッドのお部屋まで運べないから……」
言い終わる前に、セイくんがひょいっと私の身体を抱き上げた。
「えええええ!ちょ、セイく、重い、やめ、重い重いから!」
抱かれているのは私ではないのに、いや私なんだけど、とにかく動揺しすぎて言葉にならない。
「こんくらい平気だよ。ベッドどっち?」
「こちらで……ございます……」
私は無駄に恐縮しながら寝室のドアを開ける。セイくんは本当になんでもないかのようにベッドに私を横たえて、布団をかぶせた。
「じゃ、僕ちょっと用事があるから、またね」
「あっ……ああ、そっか。もう行っちゃうの?戻ってくる?」
「……うん。たぶん」
「ありがとう!またねー!」
……あーびっくりした。男の子って力、あるんだなー。
セイくんを送り出した私は、気を取り直して冷蔵庫を開けた。
「……よし、指令書はなくなっている」
芝居がかった低い声でつぶやく。
指令書とは、他でもないソラタが書いたサンタさんへの手紙。それから、おもちゃの引換券と、封筒に入った代金。お店の名前は引換券に書いてあるから、この辺りに住んでいる人なら絶対わかる。
――そう。私はイチかバチか、おもちゃのピックアップをセイくんに託したのだ!
(だって、うっかり外に出ている時に元に戻ったら洒落にならないし……)
それにプレゼントをピックアップしてもらっている間、私は料理の仕上げができる。
そう、やることリストの、その4と5。ミートローフとチキンパイをオーブンで焼く。
冷蔵庫で寝かせていたミートローフを取り出して、オーブンにセットする。今回は豪華にゆで玉子入り。玉子大好きなソラタ、喜んでくれるかなぁ……うふふ。想像するだけでにやけちゃう。
オーブンに入れて40分。よし、これでほぼ完璧。
あとはセイくんがサンタよろしくプレゼントを持ってきてくれるのを待つ……だ……け……。
「……はっ……!今、今何時っ!?」
がばっと飛び起きた途端、強烈な頭痛に再び倒れ込む。
「痛っ……たぁー……」
フラフラとリビングに行ってみると。
……ありゃ。ソラタがソファの上で寝てる。
待てよ。てことは。
「……元に、戻っ……た」
え、ちょっと待って。
えーと私、なんで寝ちゃったんだっけ?あ、風邪か。いやいやそうじゃなくって。
そうそう、確かミートローフを……。
私はアンデッドよろしくフラフラとオーブンまで行くと、がちゃりとドアを開けた。
中からは香ばしいいい匂いがふわ~んと。
「おお……焼けておる……」
時計を見ると、午後の五時。窓の外はもうすっかり夜だ。
「……あれ。ちょっと待って。プレゼントは?私、確かセイくんに託して」
そのあとどうなった?
部屋を見渡しても、あの後セイくんが来た気配はない。
「無理……だったのかな……」
ソラタがうーんと伸びをする。そろそろ目覚めるのかもしれない。
「そうだよね……いくらなんでも、甘え過ぎだよね……ほぼ他人、なのに」
今年のクリスマスだけは、サンタさんからのプレゼント、あげたかったな。
ああ、顔が熱い。
きっとこの熱のせいだ。涙が止まらないのは――。
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