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第6章 三帝激突

ウムルの戦い その5

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 ライヒェルト艦隊の後方に位置していた1000隻の艦艇は、司令官の命令により反転するがその間にも次々と撃沈していく。

「犠牲を払っても突進を続けるつもりか。だが、判断が少し遅かったな」

 戦術モニターを見ながら、ヨハンセンはそう呟く。

「閣下! 9時の方向より敵艦隊急速接近! 数はおよそ5000!」
「何だと!?」

 報告を受けたライヒェルトが戦術モニターに視線を向けると、9時の方向から高速で迫ってくる艦隊が映し出されていた。

 それは、麾下の艦隊から巡航艦などの船速の早い艦を引き抜いて編成された艦隊であり、指揮官はリュスである。

「さあ、我が艦隊でこの戦いに勝利を呼び込むぞ!」

 リュスはその美しい凛とした顔を高揚で染めながら、戦闘指揮を開始する。

「全部隊総攻撃! 敵艦隊を討ち滅ぼせ!」

 彼女はそう叫ぶと、麾下の全艦艇に対し一斉砲撃をおこなうように指示する。

 その姿を見た参謀のマルグリット・マルソー准将を含めた女性士官達は、『リュスお姉様、素敵!』と目を輝かせて見つめるのだった。

 リュスは自ら指揮するために旗艦から、近くにいた高速戦艦に移乗して指揮をしている。

 当然、高速艦は旗艦用戦艦より防御力が下がり、撃沈の可能性が上がるのだが、彼女はその危険を顧みず前線で指揮を続けており、<ガリアルム軍のローラン>の異名に恥じない女傑ぶりを発揮していた。

 リュスの艦隊は9時の方向から、前進を続けるライヒェルト艦隊に対して、総攻撃による圧迫を加える。

 再び2方向から攻撃を受けたライヒェルト艦隊は、更に数を減らしていく。
 それでも、徐々にではあるが前進を続けていた。

 彼女の艦隊が追いつけたことは、実に簡単な理由であった。

 ライヒェルト艦隊が戦艦を同行させているため、必然的に速度が落ちるのに対して、高速艦で編成されたリュスの艦隊は高速で行軍していたため、その速度の差で追いついたのである。

 これは、ロイク艦隊が追いついた理由と同じであり、そしてもう一つの艦隊が追いつくのと同じ理由であった。

 ライヒェルトの元に、最後の敵増援の報告が届く。

「閣下! 7時の方向より新たな敵艦隊接近! 数はおよそ5000隻!!」

 それは、ルイが率いるリュス艦隊と同じく高速艦で編成された艦隊であった。

「何… だと… 」

 ライヒェルトは言葉を失う。
 既に戦力差は絶望的であり、仮に今から撤退しても逃げ切れる可能性はほぼない。

 彼の旗艦は、宇宙空間ではよく目立つ白い新型艦<ランペルール(・フランソワーズ)>であるが、元はフランの為に作られた艦なので潤沢な資金で建造されているため、強力な主機関が搭載されており、その船速は高速艦に匹敵するほどで、好守速全てにおいて優れている。

 因みに今回の侵攻の副旗艦でもある。
 ルイは敵艦隊を射程に捉えると、攻撃命令を出す。

「全艦総攻撃開始! 長期戦を考えることはない、全力で攻撃せよ!」

 ルイの艦隊は7時の方向から、前進を続けるライヒェルト艦隊に対して、総攻撃による圧迫を加える。

 ルイとリュスが総攻撃を選択した目的は、短期決戦を狙ってのことであり、その理由は一気に敵戦力を削ることで、敵に精神的圧迫を加えて冷静な判断と戦意を奪い降伏を促すことにある。

 二人の艦隊は高速艦隊とはいえ、戦場まで強行軍で進軍してきたこともあり、エネルギーに余力がなく長期戦が出来ずその為、短時間での決着を狙う必要があった

 この時、ライヒェルトや参謀達が冷静さを保っていれば、その事に気付き防戦に徹して、両艦隊の攻撃限界が来て止まった時に、そこから脱出する機会を得たかもしれない。

 だが、彼らは敵の圧力により精神が圧迫されていたため、冷静な判断ができなくなっていたのだ。

 そもそも、彼らにそのような能力があるならば、今までいくつもあった状況打開の機会を逃さず、このような状況にはならなかったであろう。

 二人の狙いは的中し、僅か数分の間に3方向から攻撃を受けたライヒェルト艦隊は、混乱に陥り次々と艦を失い陣形を保つ事ができずにいた。

「閣下…。我が艦隊は敵の包囲攻撃により半分以上が撃沈され、陣形をズタズタにされ指揮系統も寸断されております。後方に留まっている1000隻も壊滅しかかっており、このまま突撃を続けても突破は厳しいかと…」

 参謀ヴェルレの意見を聞き、ライヒェルトは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるが、現状では打つ手がない事も理解しており、彼は覚悟を決める。

 そして、静かに口を開く。

「敵艦隊に通信を繋げ、降伏する旨を伝えろ」

 ライヒェルトの言葉を聞いた参謀は、すぐに敬礼を行うと前方で対峙するヨハンセン艦隊に連絡を取る。

 ヨハンセンの元に、ライヒェルト艦隊から降伏の意思を伝える通信が入る。

「閣下、どういたしますか?」

 副官クリスの質問に、ヨハンセンはこのように答えた。

「貴官の降伏を受け入れる。ただちに、機関を停止して武装を解除するように伝えてくれ」
「了解しました」

「少佐、あとルイく― ロドリーグ大将に敵の降伏を受諾したと連絡してくれ」
「はい」

 ヨハンセンがルイにそのように連絡したのは、ルイが名ばかりではあるが<副総司令官>としての肩書が与えられていたからである。

 そのため本来なら、降伏の受諾もルイが行うべき事なのだが、今回に限っては臨時にその役目は各艦隊司令官に任されたていたのであった。

「わかりました」

 そう言うとクリスはすぐに行動を開始する。

 両軍の被害は、ガリアルム艦隊の被害は、戦闘に参加した26000隻のうち、撃沈18隻、大破35隻、中破98隻、小破399隻

 露墺艦隊の被害は、戦闘に参加した10000隻のうち、撃沈4761隻、大破506隻、中破2721隻、小破1087隻、降伏925隻であった。

 こうして、ガリアルム艦隊とライヒェルト艦隊による<ウムルの戦い>は、ガリアルム軍の見事な包囲戦により完勝で終結した。
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