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第6章 三帝激突
ウムル戦役開始 その3
しおりを挟む「それでは、我々が近づいたのを察知した敵艦隊が、後退する可能性はありませんか?」
こちらが各個撃破の難しい数で進軍していると敵が知れば、敵艦隊は当然包囲される前に撤退するであろう。
こちらが、何も手を打たなければ…
「だからこそ、ここで先行させた童― アングレーム(ロイク)艦隊の陽動が意味をなしてくるのだ。ヤツとマクスウェル(エドガー)の艦隊が西から、陽動をかければ敵は喰い付くだろう」
ロイク艦隊4000隻とエドガー艦隊3000隻は、高速艦で編成されており、ロイク艦隊はステルス性能を持っているため総数を誤魔化すことができる。
「アングレームが数を少数に見せて、<シュヴァルツヴァルト>方面から陽動を掛ければ、奴らは各個撃破という兵法の基本通り、我らが来る前にヤツの艦隊を撃破しようとするだろう」
ロイクが艦隊数を少なく見せれば、敵は各個撃破できると考えて後退せずに留まるであろう、何故なら彼らの予測では、ガリアルム本隊の到着までにはまだ時間的余裕があり、それまでに撃破して後退すればいいからである。
「ロイクさんが敵を釘付けにしている内に、我々が包囲を完成させると言うわけですね」
「そうだ。敵が目の前の餌に夢中になっている間に、我らは包囲を完成させる」
フランはルイの答えに満足したようで、笑顔でご褒美を与える。
「よし、正解の褒美にシチューのおかわりをやろう」
「あっ… ありがとう… ございます…………」
ルイは彼からすれば、嫌がらせかというシチューのおかわりを、偉大且つ華麗な皇帝様から頂くことになる。
それは、前回の戦いと同じ理由で、彼女のシチューを毎日のように食べているからであった。
だが、シチューを頂かないと黒ロリヤンデレ皇帝様から、刃物を体に頂く事になるかもしれないので、彼は笑顔でシチューを食べることになる。
フラン・ルイ艦隊は、リュクサンブルクから南東に進んでゲルマニア方面に入り、バーデ=ヴィルテンベルク星系惑星シュツットガルトを目指すことになる。
ここからは、敵地であり補給地点は当然無いため、進軍速度は落ちてしまうが、それでもドナウリアが想定している行軍日数を大幅に短縮して進軍していく。
11月28日―
ドナウリアのゲルマニア方面艦隊は、マルク・フォン・ライヒェルト大将率いられて、バーデ=ヴィルテンベルク星系惑星ウムルに到着していた。
「このウムルを中心に偵察艦を出して、索敵を開始せよ」
(まあ、ガリアルムが近づいている筈は無いが、西から1艦隊ぐらい時間稼ぎとして、先遣隊が来ているかも知れない…)
ライヒェルト大将は、索敵のためにウムルを中心として、周囲に偵察艦を派遣し索敵を行なわせる。
翌日の29日に、西の宙域の偵察を担当していた偵察艦が、惑星ロイトリンデン方面に敵艦隊3000隻を発見するがすぐに迎撃艦の襲撃を受けて、それ以上の偵察を断念する。
「3000隻か… 敵の時間稼ぎの先遣部隊だな」
「そうだと思われます」
ライヒェルト大将が、敵の艦隊数を聞いてそう呟くと、参謀も相槌を打つ。
偵察艦が発見した艦隊は、惑星ロイトリンデン宙域からウムル方面に進軍していたエドガー艦隊であった。
ドナウリア艦隊が、ウムルに到着した前日の11月27日、ロイトリンデンに到着していたロイク艦隊は偵察艦を数隻東に派遣しており、その内の一隻が惑星ウムルに敵艦隊を発見する。
「先程偵察艦から惑星ウムルの宙域に、敵艦隊を発見したと偵察艦から報告が入った。エドガー。お前の艦隊は計画通りに東に進んで、こちらに索敵に来ると思われる敵偵察艦を迎撃して、こちらの艦隊の総数を把握させるな」
「了解です」
ロイクの命を受けたエドガー艦隊は、惑星ロイトリンデン宙域から東に向かい行軍するとガス惑星バートウーラ宙域で、先の敵偵察艦を発見して迎撃する事になる。
「閣下。マクスウェル艦隊より、通信が入りました。<惑星バートウーラ宙域で敵偵察艦を発見、敵艦は東に逃走>とのことです」
「そうか。さて、我らも移動を開始するぞ」
ゲンズブールから報告を受けたロイクは、この星の名物である八角の星型のパン<ロイトリンガー・ムッチェル>を食べながら、艦隊に出撃命令を下す。
その頃―
ライヒェルト大将は、参謀達と発見した敵艦隊への対応を協議していた。
「発見した敵艦隊の数は3000隻で、おそらく先遣部隊だと考えられます。その目的は北に居る本隊が到着するまで、我々の侵攻を妨げるための時間稼ぎと思われます」
「敵の目的が時間稼ぎである以上、おそらく敵からは積極的な攻撃は無いと考えられます。例え攻撃を仕掛けて来ても、本格的な攻撃はせず直ぐに退却すると思われます」
「ですが、敵本隊が来る前に各個撃破することが出来れば、その分ガリアルムの戦力を削ることができ、後の戦いで有利となります」
参謀達は、それぞれの推測や意見を述べ、ライヒェルト大将はそれを黙って聞いている。
「敵に我軍が索敵できていない艦隊が居ることも予想されますが、敵の兵力にそれほど余裕は無く我が軍の1万隻を越えることは無いと考えられます」
この参謀の推測通り、ロイク・エドガー艦隊は合わせて7千隻であり、まともに戦えば勝ち目は薄い。
ライヒェルト大将は、方針を決めかねる。
敵を倒すことが出来れば功績となるが、伏兵がいて思わぬ被害が出れば失態となる。
そもそも彼に与えられた主任務は、バイエアン王国占領でありガリアルム迎撃は副次任務である、そのため無理をせずにオソロシーヤ艦隊を待つのが、選択肢としては正しい。
「敵は我が艦隊の陽動に、乗ってくるでしょうか?」
ゲンズブールの疑問は前述の理由から当然であり、敵が危険を冒して陽動に乗ってくるとは考えづらいが、ロイクの推察は少し違っていた。
「敵の司令官と参謀達は、功名心の高い連中だから乗ってくる確率は高いな」
「何故、そう思われますか?」
「本来なら、ウムルにまで来る必要はない。万全を期すなら、バイエアンの首都星でオソロシーヤ艦隊を待つべきだ。それなのに、ウムルまで来たのは功績を立てるためだ。ならば、自分達よりも数が少なく、敵に援軍の可能性が低いこの機会を逃すはずがない。例え罠だと疑っていても… な」
ロイクの推察は敵の心情を看破していた。
「よし、敵の先遣部隊に攻撃を仕掛ける。出撃の準備をせよ!」
ライヒェルト大将は、ミハエル大公へのライバル意識から戦場での功績を求めており、このような決断を下した。
「はっ!!」
そして、部下達も軍人である以上、武勲をあげたい気持ちは同じであり、そのために前進してきたのだから、当然戦うという上官の選択に反対する事はない。
こうして、ウムル戦役最初の戦いの火蓋は、ロイク艦隊が切ることになる。
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