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第6章 三帝激突

ウムル戦役開始 その1

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 宇宙暦1800年11月2日―
 パ=ド=カレイ星系惑星カレイ宙域

 演習に参加する艦隊数はガリアルムが32000隻、エゲレスティアが30000隻となっている。

 宙域には仏英領艦隊が対峙する形で整列しており、フランの旗艦<ブランシュ>にエゲレスティア側の総司令官が連絡艇に乗って、彼女への挨拶に来ていた。

「陛下、お初にお目に掛かります。今回の演習艦隊の総司令官の任を受けたエゲレスティア連合王国軍元帥サイラス・ウッドです」

「わざわざの挨拶ご苦労、ウッド元帥。今回の演習よろしく頼む」

 フランは来客用の部屋に彼を招き、挨拶と明日からの演習の行程を話し合うと内容は、当然大同盟との開戦の話になる。

「我国では、大同盟側は明日の我らの練習中、もしくは練習後に宣戦布告をしてくると予測しておりますが、陛下はどうお考えでしょうか?」

「我軍もそう推察している。そこで、先程の計画通りに明日の演習は、兵士の疲労を抑えながら行うのが良いと思っている」

「了解致しました」

 2人は会議を終えるとウッドは敬礼して、自分の旗艦に戻る。

 宇宙暦1800年11月3日―
 一日目の演習が無事終わり、兵士達の休憩と噴射剤の補給が行われていた。

 そこに本国からの緊急連絡が、オペレーターを通して伝えられる。

「本国より緊急通信! ドナウリア帝国より我が国に向けての宣戦布告の通信が、共通チャンネルで発せられているそうです」

「メインモニターに繋げ」

 報告を受けたクレールは、すぐさまその通信を正面の立体投影モニターに繋げさせる。

 モニターには、ドナウリア帝国皇帝フリッツ2世の宣戦布告の演説が映し出されたが、フランは一目だけ見ると各艦隊司令官に、迎撃の準備を急がせる指示を出す。

「アングレーム大将。貴官は補給を済ませしだい、マクスウェル艦隊を随伴して計画通り直ちに<シュヴァルツヴァルト>方面に進発せよ!」

「了解しました」

 モニター越しに敬礼すると、ロイクは出撃の準備を急がせるために通信を切る。

「両艦隊の補給を優先せよ」

 通信を終えたフランは、ロイクとエドガー艦隊の補給を優先させるように指示を出すと本国経由でワトーとタルデューに事前の計画どおりに、作戦行動するように命令を出す。

 <シュヴァルツヴァルト>方面とは、前回の戦いでヨハンセンとロイクが拠点とした惑星ストラーブールと侵攻した惑星シュヴァルツヴァルトとの間に広がる広大な小惑星帯であり、前回の戦いで激戦を繰り広げた場所である。

 ドナウリアは、今回のガリアルムの侵攻ルートを惑星カレイから東に進軍して、そこから南に進むと想定しており、フランもそのつもりである。

 そのためこのまま侵攻すれば、敵の有利な場所で迎撃を受けてしまう、そこでフランは自軍で足の早いロイクとエドガーの両艦隊を南下させ、前回と同じストラーブールから進攻させて、東から進軍すると思わせる陽動と敵の進軍を遅らせる行動を取るように命じたのであった。

「我が勇敢なる兵士諸君、遂に敵が宣戦布告をしてきた! だが、我らは国民が一丸となり、贅沢を控えこの戦いに備えて物資や艦隊を整えた! 後は、厳しい訓練に耐えた諸君達が、その成果を披露するだけで勝利は自ずと我が国のモノとなるであろう! しかし、油断して戦いに負ければ、この約一年の皆の苦労が無駄になるどころか多くを失うことになる! 私は祖国の繁栄と未来のために、諸君らの奮励努力を期待する!」

 補給中の全艦隊にフランの演説がおこなわれ、美しい支配者の演説を耳にした兵士達は、歓喜の声をあげて士気は大きく高揚した。

(それは、こちらの計画が全て上手く行った時の話だ… 艦隊数では我軍が劣勢なのだから…)

 フランの演説を聞いたヨハンセンは、出撃準備の指示を出した後の休憩中に、紅茶を飲みながら正面モニターに映る宇宙と数万隻の艦船を見ながら、そのような事を考えていた。

 そして、ヨハンセンの悲観的な予想通り、この後ガリアルムは数的劣勢に立たされ、危険な状況に陥ることになる。

 その上、その数的劣勢の矢面に立たされるのが、彼となるのは運命の皮肉と言わざるをえない。

 1時間後、補給を終えたロイクとエドガーの両艦隊は、<シュヴァルツヴァルト>方面に向けて進軍を開始する。

 その2時間後、リュス艦隊、ヨハンセン艦隊、ウィル艦隊が補給を済ませ、東に進路を取り行軍を開始した。

 最後に、ルイ艦隊、フラン艦隊、最後尾にイリス艦隊が惑星カレイ宙域を後にして、ガリアルム軍は全艦隊出撃を果たす。

 その頃、ドナウリアのゲルマニア方面艦隊は、国境沿いから隣国のガリアルム同盟国【バイエアン王国】に侵攻を開始していた。

 そして、北ロマリア国境に待機していたミハエル艦隊も、国境を越えて侵攻を開始している。

 エゲレスティアの艦隊は補給を済ませた後、【スウィードゥン王国】を牽制迎撃するために、前回の戦いで得た東に進軍を開始して【ネイデルラント】に向かう。

 その頃、エゲレスティアの惑星ロンデンでは―

「戦況次第では、君にも予備役から現役復帰を要請することになるかもしれん、少将」
「あら~ そうなんですか~ 」

 宇宙軍大臣ジョニー・ジャイルズから、軍への現役復帰要請があるかもしれないと事前予告の通信を受けていた。

「わかりました~ 準備だけはしておきます~」

 彼女がのんびりとした口調で、そう答えると開戦で忙しい大臣は通信を切る。

(でも~、今回は~ フランソワーズ陛下が敗れない限り~ 私の出番は無いかも~)

 アーサリンは、内心ではそのように推察をしていたが、心のどこかでは戦場に戻ってもいいかも~ という思いもあった。
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