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第5章 Vive L'Empereur(皇帝万歳)

Vive L'Empereur(皇帝万歳) その5

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 親衛隊二名によって担がれ、アーサリンから強制的に引き剥がされたルイは、そのままホテルの一室に連れてこられる。

 室内には椅子に足を組んで座ったフランが待ち構えており、勿論ドアのロックは彼が入室したと同時にロックされている。

「どうだ、オマエも一杯どうだ?」
「いえ、結構です…」

 彼女は笑みを浮かべたままワインを勧めてきたが、ルイが断るとグラスに口をつけて一口飲むと手に持ったグラスをゆっくりと円を描くように動かしながら静かに語りだす。

「ルイ… オマエも性がない奴だな。アレほど<決して他の女に話しかけないこと!>と言っておいたのに… 」

 フランはそこまで言うと手に持ったグラスに再び口につけ、グラスの中のワインを飲み干すと話を続ける。

「よりにもよって、あのゆるふわ女と仲良くするとはな… 困ったやつだな… 」

 彼女はそこまで言うと椅子から立ち上がるが、体が一瞬ふらつき体勢を崩してしまい、ルイは慌てて側に駆け寄りフランの体を支える。

「大丈夫ですか?!」

 ルイが心配そうに尋ねると、彼女の顔が真っ赤であることに気付く。

「ダイジョウブ、ダイジョウブ~」

 そう答えたフランの息は明らかに酒臭く、かなり飲酒しているようで、顔が赤い理由もいつもの羞恥心からではなく泥酔によるモノであった。

 どうやら、来賓者を相手にしている時にかなり飲んだようで、机の上に置いてあるワインボトルを見るとこの部屋で待っている間にも半分飲んでいるため、泥酔に近い状態になっている。

 ルイに体を支えられたフランは、彼の首に両腕を回すと今まで見せたことがない、艶かしい表情で彼に迫ってくる。

「そんなに、あの女がいいのか…? 私では駄目なのか…? オマエが望むなら、ここでそういう事をしても… いいんだぞ?」

 そう言うと、フランは体を密着させて、大人の誘いをしてくる。

「フラン様…」

 ルイがいつもの恋愛中学生と違って、大人の恋愛を迫ってくる事に困惑していると彼女は彼の胸に顔を埋めて体重を預けてくる。

 そして、そのままルイの体に沿って、下にずれ下っていく。

「フラン様!?」

 ルイは咄嗟にフランの脇の下あたりに両腕を入れて、ずれ下がり止める。
 そして、上に引き上がると―

「ZZZ…」

 フランは酩酊状態から、眠りに落ちていた。

「フフ… しょうがない方だ…」

 ルイはフランをお姫様だっこすると、彼女をベッドに寝かせる。

「おやすみなさい、フラン様」

 彼は眠っているフランに、そう語りかけると室内電話からクレールを呼び出して、あとのことを託す事にするとクレールが慌てて部屋にやってくる。

(なるほど… 酒が入って気分が大きくなり、ルイ君との距離を一気に縮めようとして、更に景気づけに飲んで、潰れたわけですか…)

 ルイは大人の誘いの部分を話さなかったが、明敏なクレールはそこまで的を射た推察を行うと、彼に後の世話は自分と女性親衛隊にさせると説明して、自室で休むように伝える。

「あとは、お願いします」 
「あっ ちょっと待ってください」

 ルイが立ち去ろうとするとクレールが呼び止め、顔を近づけて彼にだけ聞こる声で尋ねてくる。

「一応確認しておきますが、陛下とは特に何もしていませんよね?」

 クレールは表情をあまり変えず、冷徹な雰囲気の人物であるが美人ではあるので、顔を近づけられるとルイもドキドキしてしまうが、質問内容だけに間を開けずにすぐにこう答える。

「はい、何もしていません」
「まあ、そうでしょうね。それならいいです」

 酒の勢いとはいえ別にお互い20歳以上なのだから、別に何かあっても構わないのだが、もしそういう関係になっていれば、色々準備をしなければと考えたクレールは一応聞いておくことにした。

 クレールの脳裏には酒の力を借りようとして、飲みすぎて途中で眠ってしまったフランの姿がありありと浮かんでくる。

 彼女はルイに敬礼するとフランが眠る部屋に入っていく。
 こうして、フランの皇帝戴冠式は、無事(?)に終了する。

(アーサリンさん、美人だったな… でも、以前どこかで会ったような気がする… どこだったかな…)

 ベッドに寝転びホテルの天井を見ていると、あの時は緊張で思い出せなかったが、以前どこかで彼女と会っていたという感覚に襲われ、彼はそれがどこだったか思い出そうとするが思い出せない。

(先程のフラン様、少し魅力的だったな… 翌朝二日酔いにならないといいが…)

 そして、思考はアーサリンの事からフランへの心配に移り、ルイはそのまま眠ってしまう。


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