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第5章 Vive L'Empereur(皇帝万歳)

Vive L'Empereur(皇帝万歳) その4

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 アーサリンはフランの許可を得て、疑問に思っていたことを彼女に質問する。

「あの~ どうして、マレンの戦いで~ あのような兵力分散を~ おこなったのですか~。いつもの~ 陛下なら~ あのような愚は冒さないのに~ わざとですか~?」

「!?」

 彼女の質問の内容に<わざと>と入っていた事に、フランは一瞬驚きの表情を浮かべる。

 フランに興味のあるアーサリンは、彼女のこれまでの戦闘の記録を全て研究しており、その中でマレンの戦いの兵力分散は彼女らしくないとずっと思っていた。

 そして、アーサリンなりに推測したのが、単純な判断ミスか態とであった。

 そして、態となら何故かと考えた時、今回の被害によってガリアルムが軍拡に舵を切った事と関係があるのではないかと考える。

 あと、引き返してきた彼女のお気に入りの提督を、活躍させる為ではないかとも推測する。

「アーサリン、流石に失礼だぞ!」

「そうよ! 戦いとは水物なのだから、判断を誤ることもあるわ! それを問い質すなんて、失礼にも程があるわよ!」

「今すぐに陛下に謝罪して、目の前から立ち去れ!」
「陛下~ ごめんなさいです~」

 アーサリンが自分の推察を話そうとすると、今度こそ兄とクレアに大目玉を受けて、二人の勢いに負けた彼女は、フランに謝罪するとそそくさと会場を出ていった。

「陛下、愚妹の度重なる非礼、どうかどうかご容赦を!」

「気にしないでくれ、ウェルティ卿。あのようなミスを見れば、私でもその者に問い詰めるだろう。それほど、あの判断は不味かったからな」

「ですが、陛下はそのあと完璧に近い反撃の指揮をして勝利を収めました。お見事な用兵でした」

 ウェルティ卿の謝罪の後に、クレアもアーサリンの失態のフォローに入りフランをヨイショする。

(あのゆるふわ女… どこまで、気付いているのか…。やはり、只者ではないな…)

 フランは二人に笑顔で対応しながら、心の中ではアーサリンを警戒する事にしていた。

 その数十分後―

 ようやく来賓客の対応を一通り済ませたフランが、休憩しているとクレールが彼女の分の飲み物を持って、労いの言葉を掛けてくる。

「陛下、おつかれまでした」
「ああ… 流石に疲れたな… これなら、戦っている方がまだマシだな」

 珍しく冗談を口にしたフランは、クレールにルイの事を尋ねる。

「ところで、ルイはどこだ?」

「先程までは、ヨハンセン・アングレーム両大将と壁際で退屈そうにしていたのですが、今はいませんね」

 フランは早足で両大将の元に向かうと彼らが一礼した後に、ルイが何処に行ったか問い質す。

「ルイはどこに行った?」

「ルイ君なら、会場の空気にあてられたと言って、中庭で新鮮な空気を吸ってくると言っていました」
「中庭… !!」

 ヨハンセンの返事から中庭の言葉を聞いた瞬間、フランのヤンデレレーダーが激しく反応する。

「嫌な予感がする!」

 フランはクレールに命じて、親衛隊を2名中庭に向かわせて、ルイを確保するように指示を出す。

 その頃ルイは、中庭に来ていた。

 夜空には綺麗な月が昇っており、中庭は月明かりで照らされ、ルイはフランと初めて会った時の事を思い出してしまう。

「フラン様と初めて会ったのも、こんな月明かりの夜の中庭だったな…」

 まあ、ここはホテルの中庭なので、風景が異なるのだが感慨にふけってしまう。

「たしか、あのような木の下にフラン様が… 」

 ルイはそこで中庭に生えている王宮の木より一回り小さな木に目をやると、木の下にいる人物に目を奪われる。

 その月明かりに照らされた女性は、肩より少し長いウェーブミディアムの薄い金に近い茶色の髪で、木の下に座って月を見上げている。

 なにより、ルイの好みのおっとりした穏やかな表情をした美人であった。

(僕の好みのタイプだ…)

 ルイが彼女を眺めているとその視線に気付いたのか、彼女は立ち上がり彼の方に歩いてくる。

 好みの女性が自分に近づいてくるので、ルイが緊張していると女性は彼の前に立ち自己紹介を始める。

「ガリアルム軍の~ ルイ・ロドリーグ大将閣下ですね~。私は~ エゲレスティア軍所属の~ アーサリン・ウェルティと申します~」

 それは会場から逃げるように中庭に来ていたアーサリンで、彼女は夜空の月が綺麗だったので、呑気に眺めていたのであった。

 彼女は自己紹介を終えると握手をするために右手を差し出してくる。

「ガっ ガリアルム軍ルイ・ロドリーグです」

 ルイは緊張のあまり少し反応が遅れて、自己紹介すると右手の掌をズボンで拭いてから、握手に応じる。

(やっ 柔らかい手だ… それに、近くで見ると凄い美人さんだ… 僕より少し年上だろうか? 喋り方が少し間延びしているけど、それを差し引いても素敵な女性だ…)

 初めてフランに会った時もその神秘的な姿に心トキメイたが、アーサリンへのトキメキとは少し違う気がする。

「ロドリーグ閣下の事は~ マレンの戦いの戦闘記録で拝見して以来~ 気になっていました~ 記録には~ あの戦いで~ 負傷したとなっていましたが~ もうお体のほうは~ 大丈夫なのですか~?」

(まず怪我の心配をしてくれるなんて、見た目通りの優しい女性だ…)

 目の前の穏やかそうな女性が、見た目通りの優しい女性だったので、ますます自分のタイプと合致して更にドキドキしてしまう。

「ええ、おかげさまで」

 ルイは緊張で短い言葉でそのように答えると、アーサリンはフランの時のように彼にも聞きたかった事を訪ねてくる。

「閣下にお会いしたら~ お聞きしたい事が~ あったのですが~ よろしいですか~?」
「どうぞ」

 ルイは紳士的な感じでそう答える。

「よくあそこで~ 反転しましたね~ 陛下の命令を無視する事は~ 怖くなかったのですか~?」

「あの兵力では、どのみち何も出来なかったので、引き換えしただけです。それに陛下は自分には寛大な方なので、然程怖さは無かったです」

「陛下と仲がよろしいのですね~」

 アーサリンがのんびりした口調で答えると、それと同時にルイに後ろに親衛隊2名が突然現れ、

「閣下、陛下の命なればご無礼をお許しください」

 そう言って、ルイに断りを入れると左右からそれぞれ彼の脇に腕を入れて持ち上げて、どこかへ連れて行く。

「さよなら~ またお会いしましょう~」

 アーサリンは親衛隊に左右から持ち上げられて、強制連行されるルイに、手を振りながら呑気な口調で別れの挨拶をする。
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