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第5章 Vive L'Empereur(皇帝万歳)

Vive L'Empereur(皇帝万歳) その3

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「これは、ロバート・ウェルティ卿。遠いところから態々の参加痛み入る」

 フランは為政者モードに入ると、ウェルティ卿に対応を始める。

「恐れ入ります、陛下。この度の即位、我が女王に代わり心よりの祝福を申し上げます。我が女王においては、この度の戴冠を己がことの様に喜び心から祝福すると仰せられていました。本来なら自らこの戴冠式に参加したいと願っておいででしたが、何分忙しい身であるため、どうか許して欲しいと仰せつかって参りました」

「女王陛下には、お気使いないように伝えていただきたい。この度、私がこのように無事即位できたのも、女王陛下と貴国の多大な助力があってのこと、女王陛下と貴国には感謝に絶えないと、このフランソワーズが申していたと伝えてくれ」

「その言葉を聞けば、我が女王と国民も大変喜び、我が国と貴国との関係は益々深かまることになるでしょう」

 お互い外交と弁舌の才を持つだけあり、滞りなくお互いを褒め合い讃えあう。

 アーサリンは兄とフランのやり取りを兄の後ろから見ながら、表情は緩いままであったがこう思っていた。

(フランソワーズ陛下って~ 近くで見ると~ まるで~ お人形さんみたいで可愛いわ~)

 彼女はそう考えているとフランと早くお話がしたくなって、兄の背中を突いて自分達を紹介しろと催促を始め、それを見たクレアはとんでもないことをやり始めた親友にギョッとする。

 クレアが<おい、ゆるふわ。オマエ、兄といえ外務大臣相手に、しかも陛下との対談中に正気か?>という目で見る。

 まるで先程のフランとクレールのようなやり取りをおこなおうとするが、相手はアーサリンである、<はやく~ フランソワーズ陛下とお話したいわ~>という目で、彼女はフランを見ており、やり取りは成立しなかった。

 まあ、大方言うべきことは言ったので、ロバートは会話が不自然にならないようなタイミングで、アーサリンとクレアの紹介を始める。

 アーサリンは、二人の会話をちゃんと聞いており、これ以上は実りがないなと判断して、背中を突いていたのであった。

 フランもこれ以上、話す事も正直なかったが、ホスト側から会話を終わらす訳にもいかず、その話題チェンジを渡りに船とばかりに、自己紹介を受け入れる空気を出す。

「陛下。この者は、我が不肖の妹、アーサリン・ウェルティです」

「エゲレスティア連合王国軍少将 白色艦隊第13分艦隊司令官アーサリン・ウェルティです~。陛下~ よろしく、お願いします~」

「陛下、お初にお目にかかり恐縮です。エゲレスティア連合王国軍大佐 白色艦隊第13分艦隊所属のクレア・スウィンフォードです」

 アーサリンとクレアはフランに一礼すると自己紹介を始める。

 フランは表面的には友好的な雰囲気を出しているが、心の中ではアーサリンに対して、猫耳フランが毛を逆立てて威嚇していた。

 そして、アーサリンがフランをもっと近くで見たいと思って、距離を縮めてくると心の中の猫耳フランは、爪を出した手を彼女に向かって上下に振って威嚇している。

「陛下は近くで拝見すると~ お人形さんみたいで~ 可愛いですぅ~~」

「なっ!?」

 この発言に、彼女の兄とクレアは肝を冷やし表情は瞬時に青ざめる。

「陛下、この者のご無礼をお許しください!」
「陛下、どうかご容赦を! アーサリン、オマエからも陛下に謝罪しないか!」 

 ウェルティ卿とクレアが、アーサリンに謝罪するように促すと

「え~ 私は~ 別に陛下のことを~ 悪く言ってないけど~」
「アーサリン!!」

 彼女は悪口を言ったつもりはないので、何故謝罪しないといけないのか不思議がって、謝罪しようとしないので、二人は語気を荒げて謝罪させようとする。

「いや、ウェルティ卿。妹殿の言う通り、私は今の言葉は褒め言葉と受け取っている。まあ、欲を言えば可愛いより美しいと言われたかったがな」

 このように答えたフランではあったが、心の中では呑気に懐いて近寄ってくる<くせっ毛のワンコ>に、必死に両手を振って牽制するニャンコの姿があった。

「陛下のご寛容さに感謝いたします」

 外交問題に発展したかもしれない妹の行動を、許したフランに恐縮しながら謝意を述べる。

 その頃、現実でもエリスが両手でアリスをポクポク叩いていた。

 コミュ障のイリスにとって、このような祝いの席は酒飲んで浮かれる輩が幅を利かせる忌みたる催しであり、そのような者達が絡んでくる前に直ぐに帰りたい場所である。

 即位の祝宴は人数の関係から立食形式のため、乾杯の後は自由に歩き回ることになり、一人居なくなっても気づかれないであろう。

 そう考えたイリスは、乾杯後に会場を抜け出そうとするとアリスに腕を組まれて阻止されてしまう。

 アリスはクレールから、事前にエリスが逃げ出さないように、捕まえておくように言われていたので、姉の腕を組んで拘束すると社交性を爆発させて、離すようにポクポク叩く姉を気にも掛けずに、次々と女性士官に話しかけに行く。

「あの~ 陛下~。お会いしたら~ どうしても~ お聞きしたいことが~ あったのですが~ よろしいですか~?」

「アーサリン、いい加減しないか!」

「いや、貴殿の妹殿は、なかなか興味深い人物だ。ぜひその質問を聞いてみたい。ただし、答えられる質問ならばよいのだが」

 ウェルティ卿はアーサリンの行動を咎めるが、フランはそう言って彼女に質問を許可する。

 それは、この質問次第で彼女の内面をもっと知ることが出来るかもしれないからだ。

 今までのやり取りで、アーサリンは空気を読んでいないような発言をしているが、少なくともフランはルイへの懸念を除けば、彼女に不快感をあまり覚えていない。

 会話が続かなくなって来た所に、新たな会話を生み出したし、自分のことを本当に可愛いと思っているようで好意を持った目で見てくる。

 更に距離を詰めてくるが、不快感を与えない絶妙な距離で止まっている。

(天然に見えるが、実のところは計算されている。この若さで少将なのも納得だな)

 現在のアーサリンへの評価は、このようになっている。
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