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第5章 Vive L'Empereur(皇帝万歳)
戴冠 その4
しおりを挟む叙勲式、翌日―
アーサリンが朝の8時半まで、与えられた官舎のベッドで惰眠を謳歌していると、呼び鈴が鳴りその音で目を覚ます。
どうやら、呼び鈴を鳴らしている人物は連打しているようで、官舎内はけたたましい呼び鈴が鳴り続けている。
そのため、流石のアーサリンも夢の世界から現実に強制復帰させられ、彼女は寝ぼけ眼をこすりながら、年頃の女性らしからぬ寝癖でボサボサの髪のまま壁に設置されたインターホンの受話器を手に取る。
「はい~ こんな朝早くから~ どなた― 」
「こらー! やっぱり、まだ寝っていたな! 朝早くじゃない! もう8時半だぞ!! さっさと起きろ!!」
インターホンの画面に映ったのは、クレアでかなりお怒りの様子であった。
「とにかく、まずはドアのロックを開けなさい!」
アーサリンは、まだ半分お休み状態の脳で言われるがまま、インターホンに備え付けられている遠隔操作ボタンで扉のロックを解錠すると、その瞬間に勢いよく扉が開かれクレアが鬼気迫る表情で入室してくる。
「もう~ クレアったら~ 朝からあんなにピンポンピンポンって、ご近所迷惑よ~」
寝ぼけ気味のアーサリンは、クレアがブチギレていることが理解できずに、そのように注意すると三倍になって返ってくる。
「何を他人事みたいに言っているのよ! アナタが時間通り起きて、外務省庁舎まで来ていれば、私がここまでわざわざ迎えに来ることもなかったし、呼び鈴を連打する必要も無かったのよ! その様子だと、やはり忘れているみたいね! 今朝9時に外務大臣のアナタのお兄様に呼び出されていたでしょうが! 取り敢えずは、寝癖でボサボサのその髪をなんとかしろ! シャワーだ! 眠気覚ましのためにもシャワーを浴びてこい! だが、時間がないから、5分だ! 5分で終わらせろ! 5分経っても入浴を終えなかったら、私がシャワールームから引きずり出すからな!」
「いや~ クレアのエッチ~」
「いいから、早くシャワールームに入れ! このお気楽のんびりゆるふわ女!」
アーサリンは鬼軍曹クレアの指示通り、5分を少し越えてしまったが何とかシャワーを浴びて下着とシャツだけの姿で出てくると、クレアに手伝ってもらって軍服を着用する。
「おい、勲章はどうした?!」
クレアがアーサリンに軍服の上着を着せた時、その胸に輝くはずの勲章が付いていなかった。
「失くしたら~ 困るから~ 机の中に~ 大事にしまってあるわ~」
「アナタは~! もう時間がないから、勲章はいいわ! さあ、外に車を待たせているから、今直ぐ官舎を出て外務省庁舎に行くわよ!」
「えぇ~ クレア~ 朝ご飯は~」
「無い!!」
クレアは朝食なしに抗議するアーサリンの背中を、玄関に向かって押していき、そのまま外務省の車に押し込む。
「そもそも~ お兄様も悪いと思うわ~。私が~ 朝が苦手なのを~ 知っているくせに~ こんな時間に会いに来いって~ 言うんだもの~。配慮が足りないと思うわ~。そんな人が~ 外務大臣なんて~ この国は大丈夫かしら~」
アーサリンは車内で、クレアに自分の朝寝坊を棚に上げて、このようなことを愚痴りだすが
「9時の呼び出しに何ら問題点はない! 全てはアナタが7時に起床できていれば、問題なかった事よ!」
クレアに一刀両断される。
10分遅刻したが財務省に到着した二人は、大臣の部屋の扉をノックして入室を果たす。
「十分遅刻だな。まあ、あの状況から10分だけで済んだのは、スウィンフォード君のお陰だな。やはり、君に任せて正解だった、感謝する」
「閣下、恐縮です」
そう言ってクレアは、自分に労いの言葉を掛けてくれた人物に敬礼して返答した。
その相手こそ、エゲレスティア連合王国の現外務大臣であり、アーサリンの実兄でもあるロバート・ウェルティ卿である。
ロバート・ウェルティはアーサリンの10歳上で、3年の兵役の後に退役して政界に進出し、着々と政界での地位を上り詰め、今年発足したパウエル内閣で外務大臣を拝命することになった。
彼はアーサリンが朝に弱いことを熟知していた為に、8時に彼女に連絡を取ろうとしたが、ぐっすりお休み中だった妹は数回掛けた電話全てに出なかったため、急遽彼女の副官クレアに連絡して起こしに行って貰ったのであった。
「アーサリン、昨日叙勲された勲章はどうした?」
彼も妹の胸に輝くはずの勲章がないことに直ぐに気づき質問するが、クレアが代わりにすぐに返答する。
「失くすと困るため、机に保管しているそうです」
「まったくオマエは…」
その答えを聞いたロバートは、呆れた表情で妹を見ると彼女は眠そうにあくびをしており、更に呆れてしまい首を横に振る。
「まあ、いい…。私も忙しいから、本題に入ろう。二人は、ガリアルムが国号を帝国に変え、その帝位にフランソワーズ殿下が就くのは知っているな?」
「はい、ニュースで知っています。たしか、来月の10日にマトラ星系惑星ランヌのランヌ大聖堂で戴冠式を行うと聞いています」
「そうだ。その戴冠式に女王陛下の名代として参列するために、私が派遣されることも知っているな?」
「はい」
クレアが受け答えしているその隣で、アーサリンはぼっーと立っている。
「私はその随伴員として、君たち二人も同行させることにしたのだ」
「私達が、ですか!?」
「そうだ。あのお方は若いが、軍人としても、政治家としても、非凡な才を持った英才だ。それに君達とも同性であるし、会っておけば今後の役に立つであろう」
兄の言葉を聞いた瞬間、アーサリンからは睡魔は吹き飛び、彼女にしては珍しく真面目な表情になる。
何故ならば、アーサリンは同じ同性の軍人であり、何よりフランのその軍事的才能に興味を持っており、彼女の今迄の戦いの報告を取り寄せては、使用した戦術を研究してその見事さに感嘆の念を覚えていた。
そんな彼女と会えるとなれば、流石のふだんゆるふわな彼女も昂揚感の高まりを抑えることができず、思わずウキウキしてしまう。
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