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第5章 Vive L'Empereur(皇帝万歳)

戴冠 その3

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 8月23日エゲレスティア連合王国首都星ロンデン―

 プルトゥガル王国の同盟離脱及び講和により、任地から帰国していたアーサリン・ウェルティ少将は、昇進は見送られたが今迄と今回の功績によって勲章を与えられることになり、バッティンガム宮殿のある首都に副官のクレア・スウィンフォード大佐を伴ってやって来ていた。

 今回勲章を授与されたのは、彼女以外にはネイデルラント方面で功績を上げたホレス・エリソン大将、その上官であり総司令官ジョニー・ジャイルズ元帥、アーサリンの上官サイラス・ウッド元帥などあと数人いる。

 アーサリンの赤い軍服に、バス勲章がキラリと光る。
 これより彼女は公の場では「サー・アーサリン・ウェルティ」と呼ばれるようになる。

 ―が、親しい者達からはあまりそう呼ばれず、本人も気にしなかった。

 授与式は無事に済み、その後宮殿では叙勲祝賀会と今回の戦役の戦勝式典を兼ねたパーティーが盛大に行われる。

 パーティーの主役は、新領土であるネイデルラントを勝ち取ったネイデルラント方面軍の面々で、特に人が集まっているのはその立役者であるエリソンであった。

 クレアはアーサリンと話をしようと会場を見渡すが、先程まで会場の壁際でつまらなさそうに立っていたアーサリンの姿は今もうそこには無く、会場からも消えていた。

「また、会場を勝手に抜け出したわね…」

 クレアは少し呆れた感じで、そう呟くと彼女を探しに自分も会場を後にする。

「今日はいい天気ね~ お陽様でポカポカだわ~」

 そのアーサリンは宮殿の中庭のベンチに座り、日向ぼっこを楽しんでいた。

 ※惑星ロンデンは、8月が春である。

「あっ あの… お隣よろしいでしょうか?」

 ベンチで日向ぼっこを呑気に楽しむアーサリンは、不意に声をかけられる。

 彼女が声のした左横を見ると、そこにはまるで小動物を連想させる茶色の髪の小柄な少女が立っていた。

 それは、礼服に身を包んだフラン唯一の同年代の親友メアリー・コールフィールドであった。

 彼女はフランの戴冠式まで帰るのを条件に、夏休み(ガリアルムでは季節は夏)として実家であるエゲレスティアに帰省しており、父親に連れられてこの式典に参加していた。

 だが、お酒が飲めない彼女は、会場に漂うアルコールだけで酔った感じになってしまい、その酔いを覚ますために、中庭に休憩に来たのであった。

 そして、そこで幸せそうに日光浴しているアーサリンを見て、自分も一緒にしてみようと思った。

 もし、メアリーが階級章や軍服に詳しくアーサリンが少将という高級士官だとわかっていれば、このような事は考えなかったが、日光浴している姿はどうみても優しそうなお姉さんだったので、思わず声を掛けてしまった。

「はい、どうぞ~」

 アーサリンはのんびりした口調で、予想通り優しい声でそう答える。

「失礼します」

 メアリーはアーサリンの横に腰を掛けると、二人は暫く無言で春の日差しを堪能する。

「あっ あの… お姉さんもパーティーの出席者で、会場を抜け出してきたのですか?」

 メアリーは隣に座る綺麗なお姉さんに、勇気を出して話しかけてみる。

「はい~ そうですよ~。わたしは~ あのような場は苦手だから~ ここに逃げてきたの~。それに~ 会場には~ 口うるさいお兄様と~ 同じく口うるさい友達がいるから~ あまり居たくなかったの~」

 のんびりとした口調で、そう答えるアーサリンを見たメアリーは優しいお姉さんと確信したと同時に、その会話内容から駄目なお姉さんだとも確信した。

 そして、二人がまた日向ぼっこを楽しんでいると

「やっと、見つけた! アーサリン、勝手に会場を抜けるなとあれほど言ったでしょうが!」

 ようやくアーサリンを発見した彼女曰く口うるさい友達が、そう説教しながら近寄ってくる。

「えっ!? アーサリン!? まさか、お姉さんは『サー・アーサリン・ウェルティ』卿ですか?」

「はい、そうですよ~」
「しっ 失礼しました~!」

 メアリーはアーサリンが偉い人と解った途端、緊張してしまいその場から、脱兎のごとく逃げ出してしまった。

「今の娘は?」
「一緒に~ ここで日向ぼっこしていたの~」

「慌てて何処かに言ってしまったけど、急にどうしたのかしら?」

「きっと~ クレアの顔が怖かったのね~ いつも、眉間にこう~ 皺を寄せているから~」

「誰のせいで、皺を寄せていると思っているのよ!」

 クレアはそう言うと、急にどっと疲れてきて、先程までメアリーが座っていた場所に腰を下ろし休憩することにする。

「やはり、今回の主役はエリソン大将ね。ベーブンゲンの戦いで旗艦を損傷し自身も義手を失いながらも敵中央突破を見事に成功させ、会戦の勝利を呼び込んだ。まさに名将だな」

 沈黙に耐えきれなくなったのかクレアは、会場で人々に囲まれたエリソンの姿を思い出しながらそう評する。

 だが、アーサリンは違う評価というか感情を持っているようで、自分の考えを彼女に話す。

「わたしは~ あの方は~ あまり好きではないわ~」
「どうしてよ?」

「だって~ あの方は~ お友達の奥さんと~ 不倫しているのよ~ 名将かもしれないけど~ 私は好きではないわ~」

 アーサリンはエリソンを名将だと評価はしているが、幸せな結婚を夢見る彼女からすれば、不倫している彼のことはどうしても好きになれなかった。

「アナタらしいわね」

 クレアがそう返事をすると、アーサリンからこのようなことを質問される。

「ねえ、クレア~。この勲章って~ 何処かに引っ掛けたりして、失くしたら~ やっぱり、怒られるのかしら~」

「失くした後の事を考えるより、失くさない事を考えろ!」

 クレアはもっともなツッコミを行う。



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