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第5章 Vive L'Empereur(皇帝万歳)

ベーブンゲンの戦い 03

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 ドミトリエフの部隊を策に嵌めて、250隻の被害を与えたが数的有利は未だ露墺艦隊にある。

 だが、この策の一番の狙いは露墺艦隊に仏英艦隊の前線が崩れた時、

 これは敗走なのか?
 罠なのか?

 このまま押し込んでいいのか?
 様子を見るべきなのか?

 このように判断を迷わせるためで、大抵の場合被害を恐れて<様子を見る>となる。
 そうなれば、その間に仏英艦隊は崩れた前線を立て直す事ができる。

「敵のこの心理を利用すれば、上手く補給をすることが出来るかもしれないな」

 ヨハンセンは、補給が間に合わなくなった一部隊を崩壊したように後退させ、敵が様子を窺っている内に射程外の後方まで待機させると、補給をある程度済ませてから前線に復帰させるという方法を取り始める。

 そして、仏英艦隊はあちこちでそれを行い、維持できなくなりつつあった戦線を立て直し始め、疑心暗鬼にかかっている露墺艦隊は暫くそれを黙って見ているしか無かった。

 だが、露墺艦隊の司令官の中から、<どうせ動けないなら、こちらも補給しよう>と考えた者が、対面している自部隊を同じように後方に下げて補給させるという者が現れ、露墺艦隊にもそれが広がっていく。

 だが、先に補給を始めた仏英艦隊が、露墺艦隊よりいち早く継戦能力を取り戻すと一気に攻勢を強め、露墺艦隊は補給を終えていない部隊から徐々に撃破され後退を始める。

 そして、その攻勢を更に強めるためか、エリソンの予備戦力から両翼に500隻ずつ送られる。

 それを見たコルスノフ大将は、すぐさま自軍予備戦力から両翼に500隻ずつ送り込むが、参謀のマトヴェーエフ少将はある危惧を進言する。

「閣下、あまり予備戦力を送っては、中央の戦力が薄くなってしまいます。ここを敵の中央部隊が突撃突破を試みれば…」

 現在露墺艦隊中央の戦力は2000隻と現象しているため、中央突破を受ければ突破を許すかもしれない。

「だが、敵の中央も同じく2000隻だ。同じ2000隻なら、突撃を防ぐことは不可能では無いし、何より同戦力で正面突撃などすれば、敵も相当な被害が出る。それでは、突破を成功させ背後に回ったとしても、大した驚異にはならん」

 コルスノフ大将の言う通り、同兵力で待ち構えている敵に突撃しても、突破する前に被害を受けるのは目に見えており、突撃を指揮するエリソンも只では済まないであろう。

 エリソンが突撃部隊の直接指揮をしなかった場合、安全な場所から突撃を命じる者の命令を受けた兵士達の士気が上がるわけもなく、突撃は失敗に終わる可能性は高い。

 これらのことから、コルスノフ大将は敵の中央突破は無いと判断し、マトヴェーエフ少将もその通りだと考え意見を引っ込める。

 だが、コルスノフ大将は2つのミスを犯してしまう。

「よし、期は熟した! これより、我が中央艦隊は突撃を敢行する!」

 まずひとつ目は、エリソン中将が自らの危険を顧みない勇気を備えた闘将であったこと

「突撃の前に、兵士達を鼓舞なさいますか?」

 副官のパーカーが司令官に尋ねるが、エリソンは決意を決めた顔でこう答える。

「そのようなモノは必要ない。我が旗艦が先行して突撃すれば、それが兵士達の士気高揚に繋がる」

 エリソンはモニターを見つめながら、そう答えた後左手を顎にあて暫く考えるとこう指示を出す。

「次のような発光信号を出しながら突撃する」

 開戦から1時間20分―

 旗艦『ヴァンガード』率いるエゲレスティアの中央艦隊は、オソロシーヤの中央艦隊目指して突撃を開始する。

 その目的は、中央突破からの背面挟撃である。

 突撃する旗艦『ヴァンガード』からは、このような発光信号が味方に向けて、発せられている。

【エゲレスティアは各員がその義務を尽くすことを期待する】

 その信号の伝わった艦からは

「今さら言われなくても義務は果たしている」

 と不満の声を漏らす者もいた。

 だが、大半の兵士達は歓声を挙げて、士気を大きく挙げることに成功する。

 大勢の兵士達が士気を挙げたのは、この発光信号の内容もあるが、何より旗艦が、司令官が危険を顧みずに前方で突撃しているからである。

「ついに始まったか。突撃を援護するためにも、攻勢を緩めるな!」

 その突撃をモニターで見ていたロイクは、直ぐに麾下の艦隊に指示を出す。
 そして、他の司令官も同様の指示を出していた。

 その理由は、彼らが攻勢を加え続け、対峙する艦隊に圧力を掛け続ければ、敵はそれを支えるのに手一杯になって、中央に援軍を送る余裕が無くなるからである。

「げっ 迎撃せよ!!」

 コルスノフ大将は、無いと考えていた中央突撃を目の当たりにして、心の中で焦りながらも突撃してくるエリソン艦隊が射程距離に入ると迎撃命令を下す。

「愚か者め… 同数での突撃など上手くいくものか!」

 命令を出した彼は、焦りと不安を消すために一人そう呟く。

 だが、ここで2つ目の予想外の事が起こる。

 突撃艦隊が味方の前線艦隊の横を通り過ぎた時、両翼に最後に送った500隻合計1000隻の艦が合流したのである。

 この1000隻は両翼で攻撃には参加しておらず、この突撃のために戦闘能力を温存していた。

 そのため、両翼は更なる数的不利を抱えて戦っていたが、優秀な司令官の指揮のもと何とか攻勢を維持して、敵に圧力を掛け続けている。

 だが、この攻勢を維持することは不可能で、エリソンの突撃が一刻でも早く成功しなければ、逆に全面敗走することになるのは仏英艦隊であろう。

 合計3000隻となったエリソンの中央突撃艦隊ではあったが、コルスノフ大将の2000隻の猛迎撃を受けていた。

 大量に飛んでくるビームの中をヴァンガードは、その義務を尽くすため突き進む。


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